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少しの失敗で殴られ鼻血止まらず「大人になり耳鼻科で骨折が…」 五輪を夢見た女性スイマー「怒ってはいけない大会」に託した願い

THE ANSWER / 2024年11月24日 8時53分

「監督が怒ってはいけない水泳大会」を企画した元競泳日本代表・竹村幸さん【写真:本人提供】

■「監督が怒ってはいけない水泳大会」企画者の競泳元日本代表・竹村幸さんが綴る思い

 子どもたちが「怒られるかもしれない」と怯えることのない未来を願って。その思いから9月、「監督が怒ってはいけない水泳大会」を東京・立川で初めて開催した。

 この大会は元々、バレーボール元日本代表の益子直美さんが、バレーボール大会としてスタート。子どもたちがのびのびとプレーすることに主眼を置き、監督やコーチが怒ることを禁止している。

 現役時代、指導者からの激しい叱責に悩んだという。そんな益子さんは、子どもたちの未来のために、この活動を10年間継続。そして、私自身も幼少期に毎日怒鳴られた経験がある。


イベントにはバレーボール元日本代表の益子直美さんらオリパラの選手たちも参加した【写真:本人提供】

 私の競技生活はまさに「怒られるかもしれない」という恐怖との戦いだった。小学生に始まり、中学でも日々、ビクビクしていた。大人になり、怒られることがなくなってからも、トラウマとしてその影響は残り続けた。

 この大会を益子さんが開催しているニュースを目にしたのは、そんな悩みを抱えていた現役時代だった。「自分だけじゃなかった」と安堵したのを覚えている。競技を引退後、益子さんのサポートで「監督が怒ってはいけないバレーボール大会」に参加。大会で見た子どもたちの笑顔に胸を打たれた。

 私のように悩む選手が一人でも減り、意欲的に競技を続ける選手が増えてほしい。その思いで、水泳大会の開催を決めた。


大人になり耳鼻科にかかった際に鼻の骨折を知らされたという竹村さん【写真:本人提供】

■「少しでも油断したら、また殴られる」 大人になって知った事実

 私が本格的に水泳を始めたのは、小学校低学年。私は比較的早い段階で、トップクラスのコーチに指導される機会を得た。

 そのクラスは特に厳しく、少しの失敗でも怒鳴られ、時には殴られることもあった。鼻血が止まらない日もあり、「少しでも油断したら、また殴られる」――そんなプレッシャーの中で練習に通い、毎日プールに向かう時間になると自然に涙がこぼれた。

「期待されているからこそ怒られるんだ」と自分に言い聞かせ、状況を正当化しながら耐えたが、次第に自己肯定感や成長意欲が失われていった。不安ばかりが頭をよぎり、ポジティブなことを考えるより「自分には出来ないんじゃないか?」「水泳選手として向いていないんじゃないか?」と悪い考えが頭を巡るようになっていった。

 大人になり、花粉症で耳鼻科にかかったときのことだった。医師から「鼻血が止まらなかったことはありませんでしたか?」と尋ねられた。

 なぜ、そんなことを聞くのかと思っていたら、鼻を骨折した跡がある、という。その言葉で、私は初めて幼少期に殴られた時、鼻の骨が折れていたことを知ったのである。あの日の出来事が鮮明に蘇り、怪我の深刻さを大人になってようやく理解した。

 怒られながら続けてきた水泳は、「やらされるもの」という意識として私の中に深く刻まれていた。それでも「五輪に出たい」という強い思いと、「今すぐにでも逃げ出したい」という気持ちの間で当時は葛藤していた。

 試合に向かう前にも「怒られたらどうしよう」という気持ちが拭えないままレースに向かうこともあった。そんな思いが頭をよぎる自分は、「自分には競技は向いていないのではないか?」と悩んだことも少なくない。

 揺れる気持ちの中で、私は何を得たのか。現役生活が終わるまで、私はその答えを問い続けていた気がする。


竹村さんはこのイベントを通してスポーツの力が次世代に与える影響を改めて実感したという【写真:本人提供】

■怒られてきた経験があるからこそ、伝えられること

 幼少期に受けた厳しい指導は、当時の私を苦しめていたことに間違いはない。しかし今だからこそ、その経験を通じて伝えられることがあると感じている。

 自分の過去の痛みを理解することで、他者の苦しみにも敏感になれた。例えば、同じように厳しい指導を受けている選手の姿を見ると、私は当時の自分を思い出す。彼らがどれほどのプレッシャーを感じているのか、どのような不安を抱えているのかを感じ取ることができて心が苦しくなることも少なくない。

 これらの経験は、私自身の成長の一部であり、他者への指導やサポートに役立つ貴重な資源となっている。過去を新たな視点で捉え直し、改めて学べることがあると気づいたのである。

 また、自分の一言が選手や他の人々の人生に大きな影響を与える可能性があると強く実感している。その責任の重さを自覚し、慎重に言葉を選び、選手たちに寄り添って向き合うことが大切であると感じる。

 もちろん厳しい声かけが時には必要である。しかしその一方で、寄り添うことの重要性を忘れてはならない。選手たちが安心して自分を表現できる場所があることを願っている。

 今回、初めて「監督が怒ってはいけない水泳大会」を開催することが出来たが、ゲストアスリートにパラリンピックとオリンピックの選手が登壇してくれた。アスリートとのふれあいを通して子どもたちに新たな挑戦をする意欲を提供できたことは、子どもたちの心に残ったことと思う。

 この大会を通して、スポーツの持つ力、そしてその力が次世代に与える影響を改めて感じている。これからもこの思いを大切にし、子どもたちや選手たちのためにより良い環境を整え、サポートしていきたい。(竹村 幸 / Miyuki Takemura)

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