ここ数年、耳にする「駅伝強いよね」 外さない法大が箱根総合5位へ、課題は「復路の主要区間」
THE ANSWER / 2024年12月30日 17時4分
■「箱根駅伝監督、令和の指導論」 法政大・坪田智夫監督/第4回
第101回東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)が1月2、3日に行われる。「THE ANSWER」は令和を迎えた正月の風物詩を戦う各校の指導者に注目。3年連続シード権を獲得し、安定した成績に導いているのが法政大・坪田智夫監督だ。10年連続85度目の出場と今回、目標に掲げているのは総合5位。前回6区区間賞の武田和馬(4年)、5000m法大記録を出した大島史也(3年)らに期待が集まるが、指揮官は「簡単じゃない」と危機感を募らせているという。(全4回の第4回、聞き手=佐藤 俊、取材は11月中旬)
◇ ◇ ◇
――今シーズンの法政大ですが、春のトラックシーズンはもう一つだった気がします。これには何か理由があるのでしょうか。
「トラックを軽視しているわけじゃないですけど、例年、ある程度、夏に向けての準備を春先から年間通してずっとやってきた経緯があります。今年は、1回に走る量をガッツリ増やすのではなく、練習するまでの移動やアップなどの見えない距離を増やしてきたので、なかなかトラックに移行できない部分がありました。やはり箱根駅伝が一番大事ですし、そのためにロード中心での強化を重視していたので」
――どのくらい見えない距離が増えたのですか。
「例えば朝練習は、だいたい12キロぐらい走るのですが、前後のウォーミングアップ、クールダウンというところで2キロ程度増やしていく感じです。2年前に比べると1日の距離で8キロぐらい増えていると思います。うちは、5000mで13分40秒を切る選手がそんなにいないので、箱根で勝負するためには地道に量を増やして距離に対する余裕度を持たせていくことが大事なのです」
――夏合宿は順調に終えられたのですか。
「今年の夏合宿は、練習の量的なものをキープしつつ、強度の高い練習が出来たので、ほぼパーフェクトに仕上げることができました」
5000m法大新記録・大島、前回6区区間賞・武田ら実力者を擁して坪田監督は上位を狙う【写真:中戸川知世】
■箱根本番への調整、12月は「いかに頑張らせないか」が鍵に
9月、夏の成果を試すべく参加した絆記録会では、5000mで大島史也(3年)が13分35秒33の法大記録を出し、27名中16名がPBを更新した。
――絆記録会までいい流れ出来ていましたが、駅伝の初戦である出雲は9位でした。
「夏合宿の成果が出ていたので、出雲は勝負をしに行ったのです。でも、合宿から記録会の流れの中で記録を出し、ホッとして一息ついてしまい、ちょっと気持ちが落ち気味で出雲に入ってしまいました。本番への持って行き方を失敗し、私の経験不足が出てしまいました。強いチームだと記録を出して、さらにもう一段上を行くみたいな感じがあるんですけど、そこがうちはまだないので本当の強さがまだまだだなぁというのは感じました」
――箱根に向けての調整はどのように進めていくのですか。
「全日本(予選会落選)がなかったので、どうしようかなと考えていたのですが、MARCHを含めて試合に出して、12月は少し休ませてロードに慣れさせる練習をして、のんびりと合宿をしました。昔は、けっこうガンガン練習をしていたんです。みんな、箱根に出たいので頑張ってしまい、けっこう故障者が出たりしたので、今は12月はいかに頑張らせないかというのを考えています」
――MARCH対抗戦(5000m)で大島史也選手が法大記録(13分35秒33)を塗り替えました。
「大島は、ペース走みたいな感じだったんですが、このくらいは走るだろうと思っていました。湯田(陽平兵・2年・14分03秒98)は、大島ぐらいのところでゴールしてほしいなぁというぐらい練習が良くできていたので期待していましたが、ちょっと大きく外し過ぎたかなと。ただ、世羅高の都大路優勝メンバーだった花岡(慶次・3年)が練習がパーフェクトに出来ていない中、上尾ハーフ(63分40秒)で戻って来たのは大きいですし、1年生はMARCHでは結果が出なかったんですけど、福田(大馳・1年・14分20秒89)はアベレージできっちり走れたので、計算できるところまできたのは収穫でした」
――前回6区区間賞の武田和馬選手の配置は、もう決まっている感じでしょうか。
「6区で行くのか、平地で起用するのか、まだちょっと考えています。武田は前回、箱根のエントリーが終わった時に、『悪いけど下り、行ってくれるか』と下りのテストもせずに任せて結果を出してくれました。今回も下りで普通に走ってくれるでしょうし、平地の武田も見てみたいところがあるので、そこは考えます」
目標の総合5位へ、課題は「復路の主要区間」と坪田監督は見る【写真:中戸川知世】
■目標の総合5位へ、課題は「復路の主要区間」
法政大は、100回大会まで3年連続でシード権を獲得している。チームの目標は5位だが、坪田監督は「簡単じゃない」と危機感を募らせている。
――法政大は、ここ数年、外さないと言われ、安定感が出てきています。
「駅伝、強いよねと言われますけど、かなり練習をしているので、ある程度前に行けば崩れない戦いはできますし、昔みたいに当たり外れのないチームになってきています。うちの課題は、9区とか復路の主要区間でガッといけるような選手がいないところです。練習では、みんな、ある程度まとめてくれるし、計算はできるんですけど、爆発力のあるゲームチェンジャーの走りをしてくれる選手がいないんです」
――上位を戦うには戦力的には、まだ足りないということでしょうか。
「10年以上かけて戦える土台作りはできたと思うんですが、3強と言われているところに食い込むには、勝負できる選手を3、4人作って行かないと難しいです。私もやるからには上を目指したいですし、優勝するために勝負したいという気持ちがあります。そのためには、もう少し学生主導で動いて行かないといけないと感じています」
――法政は、学生が自立し、考えて練習するのがベースになっていますが、それ以外にも必要なことがあるのですか。
「勝負に『勝つよ』という雰囲気作りは、指導者が主導するのではなく、私は学生からそういう雰囲気作りをすべきだと思っています。それが学生スポーツのあるべき姿で、私はその手助けをする、微調整する立場かなと。うちのチームは、まだその雰囲気作りができていない。上尾ハーフでは平林(清澄・国学大)君が沿道で応援していましたけど、そうしてチームが勝つ方向に自ら持っていっているんです。青学大も世田谷ハーフで上位を独占しましたが、レース後のケアも丁寧で徹底されていますし、選手が自らやっているというのを感じました。そういう強いチームと比べると、うちはまだやるべきことが多いなと思います」
――学生たちに勝ちに行くことを積極的に発信してほしいということですか。
「それはすごく大事なことだと思います。指導者があーだこーだ言わなくても学生が自主的にやっていく。勝つチームはそうあってほしいし、そうなるとまた一段、強くなると思うんです」
――今回の箱根、法政大は、どんなレースを見せてくれるのでしょうか。
「箱根は、本当に一発勝負なので4位、5位になる可能性もありますし、シード圏外になる可能性もあります。ここ数年は、チーム力が上がり、大きく外さない走りができているので、今年もそれができればシードは獲れると思います。11位とか、20位とかにはなりたくないですからね。シード権ギリギリのところで食らいついていくのが大事ですし、仮にどこかの区間でくずれた時、どう走り切るかというのも大事になってきます。そういうのを含めて、箱根では勝負していきたいと思います」
(終わり)
■坪田 智夫 / Tomoo Tsubota
1977年6月16日生まれ。兵庫県出身。神戸甲北高(兵庫)を経て、法大では76回(2000年)箱根駅伝で2区区間賞など活躍。卒業後は実業団の強豪・コニカミノルタで2002年全日本実業団ハーフマラソン優勝、日本選手権1万m優勝。同年の釜山アジア大会1万m7位、2003年のパリ世界陸上1万m18位など国際舞台でも活躍した。ニューイヤー駅伝は計5度の区間賞。引退後の2012年4月から法大陸上部長距離コーチに就任。2013年4月から同駅伝監督に就任し、箱根駅伝は今回で10年連続出場となる。(佐藤 俊 / Shun Sato)
佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)など大学駅伝をはじめとした陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。
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