選手、監督、研究者…“3足のわらじ”は「忙しくて大変」 35歳・高谷惣亮がロス五輪を狙うワケ
THE ANSWER / 2024年12月22日 13時33分
■レスリング全日本選手権
レスリング界の「鉄人」高谷惣亮(35=拓大職)が21日、16年連続17回目の全日本選手権出場を果たした。昨年の同大会決勝で敗れてパリ五輪出場は逃したが、東京・代々木第二体育館で行われた同大会男子フリースタイル86キロ級に登場。目標とする26年アジア大会に向けて再スタートを切った。
パリ五輪銀メダリストの弟大地(30=自衛隊)をセコンドに従え、高谷が元気な姿を見せた。準決勝では白井達也に1-2で惜敗したものの、3位決定戦では吉田真聖を圧倒して1分あまりで11-0のテクニカルスペリオリティー勝ち。吉田沙保里、伊調馨と並ぶ13回目の優勝こそ逃したが、2010年以来の全日本選手権銅メダルを手に「昔はけっこう銅メダルもありましたから」と笑った。
実は11月、乗車していたバイクがマンホールの上でスリップして転倒。左膝を負傷していた。「痛くて膝がつけない」状態で「タックル王子」の異名をとった得意の高速タックルのキレも悪かった。試合中には何度も膝に手をやる場面もあった。
「無理して出なくても」という考えもよぎったが、出場に踏み切ったのは09年から続く連続出場を途切らせないため。17回という出場回数は歴代4位タイ。18回の吉田沙保里、19回の浜口京子、最多22回の柴田寛の記録も視野に「最多記録まで、出続けたい」と言った。
もう1つ、目標として明かしたのはアジア大会出場。これまでは権利があっても世界選手権出場のために辞退してきた。「アジアのオリンピックだし、出てみたいし、アジアのメダルもとりたい」。代表選考会となる来年の全日本選手権のために「今年は試運転をしておきたかった」と口にした。
世界選手権準優勝の実績を持ち、3度出場した五輪もメダル候補だった。それでもアジア大会にこだわるのは、26年大会の開催地が名古屋だから。五輪3大会目の21年東京大会は無観客だった。「それは大きいですね。名古屋で日本のファンの前で戦いたい」。声援が力になるタイプだけに、地元開催の大会への思いは強い。
決して簡単な挑戦ではない。「ALSOK」の社員として競技に専念していた時とは違う。昨年4月に退社して拓大監督に就任。「今は指導が7で自分の練習は3くらい。選手に専念する環境はとっくに超えているけれど、その中でしっかり戦いたい」と話した。
さらに、筑波大大学院生として映像分析などレスリング指導につながる研究も忙しい。昨年12月の全日本で男子初の4大会連続五輪出場の夢がついえた時に「引退はしないけれど、違う形でレスリングを続けたい」と話していた通り、今は選手、監督、研究者と「わらじ」は3足。「しっかり履き潰してやっていきたい」と言って笑った。
会場隣のライトアップされたケヤキ並木を背に14大会ぶりの銅メダルを手にする高谷惣亮【写真:編集部】
■「どうせやらないでしょ」と思われることは…
選手以外の雑用も多く、体調管理も大変。「事務作業でパソコンを打っていると、つい手持ち無沙汰で」お菓子をつまみ、気が付いたら5キロオーバー。若いころと比べたら減量も厳しいはずだが「妻が料理などでサポートしてくれました」と感謝した。
トレーニング量も選手と同じ。「全部一緒ですね。自分がやることで、選手への刺激にもなる」。だからこそ「ロス(五輪)は?」の質問に「もちろん、狙っています」と答え「あえて言います。目指します」と続けた。「選手たちに『どうせやらないでしょ』と思われるのはよくないから」と自らを追い込んだ。
多忙な中で選手としてマットに立ち続けるのは、レスリングが好きだから。さらに、レスリング界や母校拓大のために自らの経験を還元したいという思いもある。
長くレスリング界を引っ張ってきた。五輪に初出場した12年ロンドン大会後から21年東京大会まで、男子日本代表のキャプテン。女子の活躍ばかりが注目される中で「男子も頑張っている」ことをアピールしてきた。
もっとも、女子に比べて世界の壁が厚い男子は苦戦してきた。12年ロンドン五輪で米満達弘が獲得した後、男子は2大会連続で金メダルなし。14年世界選手権で準優勝した高谷も最も激戦の中量級で16年リオデジャネイロ、21年東京と五輪出場を続けたが、期待されたメダルには届かなかった。
出場を逃した今年のパリ五輪では、男子が女子と同じ大量4個の金メダルを獲得。「うれしかったですね」と若い選手たちを称えながらも「悔しい思いもあった」と本音を明かした。「僕は五輪で勝てない男ですから」という自重気味な言葉の裏には、不遇の時代を支えてきた自負もある。
発信力は相変わらず。13回目の優勝を逃しても、優勝者以上に多くのメディアに囲まれる。人気テレビ番組「ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ」には女子金メダリストの「世界1位」鏡優翔とともに「世界2位」として出演。レスリング界の「アピール」に一役買った。
監督として後進を育て、研究者として競技を追求し、レスラーとしてマットに上がる。そして、ポジティブな言葉でレスリングの魅力を発信していく。「忙しくて大変です。でも、やり続けたい」。高谷の情熱は、少しも衰えていない。(荻島弘一)
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