たった5人で挑んだ全国大会 退場で1人減っても戦い抜いた和歌山南陵、敵将の心も震わせた40分間【ウインターカップ】
THE ANSWER / 2024年12月24日 9時37分
■SoftBank ウインターカップ2024
バスケットボールの第77回全国高校選手権「SoftBank ウインターカップ2024」が23日、東京体育館など都内の2会場で開幕した。男子1回戦では、4年連続4回目の出場となる和歌山南陵が2年ぶり3回目出場の県立長崎工業に64-80で敗戦した。3年生わずか5人で挑んだ全国大会。「5人というのを言い訳にしたくない」と決意し、ファウルアウトで4人になっても諦めずに戦い抜いた姿は、敵将の心も震わせた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)
残酷な笛が鳴った。52-54で迎えた第4クォーター残り6分42秒。自陣リング下で体を張った和歌山南陵の紺野翔太(3年)に5つ目のファウルが宣告された。一瞬の沈黙。客席からは「えっ……」と息をのむ音が聞こえた。ベンチに控え選手はいない。4対5の絶望的状況。だが主将の二宮有志(3年)は「4人になっても試合はまだ終わっていない。必ず勝機はある」と鼓舞し、残りの3人も呼応した。
「最後までやろう」
コートを駆けながら声を張った藤山凌成(3年)が放った3ポイントシュートは、試合終了のブザーとともにリングに吸い込まれた。最終スコアは64-80。4対5という絶対的不利な状況でも決して下を向かなかった証しだ。敵将の寺田祥監督も14得点を挙げた藤山らを呼び止めて握手。「僕たちには計り知れないものがあった。凄く手強い相手だった。敬意を込めて握手させてもらった」と感動を伝えた。
和歌山南陵は2年前、経営難などを理由に新規の生徒募集を停止。当時1年生だった酒井珀(3年)は「本当に南陵やめたいなと思った」と正直に振り返る。後輩が入ってくることなく3年になり、残ったのはたった6人。それでも今夏のインターハイに出場して1勝を挙げ、大きな話題となった。しかし、苦難は続く。今大会の約1か月前、留学生のアリュウ・イドリス・アブバカの欠場が決まったのだ。
進路の関係でナイジェリアに一時帰国。今大会の前には戻ってくる予定だったが、間に合わないことがわかった。今までのフォーメーションが使えなくなり、今月に入って最初の練習試合は「本当にボロボロだった」(藤山)。しかし「5人というのを言い訳にしたくない」と全員で決意を固めた。劣勢になるのは百も承知。「どれだけ点差が開いても僕たちは我慢して行けるぞ」と声をかけ合った。
客席に向かって一礼する5人には「南陵かっこいいぞー!」と声援が送られた【(C)SoftBank ウインターカップ2024】
■クラウドファンディングでは763万円もの支援が集まった
客席に向かって一礼する5人には「南陵かっこいいぞー!」と涙目の保護者たちから温かい声援が飛んだ。藤山は「この1年、しんどいという話をたくさん聞いてくれた」と感謝。「応援してくれた人たちに情けない姿を見せるわけにはいかない」と奮起した。遠征費用を確保するために酒井の母親らが始めたクラウドファンディングでは、目標の50万円を大きく上回る763万円もの支援が集まった。
額はもちろん、寄せられた応援コメントが胸に響いた。「大変だね」という同情ばかりではなく、インターハイ後には「6人でも勝った南陵すごい」という声が届いた。「人数は関係ないんだというのをしっかり見て、感じてくださったら嬉しい」と藤山。「ここに来られたのも支援があったから。本当にそういう方達に恩返ししようという気持ちが一番強かった」。感謝の想いをコートにぶつけた。
思い望んだ3年間では決してなかった。だが、過酷な環境だったからこそ成長できたのも間違いない。藤山は「他の高校3年生では味わえない特別な経験ができたと思うし、学べることも多かった」と回顧。「自分たちの実力で(注目度が)上がったわけじゃない。天狗にならないように。いつも謙虚に」。インターハイ後、和中裕輔監督から毎日聞かされた教えを徹底し、再び全国の舞台に立った。
「かけがえのない仲間と出会えたことが一番嬉しかった」という藤山。中村允飛(3年)も「この5人で一緒に戦えて、本当に人生のいい思い出になった」と声を揃える。紺野は「成長のある3年間。僕が凄く落ち込んだ時に、この5人と監督さんが励ましてくれてとても感謝している」と礼を述べた。
主将の二宮は「3年間しんどいことをずっと耐えてきて、最後にこういう晴れ舞台でできたので凄く嬉しい」と総括。酒井は「東京体育館でこのチームメート5人と監督さんでコートに立てた。1年生の頃はやめたいと思ったが、やっぱり今は本当に南陵にいて良かったと思っている」と言い切った。困難な状況を言い訳にせず、最後まで全力を尽くした5人の3年生。その姿は確かに格好良かった。(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)
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