高校バスケで存在感放った留学生たち 日本で何を学び、何をもたらしたのか…当事者に聞いた本音【ウインターカップ】
THE ANSWER / 2024年12月30日 9時19分
■SoftBank ウインターカップ2024
バスケットボールの第77回全国高校選手権「SoftBank ウインターカップ2024」は29日まで東京体育館で行われ、女子は京都精華学園が、男子は福岡大大濠が優勝した。今大会も存在感を発揮したのがアフリカなどから来た留学生たち。彼らは日本で何を学び、チームメートやライバルに何をもたらしたのか。当事者たちに本音を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)
◇ ◇ ◇
「帰りたい。お母さんに会いたい」
大会最多得点&リバウンドで慶誠を熊本県勢初の女子準優勝に導いたロー・ジョバ(3年)は1年生の頃、泣き言を繰り返した。セネガルから来日。当初は「痛い」と「ありがとう」しか日本語を知らなかった。「メンタルがベイビーみたいだった」。文化の違いでチームメートと衝突。言葉の壁で誤解も招いた。3年間をともにした主将の岸希(3年)は「ぶつかることや喧嘩も多かった」と振り返る。
異国での新生活。「慣れたら大丈夫」という母の言葉を信じ、ジョバはなんとか馴染もうと努力した。仲間との会話でわからない言葉が出てきたら積極的に聞き、大好きな映画も日本語の教材とした。そんな意欲に打たれた岸も「上手く言葉が伝わらなくても逃げない。私が逃げたら距離が離れてしまう」と向き合うことを決意。岸らの助けもあり、ジョバは日本語で取材対応ができるまでになった。
もう「帰りたい」と思った日々は遠い昔。日本での3年間で自立心を養い、一番成長できたのは「メンタル」だと胸を張った。一方、外国人との交流は岸らの視野も広げた。
「ジョバが来てビックリしたのは、やっぱり日本人は人の前で失敗するのが恥ずかしいという気持ちが大きいと思うが、練習の中で『わかる人?』と聞かれた時も、(ジョバは)自分から積極的に声を出したり、意見したりしていた。失敗を恐れないという気持ちはジョバに凄く教わった」
本音をぶつけ合い、お互いが「姉妹のよう」と口を揃えるほどの固い信頼関係を築いた2人。ともにベスト5に選出され、表彰台で笑顔を並べた。
慶誠を破り、3連覇を果たした京都精華学園もナイジェリアからの留学生ユサフ・ボランレ・アイシャット(3年)がインサイドの柱となった。一貫校の中学時代からともにプレーしてきた橋本芽依(3年)は「最初はコミュニケーションや言語の面でぶつかり合ったり、喧嘩してしまった部分も沢山あった」と回顧。「いい意味で主張が強い」というアイシャットと根気強く意見を交わし続けた。
言語も違うし、文化も違う。それでも諦めず、最後まで気持ちを理解し、伝えようとした。「学びになったし、改めて人とコミュニケーションを取るのが大事だなと留学生と話していて強く感じた」。意思疎通の難しさと大切さを知った。
鳥取城北の男子準優勝に貢献したハロルド・アズカ【(C)SoftBank ウインターカップ2024】
■誰もが認める主将になった留学生も
様々な壁を乗り越え、誰もが認める主将にまで成長した留学生もいる。男子の大分代表、柳ヶ浦のボディアン・ブーバカー・ベノイット(3年)はセネガル出身。来日した当初は全く日本語が話せず、中村誠監督が最初に教えた言葉は「水」だった。それが今ではほぼ全てのコミュニケーションを日本語でこなし、主将として審判や相手ベンチにも「よろしくお願いします」と日本語で頭を下げた。
ベノイットは24日、京都精華学園との1回戦途中に左手首を負傷し交代。68-73で敗れた後も左腕を三角巾吊るしながら、真っ先に敵将や観客に挨拶した。中村監督は「彼は本当にどこに出しても恥ずかしくない男。見られているという意識を常に持って行動してくれた」と絶賛。その人間性は保護者からも高く評価され、主将就任時に「外国人なのに?」という疑問の声は一切上がらなかったという。
男子のベスト5にも選ばれ、鳥取城北の県勢初の準優勝に貢献したハロルド・アズカ(2年)は選手として成長するために日本を選んだ。昨年のインターハイ前にナイジェリアから来日。「世界でも日本人たちはめちゃくちゃハンドリングがうまい。アズカももっとハンドリングが欲しかった。高校生のレベルはナイジェリアよりも日本の方が全然いいと思う」。日本語でスラスラと意図を明かした。
身長2メートルのセンターだが、ボール運びもこなす万能選手。憧れはNBAの大スター、ジェイソン・テイタム(セルティックス)だ。将来的にはBリーグで活躍し、NBA入りするという夢への道筋を描く。渡米すればポジションはシューティングガードやスモールフォワードになると予想。日本でハンドリングを磨き、引き出しを増やすことを狙う。
鳥取城北の河上貴博監督は「手足の長い、身体能力の高い選手と一緒にプレーすることで、考え方やパス一つとっても変わってくる」と留学生が他の部員に与える効果を指摘する。対峙する日本人選手にとっても、手強いライバルの存在は成長の糧になる。24日の女子2回戦で京都精華学園に59-101で敗れた県立山形中央の宮林美優(3年)も「打倒・留学生」という思いで努力を重ねてきた。
「自分よりも身長が高い選手はいっぱいいる。シュートフィニッシュの工夫や3ポイントシュート(3P)の精度を上げていかないといけないと感じた」。フィジカルを鍛えることはもちろん、ポップアウトからの3Pやクイックシュートを磨いた。2年連続の高校3冠を成し遂げた京都精華学園を相手に3本の3Pを沈めるなど13得点。高い壁を越えることはできなかったが、成果の一端を示した。
男子の頂点に立った福岡大大濠は、留学生なしで戦い抜いたチームだった。身長206センチの渡邉伶音(3年)は準決勝の後、「日本人だけの僕たちが勝つことによって、『自分もできるかもしれない』と思ってくれる子どもが絶対に増えるし、それが大濠の魅力だと思っている」と力を込めた。意気込み通り、3年ぶり4度目の日本一に。留学生なしでも勝てると結果で示した。
大会期間中、留学生が高い身長と体の強さを武器に、日本人選手を圧倒する場面を何度も目にした。理不尽に思う意見が出るのもわかる。ただ、「留学生を入れれば勝てる」という単純なものでもない。チームとして機能するためには、異国の環境に適応しようとする本人の努力、そしてそれを支え、ともに成長しようとする周囲の受け入れ態勢が必要だ。そんな陰の奮闘にも目を向けてほしい。(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)
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