フィギュア友野一希、企業プレゼンで自ら訴えかけた運命の日 契約実現の裏に1人の広報の奮闘
THE ANSWER / 2024年12月24日 12時3分
■フィギュアスケーター・友野一希を支える第一住建グループとの物語
フィギュアスケートは年末の大一番・全日本選手権が22日まで行われた。男子シングルで12年連続12度目の出場となった友野一希は、これまでにないサポートを受けての出場に。今季から所属契約を結ぶ第一住建グループは、応援団を結成して21日のフリーで現地からエールを送った。同社は昨季のパートナー契約からより友野を支える存在となったが、その裏には1人の広報の奮闘があった。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)
◇ ◇ ◇
トップスケーターが集う全日本の常連となっている友野。その熱演を、会場で特製バナーを掲げて見守る集団がいた。第一住建グループの社員で結成された応援団だ。初めてフィギュアスケートを観戦するメンバーもいたが、急遽の呼びかけにもかかわらず21日のフリーに10名以上が参加。絆が光った。
同社は不動産に関する一から十までの事業やライフスタイル事業を展開。昨季パートナー契約を結んでいたが、今季から友野本人の申し出もあって所属契約を結んでいる。所属発表時、友野は「短期間に深い絆で結ばれたと感じている」とコメントした。
きっかけは1人の広報だった。エンタメ業界で活躍していた小林りえ子さんが東京から移住し、同社に転職。このタイミングで大阪を拠点にするスポーツ選手、団体の支援の検討が始まった。経営陣にプレゼンする際、小林さんが「どうせなら1つくらい、自分の好きなスポーツを」とフィギュアスケートに目を付けたのが今に繋がっている。
友野は大阪を拠点にしており、2022年四大陸選手権で銀メダリストになるなど条件にぴったりだった。しかも小林さんは過去に生観戦し、ジャンプ、スピンだけじゃない世界観あるスケーティングが強く印象に残っていた。
「2017年のNHK杯をたまたま観客として見て、そこで初めて彼を認識しました。6練の時から目をひいて、素晴らしいスケーターであることはすぐに分かりました。たまたまですが私が宣伝していた映像作品の楽曲でも滑っていたので、余計印象に残りました」
苦労を重ねて友野との面会に成功。昨年、関空アイスアリーナで初対面を果たし、パートナー契約に至った。「会議にダメもとで提出したら、代表が意外にも『この子いいんじゃない?』って言ってくれたんです」。同社にとっては前例のない初の個人アスリート契約だったため、決定までに時間を要した。「申し訳ない、決まらないかも」と伝えていた友野に、電話で結果を報告。「うっそ!」と仰天のリアクションが忘れられない。
エンタメ業界で培った経験を活かし、小林さんは友野の相談に乗ることも多かった。カフェで友野から所属契約の申し出を受けたのは、今年1月に入ってからのことだ。
友野の応援のため現地に駆けつけた「第一住建グループ」の応援団。急遽10名以上が集まった【写真:第一住建グループ提供】
■友野の申し出は「辞退しました」 それでも所属契約に至った経緯は
「所属のお話をいただいて、弊社には勿体ないお話だと何度か辞退しました。友野選手からお申し出をいただいたことは、本当に光栄で素直に嬉しかったのですが、『もっとアスリートのサポートに慣れている企業がいいのでは?』と繰り返しお伝えしました」
業界知識と経験がある小林さんと関わる中で、友野との間に信頼関係が生じていたのは確かだ。
「気づいたら弊社との動きが多くなったし、社風も共感できるのでぜひと。そんなやりとりが数か月あって、彼の意志が固くて折れないので、私も4月には腹をくくりました。会社には『こんないい話はない。トップ選手なので名前も出るし、ついてくれるなんてめったにない光栄なこと』と説明しました」
内部での調整は難航が続いたが、状況を説明された友野が漢気を見せた。会社の2度目のプレゼンに自ら出席。本人の言葉で、契約の必要性を訴えかけた。友野の言葉を小林さんがフォローし、小林さんの説明を友野がフォローするコンビネーションのようなプレゼンだった。経営陣が快諾し、8月中旬に遂に所属契約が決定。小林さんは大至急、書類をまとめてギリギリ登録に間に合わせた。
「彼は本当に一度決めたら折れない人です。(現在の関係性は)シンプルなマネジメントとも違うし、スポンサーの担当者ではあるけれども、事務所に入っていない分、負担になることのサポートや人脈の紹介など、友野選手のご依頼を受けて競技生活が楽になっていただけるよう裏で動いています。元々映画や音楽の宣伝もやっていたので『TOMONO CURRY』の発売のようなときは、宣伝のプランニングからプロモーションまで動きますし、取材でさまざまなジャンルの著名人の方についたりハリウッドスターのアテンドもしていたので、過去の経験から自分がさせていただけることはフォローさせていただいています」
友野から初めて電話をもらった日から毎日、最低1つは友野の演技映像を見ている。前職で映画宣伝に関わっていた時も作品を理解するため、同じことをしていた。
23年のパートナー契約が決まってからの日々は「個人的には朝ドラみたいだと感じています。展開が山あり谷ありで」と笑う。急な依頼が飛び込むこともありドタバタな日々だが、8月に発売した本人監修の「TOMONO CURRY」をエンタメの手法で宣伝して大好評となるなど、友野のアイデアとの相乗効果も生まれている。
小林さんが大阪に来て友野を候補に挙げていなければ、同社がスポーツ支援を行わなければ、友野が大阪で活動していなければ……一つでも条件が揃わなければあり得なかった、ある意味運命的な繋がりになった。
12度目の全日本選手権は総合5位。ショートプログラムでは3位に食い込んだ。フリーではミスもあり、納得いく演技にいたらなかったものの、応援団のエールは確かに届いた。小林さんは「友野選手は一編の小説、ショートフィルムのような世界観を生み出せる稀有な才能のスケーター。オリンピックの大舞台で演技を終えた彼が日の丸に囲まれて笑顔で手を振っている姿をみたい」。唯一無二の滑りを、近くで支えていく。(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)
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