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「お前、アホか」 ディープを本命にせず怒られた有馬記念、調教捜査官が“人気薄予想”を変えた日

THE ANSWER / 2024年12月19日 10時33分

2006年の有馬記念を制したディープインパクト【写真:産経新聞社】

■2006年有馬記念で有終の美を飾ったディープインパクト

 中央競馬は今年の総決算となるG1有馬記念が22日、中山競馬場の芝2500メートルを舞台に発走となる。今年はG1馬が10頭出走予定という超豪華メンバー。調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る企画「調教捜査官の回顧録」を寄稿する競馬ライターの井内利彰氏にとっては、自身のスタイルの修正に至ったという思い出深いレースだ。渾身の予想に「文句を言われた」という後日談にスポットを当てた。

◇ ◇ ◇

 2006年有馬記念。単勝1.2倍の圧倒的1番人気に支持されたのが、前年の有馬記念で2着に敗れていたディープインパクト。ここが引退レースとなったが、その直前、3着に入線していた凱旋門賞について、レース後に禁止薬物が検出されたということで失格処分が発表されていた。そういったことはあったものの、ジャパンカップを勝利、有馬でも2着に3馬身差をつける圧勝。有終の美を飾った。

 有馬記念から数日経った年明け、厩務員で親しくしている人たちとの新年会があり、そこでディープインパクトの話になった。

「井内、有馬記念は馬券当たったんか?」と聞かれ、「いや、当たってないんですよ」と答えると「ポップロック(6番人気2着)は人気なかったもんな」と慰めの言葉をかけられたが、こちらは「いやいや、本命がアドマイヤフジだったから」と惜しくもなんともなかったですよ、という顔で返した。

 この言葉を聞いた途端、その人の顔色が変わった。そして「お前、アホか」という出だしから淡々と説教をされた。お酒の席ということもあり、周りは「また始まった」みたいな顔で見守り、きつい言葉が出たりすると「井内くんもいろいろ考えて予想してるんやから」と助け舟を出してくれる。確かにどんな馬に本命を打とうと予想する方の勝手だ。もし、ディープインパクトがその人の担当馬で、それまで取材でお世話になっていれば、お前は今まで何を聞いてたんやと怒られても納得できるわけだが……。

 ちなみにその人物は当時、インティライミという馬を担当していた立山勇厩務員。そう、この馬はディープインパクトが勝った日本ダービーで2着だった。インティライミは京都新聞杯を勝って、意気揚々とダービー参戦。単勝2番人気だった点からも「あのディープに勝てるならこの馬かも」という期待はあった。

■勝てるかも…の期待からあっさりかわされた2着

 レース当日は東京競馬場で観戦したが、内からインティライミが抜け出した時に「やった!」と叫んだが、それも束の間、あっさりと外からディープインパクトにかわされてしまった。

「お前もあのレース観たやろ。テツ(佐藤哲三元騎手)があれだけ完璧に乗ったのに、結局5馬身も離された。だからディープが負けることはないと思って、ずっと見ていたし、有馬記念でハーツクライに負けたけど、あの後、ハーツクライは海外(ドバイシーマC)で勝ったもんな。だから、あの馬を負けるって予想するなんてありへえんよ」

 今まで、立山さんにはたくさんご馳走になってきたが、自分が予想した印で文句を言われたことなど一度もなかった。だからこそ、この言葉は自分の心にめちゃくちゃ響いた。決してアドマイヤフジが悪かったわけではない、ディープインパクトに本命を打たなかったことが悪かったのだと自分なりに解釈した。

 当コラムの菊花賞回で『できるかぎり人気薄から本命を選ぶという予想が続きます。ただ、このスタイルについてはあるレースをきっかけに変化するのですが、それはまたの機会に』という一文を入れていたが、それがこの時だった。

 ただ、強い馬ならすべて「◎」を打とうと思ったわけではない。自分が予想の根幹とする「調教分析」において、不安点があれば軽視する。このスタイルは変えていない。だから単勝1.6倍の圧倒的支持を受けていたオルフェーヴルの引退レースとなった2013年有馬記念では、いつものような調教内容でなかったことで「○」評価としたが、レースでは圧勝された。当然ショックを受けたが、レース後に池江泰寿調教師が「完調ではなかったが、結果を出してくれた」というコメントを発表してくれたことで調教予想としては間違っていなかったと自分なりに理解はしたつもりだ。

 今秋、ドウデュースに「◎」を打ち続けることができたのも「ダービーでイクイノックスに勝った馬が他の馬に負けるわけがない」という『信じる気持ち』を持ち続けることができたから。そこには当然、調教が良かったという根本的な理由はあるが、レースを観て「この馬、すげえ」と思った気持ち。G1でもビッグレースになればなるほど、これを忘れてはいけないような気がする。(井内 利彰 / Toshiaki Iuchi)

調教をスポーツ科学的に分析した適性理論「調教Gメン」を操る調教捜査官。競馬予想TV!(フジテレビONE)に出演中。JRAの競馬場、ウインズのイベントに出演し、JRA主催のビギナーズセミナーの講師としても活躍。著書に「競馬に強くなる調教欄の取扱説明書」「調教Gメン-調教欄だけで荒稼ぎできる競馬必勝法」「調教師白井寿昭G1勝利の方程式」などがある。

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