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「井上尚弥」の強烈なネーム威力「偉大さを知った」 冠大会発起人に聞く、殴り合いが育てるもの

THE ANSWER / 2025年1月15日 7時43分

スクリーンに井上尚弥が映る中、リングで準備運動する子どもたち【写真:浜田洋平】

■第1回井上尚弥杯

 ただ、殴り合うだけではない。闘いが人を育てる。12日に東京・後楽園ホールで行われたアマチュアボクシングの第1回井上尚弥杯ジュニア・チャンピオンズリーグ(JCL)国際親善大会。次世代のジュニアボクサー育成が目的で初開催され、日本、韓国、中国の選手たち130人が参加した。発起人はJCL委員会の射場哲也会長。「THE ANSWER」の取材に大会創設までの苦労、ボクシングによって何が得られるのかなどを語った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 夢を追う少年少女が、日頃の努力をぶつけ合った。リング後方の大型スクリーンには、井上尚弥のポスター画像。日頃から拳を振り続け、制限体重を守った小学3年から18歳までの選手たちがリングに立てる。U-10、U-12、U-15、U-18のカテゴリーで65試合。勝って喜び、負ければ涙する。「本気」に溢れた光景が広がった。

「なんとか子どもたちを後楽園ホールのリングに立たせてあげたかった」

 開会式でマイクを握った射場会長の声が響いた。毎年、ボクサーの聖地・後楽園ホールで行われるJCL全国大会。昨年9月は台風で日程変更を余儀なくされた。年末まで会場を使えるのは平日だけ。子どもたちの参加は難しく、結果的に9月末に立川市内で開催された。

 でも、聖地を味わってほしい。大会を1つ増やすには予算が必要だったが、大手ジムの手を借りて目途が立った。「やっぱり国際試合って夢がある」。海外選手との交流はキッズの大会で初の試み。ジュニア年代が増えつつある韓国、中国の参加をプランに加え、青写真を広げていった。

「これ、本当にできるの?」

 スタッフから指摘された懸念材料。各地区の予選から全国大会に繋がる通常のJCLとは違い、1試合の単独開催では選手が集まらないのではないか。「その空気感を変えて、引っ張り上げるのが大変でした」。打開策として見出したのが「井上尚弥」の知名度だった。

 井上の所属する大橋ジムに大会名への使用を打診。大橋秀行会長を通じ、「大変光栄です」と快い本人の返答をもらった。11月末の正式発表後は全国から問い合わせが殺到。さすが世界的スーパースター、通常の何倍も多い300件ほどの応募に繋がった。射場会長は名前の威力に頭が上がらない。

「大会名を『井上尚弥杯』にさせていただけたのが本当にありがたかったです。心が広いというか、本当に井上尚弥さんの偉大さを知りましたね。『こんなに凄いんだ』と痛感しました」

 実はJCLの前身である「U-15全国大会」の2008年第1回大会で優勝したのが井上だった。プロボクサーとして研鑽に励む一方、次世代育成にも好意的。昨年12月24日の防衛戦が1か月延期されたため、今回は来場できず。射場氏は子どもたちへの動画メッセージをもらう選択肢も浮かんだが、「試合前に無理はさせたくない」と自重した。それでも、名前だけで十分なインパクトだった。


白熱した試合を展開するキッズ選手たち【写真:浜田洋平】

■日本ボクシング協会の登録者数に悲鳴「今、僕らがパンパン」

 43年連続で子どもの数が減り続け(総務省HPより)、スポーツ界では競技人口の維持・増加に苦労する競技がほとんど。しかし、プロボクサーが所属するRE:BOOTジムの会長でもある射場氏は「少ない中でも増えてきています」と、日本ボクシング協会の登録者数について明かす。JCLの出場者も毎年増えているそうだ。

 射場会長は「今、僕らがパンパン」と嬉しい悲鳴を上げた。

「選手はいるんです。でも、スタッフや大会数をどうやって増やすかが課題ですね。定期的にこういった大会を開くにも、僕ら協会員はジムの運営もありますし、ほぼボランティアで動いています。今、ジュニアのボクシングに熱い人たちがいるので『射場さんがやるって言うんならやるよ』と盛り上げてくれる状態。できれば、もっともっとやりたいです」

 もう一つ、ボクシングの裾野を広げるために必要なのが親の理解。今大会に出場した何人かの選手の母親に聞くと、「危険なので最初はやらせたくなかった」「喧嘩の延長」というイメージが先行していた。ところが、スポーツとしてルールが整備され、安全管理が徹底されていることを知り、「全くの真逆」と考えが変わったという。

 井上ら世界的に活躍する日本人プロボクサーが増え、アマチュアでも五輪メダリストが現れた。中でも井上の強さ、クリーンなイメージの影響は大きい。今大会の開会式、射場会長は「ヤジやクレームは一切受け付けません。酷い方は退場してもらう。アルコールも禁止」と呼びかけ、ジュニア大会の規律を守った。

「みんなが見るのはプロボクシングなので、危険で命懸けと思うかもしれません。でも、ジュニアの大会はそこまでではありません。ジュニアを経験した先にプロがあるので、段階を踏んでいきます。理解してもらうまで最初は抵抗があると思いますが、少しずつ親御さんもそんなに危なくないなと思ってくださいます。

 誤解が解ければいいですが、それでも人の頭を殴るスポーツ。常にストップのタイミングを考えたり、ルールの改良をしたりしないといけないです」


井上尚弥杯に出場した(右から)日本、中国、韓国の選手たちと、発起人の射場哲也会長(右)【写真:浜田洋平】

■特殊なスポーツが人を育てるものとは「そこに気がついていくんです」

 殴り合う危険性に加え、体重管理も必要。それでもボクシングに打ちこむ魅力はどこにあるのか。特殊な競技だからこそ、人を育てるものがある。

「リングでは1対1なので、人のせいにできません。自分の中にあるものとの勝負でもあります。そこに少しずつ気がついていくんです。負けたことで辞めようと思った子が『もう一回やる!』となった時、やっぱり自分の強さと向き合わないといけない。

 だから、負けたことで辞めてほしくないんですよね。勝ったことで続けるのも違う。勝った、負けたではなく、好きだからやる。『好き』が一番強いんです。井上選手も、中谷潤人選手もボクシングが大好きじゃないですか。昔のボクサーは悲壮感があって、生きていくためだった。今のボクサーはとことんボクシングを楽しんでほしい」

 第2回の開催は未定だが、全国の選手が参加しやすいように地方開催も思い描く。「今日もニコニコしながらやっている子がたくさんいた。『競技として楽しい』ということを、もっともっと広めたいですね」。汗だくになった子どもたち。その夢と成長をサポートしていく。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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