プロ引退から1か月半で教員採用試験に合格 高校バスケの監督になった元千葉Jのセカンドキャリア
THE ANSWER / 2024年12月31日 10時33分
■SoftBank ウインターカップ2024で市立船橋を率いた星野拓海監督
29日まで東京体育館で行われたバスケットボールの第77回全国高校選手権「SoftBank ウインターカップ2024」に、プロ選手から高校教諭へと転身した指揮官がいた。就任1年目で市立船橋(千葉)を2年ぶり21回目の出場に導いた34歳の星野拓海監督は、元千葉ジェッツの選手。セカンドキャリアで教員を選んだ理由や、求めたやりがいについて聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)
16年ぶりに帰ってきたウインターカップの舞台は、緊張よりもワクワクが勝った。24日の男子1回戦。市立船橋は天理(奈良)の反撃を退け、73-61で初戦を突破した。夏のインターハイは初戦敗退。就任1年目の星野監督にとっては待望の全国大会初勝利だった。「本当に小さな一歩だが、私にとっては凄く励みになる」。34歳の指揮官はホッとした表情を浮かべた。
千葉県市原市出身。市立船橋3年時には主将としてウインターカップに出場し、ベスト8進出に貢献した。当時から教師になる将来を描き、筑波大に進学。しかし、大学3年時に転機が訪れる。Bリーグの前身であるbjリーグに千葉ジェッツが参入。「小さな頃からプロ選手ってかっこいいな、と思っていた」。地元に誕生したプロチームに心が揺れる。相談したのは高校時代の恩師だった。
バスケ部の顧問だった近藤義行現校長から「教員はいつでもできるから、今やりたいことをやりなさい」と背中を押された。「3年やって主力級になれなかったらやめよう」と決意。教員採用試験は受けずにプロの道へと進んだ。2014年、NBLに移籍した千葉ジェッツに加入。しかし、外国籍選手らに弾き飛ばされ、パワー不足を実感する。出場機会を得るため、体を作り、泥臭いプレーを心がけた。
しかし、3年目の2016年になっても主力の座は奪えなかった。3月、引退を決意。だが、そこからチームに怪我人が続出し、先発出場の機会も巡ってくるようになった。「最後は本当にこれだけやってもやっぱり上には上がいるんだと感じながら、でも自分の中では120%を出し切ってプロ生活を終えた」。5月31日に契約が切れ、正式に引退。7月中旬の教員採用試験に向けて、猛勉強を始めた。
開館から閉館までずっと図書館で過ごす毎日。「その時はもう仕事もないし、受かんなかったらどうしよう、という不安があった」。寝る時以外はほぼ勉強。見事に一発合格を勝ち獲った。さらに地元・市原市のちはら台南中から非常勤講師の話が舞い込み、7月から翌3月まで勤務。バスケ部の指導にも携わった。4月からは千葉県立八千代東高で正式に教諭に。2021年に母校・市立船橋に着任した。
星野監督の教え子たちはウインターカップで1勝を挙げた【写真:(C)SoftBank ウインターカップ2024】
■セカンドキャリアを選ぶ時は「やりがいを求めてほしい」
女子バスケ部のアシスタントコーチ(AC)、男子バスケ部のACを経て、昨年秋から監督に就任。プロでの自身の経験を踏まえ、スケジュールをガラッと変えた。昨年までは遠征に出て練習試合を重ねていた2~4月を体力強化のトレーニング期間に変更。勝てるようになるまでは「これで大丈夫?」と疑う周囲の声も耳に入った。星野監督自身も「凄く思い切ったので心配ではあった」と正直に明かす。
それでも貫き通せたのは、カテゴリーが上がるごとにフィジカル面での遅れを痛感した自身の苦い思い出があったから。大学やプロでも頑張りたいという選手の夢を聞き、卒業後も見据えた。「『シュートが入ったチームが勝つ』というチーム作りよりも、ある程度体を作って、大学などその後に活躍できる礎を作れたら」。肉体強化で泥臭く体を張れるようになり、結果もついてくるようになった。
試合になかなか出られなかった千葉ジェッツ時代、小さなファンからの純粋な「頑張れ!」という言葉に助けられた。「そういったプロ選手を夢見る子どもたちに、バスケットの楽しさを教えたい」。ジェッツのスクールで子どもたちに指導する機会もあった。「指導したら子どもたちの表情が良くなった」。できることが増えて嬉しそうな子どもの姿を見て、教員になりたい思いがさらに強くなった。
教え子の表情が明るくなることで感じるやりがいは今も同じだ。延岡学園に敗れて2回戦敗退となったものの、全国大会で1勝を掴み取った。「プロのコートに立つワクワクさとは全く違う。監督でこういう舞台に立った時のほうが幸せな気持ちは大きい」。ハイタッチを交わす選手たちを見て、指導者としての喜びを実感できた。
プロアスリートの選手寿命は短い。引退後の長い人生をどうするか。セカンドキャリアを送る“先輩”としてのアドバイスを求めると、星野監督は言葉を選びながらこう言った。「自分がどういう部分でやりがいを感じるか。地位とか名誉とかお金じゃなく、本当にやりがいを感じる仕事を求めてセカンドキャリアを選んでほしい」。勝った生徒を嬉しそうに労っていた監督の姿には説得力があった。(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)
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