入場料20ドル、4試合入替なし…日本と米国の高校スポーツはどう違う、意外な共通点はテレビ解説
THE ANSWER / 2024年12月23日 11時33分
■「Sports From USA」―今回は「州チャンピオン大会に見るアメリカ高校運動部の特徴」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「州チャンピオン大会に見るアメリカ高校運動部の特徴」。
◇ ◇ ◇
日本では年末年から年始にかけて、いくつかの種目で、高校スポーツの全国大会が開催される。アメリカでは学校の運動部としての公式な全国大会はなく、各州のチャンピオンを決める試合がシーズンの最終戦となる。
筆者の住むミシガン州では、アメリカの主要な祝日である11月の第4木曜日の感謝祭の翌日と翌々日に、高校アメリカンフットボールの州のチャンピオンを決める試合が行われた。ただし、優勝校は1チームではない。各州の高校体育協会の規則や競技種目によって違いがあるのだが、一般的には競技の公平性から、学校の生徒数を基準に「ディビジョン」ごとに区分けされている。各ディビジョンを制したチームが州の優勝校となるので、ディビジョンの数だけ優勝チームもあるということになる。ミシガン州の高校体育協会は、アメリカンフットボールについてはディビジョン1から8にわけているので、29日に4試合、30日に4試合が行われた。30日の第2試合から第4試合を見てきた。
会場はNFLライオンズの本拠地、フォードフィールドだ。チケットは前もってオンラインで購入し、1日4試合、入れ替えなしの見放題で、20ドル。フォードフィールドの観客収容人数は6万5000人で、スタンドの15%ほど埋まっているようだから、1試合を観戦する観客数は1万人程度といったところか。駐車場が比較的空いていたのは、各学校を応援する人はバスで来ている人が多いからだ。また、州大会に限ったことではないが、応援スタンドには生徒席のほか、マーチングバンド席があり、フィールドにはチアリーダー部がいる。ハーフタイムは両校マーチングバンドの見せ場で、フィールド上でパフォーマンスを行った。
1日で4試合をするので、あわただしい感はある。それぞれの試合で勝ったチームはこの年のディビジョン優勝校となるのだが、次の試合開始時間もあるために、大人たちが手際よく、歓喜の輪を誘導しながら、フィールド上で写真撮影をする時間を設け、すみやかに退場させていた。
応援する人たちも次々に入れ替わっていく。4試合通しで見ている人はほとんどいない。前の試合中に、次の試合の学校を応援する人たちが会場に入ってきているが、他の学校の試合にはあまり興味がない様子。通路に備え付けられたテレビに、ミシガン大学のアメリカンフットボールの試合が映し出されていて、そこにひとだかりができていた。ライオンズの試合とは違い、場内の飲食販売もピザと飲み物の売店だけがポツポツと開いているだけで、アルコールの販売はなし。ミシガン州高校体育協会とスポンサー契約している企業があるのだが、この広告は2階席の上方にある試合のスコアを見せる大型電光掲示板と、観客席の1階上方の電光掲示板に流れただけ。ローカルテレビ局によるテレビ中継もあったのだが、これではテレビ画面で露出するのは難しいだろう。
■共通点を感じたのは「テレビ中継の解説」
さて、肝心の試合だが、第4試合を少しレポートしたい。ディビジョン1のハドソンビル高校とデトロイトカス工科高校との試合。ハドソンビルは州の西側にあり、フォードフィールドまでは車で3時間近くかかる。一方のカス工科高校はフォードフィールドから徒歩圏内。
試合は途中まで圧倒的にカス工科高校の優勢。第3Q残り11分9秒で35-0とリードすると、アメリカの中学や高校の運動部で採用されているマーシールールが適用された。マーシールールとは試合が一方的な展開になったときに、試合時間の進行を早めたり、コールドゲームのような形にしたりすることだ。ミシガン州の高校体育協会では、後半に入った状態で35ポイント以上の差がついたときには、時計を止めずにそのまま試合を進行すると規定している。しかし、ハドソンビルが7点を返して、28点差となったため、通常通りに時計を止めるルールに戻った。
第3Qで54ヤードを走ってタッチダウンしたカス工科高校のアレックス・グラハムという選手は1シーズンだけフロリダ州のIMGアカデミーのアメリカンフットボール部に在籍したが、再びカス工科高校に戻った。高校生アスリートの転校もときどきある。彼は11年生(高2)の時点で、いくつかの大学アメリカンフットボール部からオファーを受けており、すでにコロラド大学に進学することを明らかにしている。
日本とはいろいろと違いがあるアメリカの高校スポーツだが、共通点を感じる場面もあった。そのひとつがテレビ中継の解説だ。一方的な展開になったときには、リードされているチームのミスなどを指摘するのではなく、よい材料を探して取り上げるようにし、点差を縮めたときには、決して勝利の確率が高くなくても、踏ん張りに対して前向きなコメントをし、中継の教育的という枠組みをしているようだった。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)
谷口 輝世子
デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。
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