“超速”第2次エディージャパン1年目の検証 「世界トップ4と差が…」4勝7敗、4つの苦戦の理由と強化戦略の考察
THE ANSWER / 2024年12月5日 17時3分
■「超速ラグビー」を掲げて9年ぶりに復帰したエディー・ジョーンズHC
ラグビー日本代表は秋のヨーロッパ遠征を終えて11月26日に帰国。9年ぶりに復帰したエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ体制での1シーズン目を終えた。「超速ラグビー」を掲げて挑んだシーズンだったが、ツアー最終戦となった同24日(日本時間25日)のイングランド代表戦は14-59と完敗に終わり、テストマッチは通算4勝7敗と厳しい結果に終わった。27年の次回ワールドカップ(W杯)で目指す19年大会以来のトップ8奪還は出来るのか。大敗で終わったイングランド戦、そしてシーズンを通して見えてきた第2次エディージャパンが勝つための課題、そして強化戦略を考える。(取材・文=吉田 宏)
◇ ◇ ◇
トゥイッケナムでの大敗から2日。帰国した東京・羽田空港でエディーが報道陣に対しての総括ブリーフィングを行い、試練のシーズンを振り返った。
「1年間を振り返って明らかなのは、世界トップ4のチームと我々の間にはギャップがあるということです。しかし、イングランド戦やフランス戦のような厳しい試合を重ねることが、我々には必要な経験です。50点差をつけられたことも、こうした経験、学ぶことでしか強くなることは出来ません。今後のチャレンジとしては、選手たちがいかに早く学ぶことが出来るかに尽きると思います」
今季テストマッチ11試合の平均得点27、失点39.5という数字が苦闘を物語る。対戦相手の世界ランキングを見ても、勝てた相手は同等ないしは下位チームで占められ、世界トップ10クラスには完敗続きで歯が立たないのが現在の実力だ。チームが掲げた「超速」というアタックを重視したスタイルでの得点力不足、そしてテストマッチでは容易に勝てない程の大量失点と、攻守に課題を残したままシーズンを終えた。
ファン心理を考えれば、勝てないチームへの落胆や苛立ちもあるだろう。期待する結果が出ないことへの不満もあれば、ゲーム、プレーの質が上がってこないことへの憤りもあるはずだ。その一方で、勝てない現況だけを論うだけでいいのかという疑問も浮かぶ。ブリーフィングの席で、エディーは報道陣にこんな言葉を投げかけている。
「皆さん、いかがでしょうか。イングランド、フランスに簡単に勝てると考えていたのでしょうか。現実的にならないといけません」
エディー自身がどんな強豪相手にも戦前は常に「勝つ」と言い続けてきたことを踏まえれば矛盾しているという解釈も成り立つ。だが、ラグビーの取材を続けている者なら誰でも理解しているはずだが、トップレベルのテストマッチで「勝てない」「勝たない」と話す指導者も選手もいない。字義通りの勝ち負けという話なら不誠実な発言だという理屈もあるが、どんな強豪相手でも、「いい試合をしたい」ではなく本気で勝つ決意が無いままテストマッチを戦う意味はない。ラグビーのチーム強化の観点からは、やはり指導者は「勝つための試合」をチームに求めるはずだ。
同時に、第2次エディージャパンが始動して、幾度かのメンバーの入れ替えが行われる中で、その顔ぶれと指揮官自身の発言からは通常の世代交代以上に大きく若手起用に舵を切っているのは明らかだ。2023年W杯のチームから日本代表は急速に戦闘力を下げているが、昨年までの平均30歳というメンバーを27年まで引っ張るのは不可能だ。新チームの初陣となった6月のイングランド戦の先発メンバーの総キャップ数169は、1人平均11.3キャップという若さだった。先発FLリーチマイケル(東芝ブレイブルーパス東京)の84キャップを差し引くと、さらに経験値の低い編成だったことが判る。
W杯で決勝を争うレベルでは総キャップ数600以上の経験値が必要ともいわれる中で、この布陣で世界のトップ10クラスの国と互角に渡り合うためには、1シーズンでは済まないほどの時間と経験値が必要なことは、少なくとも我々報道陣も含めて近くでチームを見続けてきた者なら理解していたはずだ。若いチームが1試合ごとにどんな成長を見せるのかという期待感はあった一方で、選手には失礼だが、わずか1シーズンの中で、今季対戦してきたイングランド、ニュージーランドら強豪勢と接戦を演じるほど急速に進化出来るとは到底思えないのも、チーム始動の段階から想定内だっただろう。
試合ごとにチームの仕上がり具合が乱高下している不安定さはある。イングランド戦後のCTB梶村祐介(横浜キヤノンイーグルス)の言葉からは、選手にも困惑、不安があることも読み取れる。
「(イングランド戦を含めたここまでの試合で)ディフェンスでは、正直どこでボールを奪うかというプランがあまりなくて、相手のエラー待ちになっているところがある。ディフェンスでゴールが見えないと感じています。自分たちで感じているところは色々あってコーチにも話しているが、(コーチから)降りてきたものでプレーしている感じです」
帰国した羽田空港で会見したエディー・ジョーンズHC【写真:吉田宏】
■試合を見ていて挙げられる4つの苦戦の理由と背景にある課題
最終戦では、イングランドの出足の速いハイプレッシャーディフェンスを意識して、相手の防御ラインの裏側にショートパントを蹴る戦術を用意したが、逆にカウンターで攻め込まれるシーンも目立った。梶村は「相手の裏のスペースを取りたいというコーチの意図は選手に降りてきていました。でもここまではコンテストキックを蹴らない方針だったので、予定したほど上手くプレーできなかった。逆にイングランドのアウトサイドにはスペースはあるなとは感じていたので、もっと早い段階で反映出来れば良かった。ゲームプランはどの試合も変更は無くて同じような展開が続いてきたという感覚なので、もっと修正して臨めたのにという感じはしました」と指摘している。チーム内での選手―コーチ間のコミュニケーションや、ゲームプランの熟成などが不十分だったことは認めざるを得ないだろう。
梶村の指摘も含めて、シーズンスタートから勝てない要因は大きく変わりはない。過去の代表戦ごとのコラムでも触れてきたことの繰り返しになるが、ゲームを見ると下記のような苦戦の理由が挙げられる。
○チャンス時を中心とした攻め急ぎなどプレー精度の低さ
○組織としての連動性の低さ
○試合展開を読む能力の不足
○フィジカリティー不足
イングランド戦でも、これらの項目は露わになっている。精度の低さを見ると、開始5分のキックカウンターからの速い展開で攻撃の勢いを作ったにも関わらず、3次フェーズでのパスの乱れでチャンスに結び付けられなかった。直後の中盤左展開から数的優位な状況に持ち込んだが、イージーなキックでボールを相手に渡してしまっている。ここでは、キックを選んだ選手の判断も然りだが、周囲からパスで攻める指示があったのかも検証する必要がある。ゲーム展開の読みと、組織としての連動性が問われるだろう。
防御をみると、前半9分にイングランドが見せた右展開からの初トライは、日本の防御ラインを崩した相手BKにNo8ベン・アールが好判断のサポートランでマークしたものだったが、防御する日本の選手たちはボールばかりを追ってしまい、組織的としてサポート選手をマークするようなポジショニングが十分には出来ていなかった。この状況から読み取れるのも、個々の選手の状況を読む判断力の不十分さと、組織として、このような状況でどう動くのか、どの位置の選手が何をケアして備えるのかという事前段階のインプット不足だ。
フィジカルに関しては、エディーがブリーフィングで「この12か月のラグビーを見ると、競技性が大きく変化していると思える。ヨーロッパのラグビーでは、ブレークダウンでの激しさ、空中戦の激しさが重要で、我々には今後の課題になる」と指摘したように、接点での個々の強さももちろんだが、イングランドのようにフィジカルで優位なチームですら、ボール保持者を孤立させず、タックルを受けた瞬間に2人目、3人目がラックを形成する素早さも入念に準備しているのが、このゲームで何度も見られた。
そして、上記4項目の背景にある課題も明白だろう。
○新しいコンセプト(超速)の熟成不足
○若手選手、および選手の頻繁な入れ替わりによる経験値不足
○ゲームをコントロールするリーダーの不足
すべて「経験値」という言葉に集約できるかも知れないが、世界トップ5クラスの強豪との戦いが続いた中で、相手選手と戦況を読む判断力に差が歴然だったのは認めざるを得ない。ゲームを広い視野や自身の経験値を生かして見渡し、ボールを持っていない選手がどうポジショニングを取るべきか、次の展開にどう備えるべきかをチーム全員に共有させるような判断力やリーダーシップが不十分だったことは明らかだ。
今季の代表戦を取材する度に頭に浮かぶ言葉がある。「時間」だ。多くの方が認識しているように、チームがトップ10クラスの強豪と互角ないしそれ以上のゲームをするためには、やはり選手のフィジカル、経験値を上げ、チームプランを一定の精度で遂行するための準備時間が必要だ。エディーは「これからの3年間でチームの能力を積み上げていく自信はある」と2027年W杯までの強化に自信を示す一方で、「(上位チームに)勝つのがいつになるのかと聞かれれば、1年かかるのか2年なのかW杯までかは、世界のどんな指導者でも約束は出来ない」と先行きの困難さも滲ませる。
日本が世界の上位チームと渡り合うために必要となるゲームメーカーの存在【写真:ロイター】
■日本が世界の上位チームと渡り合うために必要なゲームメーカーの存在
そして、日本代表が上位チームと渡り合えるようになるには、やはりゲームメーカーの存在は重要だろう。司令塔に位置付けられるSOについては、2023年W杯の主力だった松田力也(トヨタヴェルブリッツ)が前半戦で代表を離れ、今季主戦SOとしてプレーしてきた李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)も9月に負傷離脱、代わりに10番を背負った立川理道(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)もフランス戦の怪我で帰国の途に就き、最後はCTBニコラス・マクカラン(トヨタヴェルブリッツ)に10番を託して急場を凌いだ。
シーズンの仕上げとなる段階で10番を固定できなかったことに関して、帰国したエディーは「現在、李が一番の10番で、その下の選手がいない状態です。今後は大学生も見ていきたい。来季のシーズン終了までには10番として有望な選手3人を揃えたい」と語っているが、戦況を見渡し、ゲームをオーガナイズ出来る統制力を持つSOの人材不足は明らかだ。李が代表戦で経験値を積んでいたことは認めるとしても、失点に繋がるような不用意なキックを選択するなど、テストラグビーの司令塔としてはまだまだ乗り越えなければならない課題があるのも現実だ。現状の司令塔不足、経験値の低さを考えれば、個人的には2019年大会で活躍した田村優(横浜キヤノンイーグルス)のような経験値の高いSOが求められるが、世代交代を推進する指揮官は若手起用を重視してきた。
エディーが進める若手への投資という面でも、一貫性に疑問が浮かぶような選考もみえた。エディーは今年2月の代表トレーニングスコッド合宿では伊藤耕太郎(当時明大在籍中、現リコーブラックラムズ東京)を選んでいたが、10月には伊藤ではなく同じBR東京の中楠一期を呼び、その後11月に立川の代役として再び伊藤を招集している。選手自身も困惑するようなセレクションには、チーム首脳陣がいまだに選手選考に苦悩していることも感じさせたが、日本の司令塔の枯渇ぶりをよく示してもいる。大半の国内チームが積極的に外国人SOを起用することも影響して、国内リーグで日本人司令塔はプレー機会を減らしている。もちろん、今後日本代表資格を得るだろうアイザック・ルーカス(BR東京)、W杯直前の認定になる見通しのジェームス・グレイソン(三菱重工相模原ダイナボアーズ)らの海外勢の招集も検討材料ではあるが、田村同様に、若手、日本選手を重用したい指揮官がどんな判断をしてくかも注目される。
このようなSOの人選は、日本代表のセレクションも含めた強化の縮図のようにも受け止めることが出来る。先に挙げたBR東京の若手SO2人は、おそらく遠征の中で、まだテストマッチで司令塔を担うには時間、実力不足という評価だったのだろう。実戦で起用できない選手を遠征に呼ぶべきなのかという疑問も浮かぶだろうが、個人的な意見とお断りしておくが、伊藤に関しては昨秋にW杯でも実戦投入がなくても“第三の10番”として選ぶ価値がある才能の持ち主だと考えていた。2人の選手が未だに“投資レベル“だったことは議論の余地はあるが、エディーの唱える育成の重要性を踏まえれば、実戦で起用しないメンバーが遠征に帯同してもいいはずだ。
その一方で、テストマッチで経験者から若手までを幅広く起用していくことには難しい一面もある。一言で表現すれば、やはり「時間の問題」があるからだ。エディーは総括ブリーフィングでも「経験はスーパーマーケットでパッと買えるものではありません。ここで多大な投資をする時期だと思っています。今は未来に対して投資をしている段階です」と若いメンバーの経験値を上げていくこと、その投資の重要さを力説している。だが、多くの選手がテストマッチで実戦経験を積み上げる時間は限られている。今回のヨーロッパ遠征で日本代表の選手たちに与えられたプレー時間は3試合、240分に過ぎない。その時間を個々の選手が分け合ったわけだが、同じパイをより多くの選手が分け合えば、当然個々の取り分は少なくなる。
限られたパイをより多くの選手に分けるための改善策として真剣に検討するべきことは、これまでのコラムの繰り返しにはなるが「セカンドチーム」の充実だろう。SOで例えれば、遠征では立川、松永とCTBが本職のマクカランがパイを分け合い、中楠、伊藤は実戦という分け前にはありつけなかった。このような状況はSO以外のポジションでも起きているのだが、より多くの選手が経験値を上げていくためには、テストマッチという最上級のパイではなくても、日本代表に準じるチーム、いわゆるセカンドチームを編成して新たなパイを創り出すべきだろう。
新たに1つパイを作ること、つまり正代表と同時にセカンドチームを創ることで試合数=プレータイムを増やし、世代交代の最中に置かれる若い選手の経験値を上積みしていくことが出来る。代表チームだけで選手を成長させていくのが従来の強化だとすれば、すこし裏ワザを導入しなければ、上位国、強化を加速するチームに追い付き、対抗してゆくのは容易ではないだろう。
すでに強豪国の多くがテストマッチ以外のパイを作り始めている。詳細は過去のコラムを参照していただきたいが、例えば今秋のニュージーランドが正代表と同時進行で「ニュージーランドXV」を編成してヨーロッパ遠征をしているように、日本よりも上位、同等クラスの国が代表メンバー以外の選手でチームを作り強化に取り組んでいる。2027年やその先にリターンを得るために、投資をテコ入れしているのだ。そこを日本は、エディーが単一のチーム(日本代表)で取り組んでいるのが実情だ。総括会見でセカンドチームについて聞くと、エディー、同席した永友洋司GMはこんな回答をしている。
■選手層という貯金を使い果たしてしまった日本、踏み出すべきセカンドチームの強化
「現在、世界ではどの国でも国内リーグと国際レベルでは明らかに大きなギャップが起きています。セカンドチームを創り、そのギャップを埋めることの重要さは分っています。日本でも2015年の段階では現状よりは多くの選手がスーパーラグビーでプレーしていたし、2019年まではサンウルブズ(日本のスーパーラグビー参戦チーム、2020年大会で離脱)があった。こういうギャップは2019年あたりから起きていたのですが、日本ラグビー協会も永友GMもこのギャップを認識していますし、埋めるための作業はプッシュしています。日本ラグビーのレベルを上げることが急務なのは理解しているのです」(エディー)
「エディーさんが就任してから、協会としても話をしています。U19、U20、U23というカテゴリーをしっかり強化していくことにはすでに着手しています。海外でも、数年前まで互角に戦っていたイタリア、アルゼンチンが世界のトップ4と互角に戦っていることも肌で感じています。彼らからヒントを貰わなければならないし、今の学生世代も含めて、もっと海外に目を向けながらの強化が急務かなと思っています。私の責任の一つは、大学、リーグワンとしっかりとコミュニケーションを取ることだと思うので、一緒になって強化を進めていることはお伝えしておきます」(永友)
両者共に、セカンドチームの充実が重要なことは認識している。だが、具体的なプラン、活動という点では、現状では大きく踏み出せていない。永友GMが語るように、エディーの復帰前にはU20日本代表のHCに大久保直弥が就任している。エディーとはサントリー時代の師弟関係もある人材がユース世代を受け持つことでシニア・ユース間のコミュニケーションは取りやすくなったが、そのU20も過去数シーズンの世界大会を見れば、この世代の強化も苦闘が続いている。日本のメンバーが大学1、2年生なのに対して、強豪国の選手はすでにプロ契約しているか、大会後にはプロチーム入りする選手が揃っているからだ。しかも日本の代表強化という観点では、U20を卒業した20歳から22、23歳あたりまでの選手、つまり正代表入り目前という世代の強化が“ミッシングリンク”となっているのだ。先ほど挙げた各国のセカンドチームは、この世代への投資にしっかりと力を注いでいることも念頭に置く必要がある。
今季11テストマッチの戦いぶりからは、ピッチ上でのパフォーマンス、そして先に紹介した選手の困惑ぶりを見れば組織としての強化体制、チーム内の相互理解も不十分なままファーストシーズンを終えた厳しい現実はある。エディー自身も「新しくチームがスタートした時は、そういう問題もありがちかも知れない。コーチンググループも新しく集まってきているので問題が生じることもある」と語っている。だが、気を付けなければいけないのは、未だに聞こえるボスの首を変えれば良くなるという風潮だ。
確かにHCの交代がプラスに働くこともあるだろう。だが、いまの世界の流れと日本の実情を見れば、組織としてどう強化環境を整えていくのかという視点に立ち、現実や課題を考えていく必要があるのは明らかだ。首を切り替えた新たなボスの一声で、組織も「はい、そうですか」と投げ込まれる投資だけで、W杯で決勝トーナメントを争うレベルのチームが飛躍的に強くなる時代は少なくともテストラグビーの世界では終わっている。プロ化が加速度的に進む現在は、代表チームも組織的に強化構造を作り上げる時代が到来している。結果だけで一見変革を唱えているように聞こえる批判の声は、単なる外野の野次に過ぎない。
かなりネガティブファクターを挙げてはきたが、1シーズン目のチームは、勝つことよりも自分たちのスタイルを作り上げることを重視している面もある。自陣からでもキックでエリアを押し戻すよりも意図的にパスで仕掛けている。イングランドとの最終戦のように、相手防御に応じてショートパントを多用もしているが、ベースはパスアタックだ。勝つゲームを重視すれば、自陣での危機ではキックを使ってエリアを獲ることが定石だが、エディーはリスク覚悟でランプレーを使っている。
結果的に負けた7試合の平均トライ数は2.14本。アタックが信条のチームながら1試合2トライ程度しか奪えていないのだが、この10年以上に渡り世界のトレンドになっているポッド偏重のゲームをしていないのも興味深い。ポッドでは、4人ないし5人のグループで接点を作りながら攻撃を繰り返すのが基本だが、日本代表は状況に応じて接点での勝負だけではなく、アタックラインでボールを相手防御の薄いスペースへと運ぶシェイプを使おうとしている。このアタックが精度の低さや組織の未熟さでスコアまで至っていないのが2024年のエディージャパンだった。もちろん、1シーズンをかけても未だに未成熟な状態に文句をつけるのもいいだろう。だが、スタイルとしては、リーグワンでもいまだに常識のポッド依存のラグビーより、この挑戦的なスタイルの完成度をどこまで磨き込めるかに期待をしたい。
2023年W杯までのチャレンジで、日本代表は選手層という貯金を使い果たしてしまった。パンデミックによる活動の停滞も若手の強化育成の妨げになったが、その空白、停滞を強豪各国が創意工夫してなんとか押し進めた時間も、地域格差もあったが日本ラグビーは足踏みを続けてしまった。この“ツケ”がいまも響いている。若手にシフトした2024年の戦いに、大きくのしかかってきているというのが現状だ。
そのため、エディー就任への経緯の中でも「世代交代」は協会側からの重要な条件になっていた。永友GMは、日本協会の土田雅人会長からも若手強化への指示が下されていると語っている。同会長も、1999年W杯では盟友だった故・平尾誠二監督とコンビを組んでコーチを務めた経験もある。代表強化への情熱も、難しさも理解しているはずだ。だからこそ、実現がいつなのか分からないような題目ではなく、具体的な〇〇年というターゲットを掲げながら、このセカンドチームの強化に踏み出すべきだろう。セカンドチーム以外の代表強化の青写真があるのならまた話は別だが、今回のヨーロッパを舞台とした多くのテストマッチを眺めても、停滞が後退であるのは明らかなのだから。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。
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