侍J撃破・台湾の“南場オーナー”が描く日台野球交流の未来 DeNAから「インスピレーションを」
THE ANSWER / 2024年11月25日 15時13分
■台湾プロ野球「富邦」の女性球団社長、陳昭如さんに聞く
野球の国際大会「ラグザス presents 第3回 WBSC プレミア12」で話題となったのが、初優勝を果たした台湾の野球熱だ。代表チームは台北で行われたオープニングラウンドを4勝1敗で勝ち抜き、スーパーラウンドに進出。決勝で日本を下すまで、多くのファンが東京ドームで大声援を送った。今後、日台の野球交流はどのような方向へ進むのか。キーマンとなりそうな女性に話を聞くことができた。(取材、文=THE ANSWER編集部、羽鳥慶太)
台北ドームで行われた台湾―日本戦の試合前、台湾ベンチ前で青いユニホームをまとい、選手を優しげに見守る女性が目に入った。台湾プロ野球(CPBL)の富邦ガーディアンズの運営企業、富邦育楽の総経理(社長に相当)の陳昭如さんだ。頭の中でダブったのは、今季日本一に輝いたDeNAの南場智子オーナーの姿。失礼を承知で聞いてみた。南場オーナーに似ていると言われること、ありませんか――。
「ありますよ! 南場さんのDeNAも(富邦と同じ)青いカラーの球団ですよね。国際スカウトの方に言われます。多くの日本のスカウトの方から、南場オーナーとお知り合いになられては? と言われます」
陳昭如さんは以前、球団の親会社の富邦フィナンシャルホールディングスで、CHRO(最高人事責任者)兼スポークパーソンを務めていた。金融畑からスポーツビジネスの世界に移ってきたのだ。「ここ数年、ガーディアンズの成績は芳しくありませんから、日本一になったDeNAさんからインスピレーションを受けたいです。チャンピオンは我々も目指しているところですから」。球団と台湾球界の発展のために広げていきたいのが、日本球界との交流だ。
まず求めているのは、グラウンドレベルの人材だ。今季、富邦では元日本ハムの稲田直人氏が内野守備担当のコーチを務めたが、「日本人指導者や日本でプレーした選手、指導者の力が必要だと思っています」と言う。このオフにはかつて阪神でプレーし、台湾に戻って中信兄弟の監督も務めた林威助氏が、副GM兼ファームディレクターに就任。自前での選手育成を重視したいという意志の表れだ。ここに日本の指導力を借りたいのだという。
さらに、台湾から見た日本球界について「指導者、選手、球団運営など、テクニカル的な部分で日本プロ野球は一流で、我々にとってベンチマークとなる存在です」と口にする。強化と球団経営の両面で、まだ学ぶことが多いという。
「台湾と日本は非常に友好的で、台湾のファンも日本のファンと同様に野球に熱狂しています」。野球熱は、今回のプレミア12で証明された通り。この熱を来季にどうつなげるか、知恵を絞る日々が始まる。
■日本ハムと指導者やチアが交流「日本の皆さんに観戦してほしい」
すでに取り組みは始まっている。富邦は昨秋と今夏、プレミア12でも代表の打撃コーチを務めた高国輝氏を日本ハムに派遣し、コーチ研修を受けさせた。今後も球団同士の友好関係を発展させたいと願っている。その際に是非学びたいと思っているのが本拠地球場の運営、集客ノウハウだ。
「エスコンフィールドは試合のない日でもたくさんの人たちが訪問していますよね。台湾でも広く知られ、たくさんの人たちが球場を訪れてその体験をシェアしています。我々もマーケティングにおける交流を通じ、台湾に旅行で来られる日本の皆さんに、台湾プロ野球を観戦していただきたいと思っているんです」
富邦が本拠地とする台北郊外の新荘球場には今季、日本ハムの「ファイターズガール」が訪れ、人気の台湾チアとの交流も実現した。
「来年も日本ハムさんの春秋のキャンプに、指導者や若手選手を送りたいと思います。台湾と日本の交流は近年ますます盛んになっています。将来的には両球団の交流試合を、台北ならば例えば台北ドームで、もしくは春季キャンプの時期に、私たちのキャンプ地である嘉義、あるいは日本ハムさんのキャンプ地・沖縄で行う、そんな交流を行えたらいいなと思っています」
野球の集客力は、他のスポーツと比べても高い。選手だけでなくファンが互いの国を行き来することで、新たな価値が生まれることもある。
ユニホームに野球帽といういで立ちからわかるように、陳昭如さん自身が野球ファン。「台湾にとって野球は、ナショナルスポーツですからね。私が子どもの頃は国際大会を見ていました。その後王建民がMLBで大活躍した時代があり、私の子どももMLBやNPBのファンです」。代表や選手の海外での健闘が、国内の野球熱に直結することを感覚的に知っている。
昨季は台北ドームの開業もあり、過去にない人気を呈している台湾プロ野球。今回の世界一は、その熱にさらに薪をくべることになる。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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