部活のスポンサーは地元のピザ屋や町中華 「お金は出すが口出さず」ジュニアスポーツの健全な商業化
THE ANSWER / 2025年1月20日 10時33分
■「Sports From USA」―今回は「地域のお店は、なぜ、運動部や子どものスポーツのスポンサーになっているのか」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「地域のお店は、なぜ、運動部や子どものスポーツのスポンサーになっているのか」。
◇ ◇ ◇
アメリカで飲食店に入ると、子どものスポーツの集合写真を飾っているところがある。私がこれまでに見かけたのは、自動車ディーラー、スーパーマーケット、スポーツバーなどで、スポーツバーでは、ご当地のプロスポーツ選手のユニフォームを飾っていることが多いが、地元の高校のユニフォームを飾っているところもある。
こういったものを掲示しているお店は、全てとは言い切れないが、子どものスポーツチームや高校運動部のスポンサーであることが多い。自分たちが彼らの活動を支援していることを示しているのだ。集合写真に「オフィシャルスポンサー」という文言が入っているものや、子どもたちからの感謝状が飾られていることもある。
スポーツのスポンサーといえば、ユニフォームにスポンサー名を入れて宣伝効果を図ることが思い浮かぶ。しかし、アメリカの高校の運動部でユニフォームにスポンサー名を入れているのは、4%以下で、グラウンドや体育館にバナーを掲示したり、このように店内で支援を示したりしていることも多い。学校外の子どものスポーツチームに関しては、正確なデータはないが、スポンサー名をユニフォームに入れている割合は学校運動部よりは高いのではないかと感じる。わたしの息子たちが小中学生時代に入っていた競技アイスホッケーチームでは、企業ロゴの入ったユニフォームを着用しており、小学校低学年時のレクリエーションの野球チームのユニフォームには、背番号の上に医療クリニックの名前が入っていた。これは保護者のひとりが経営していたクリニックであった。
先日、ミシガン州デトロイト郊外で、ベーグルとコーヒーを売るお店に入ったところ、2000年ごろからの地域の子どものバスケットボールチームの集合写真がずらりと並んでいた。ああ、このお店は熱心にスポンサーをしているのだなというのがお店の第一印象だ。オーナーに聞いてみると、写真は飾っていないが、中学や高校の運動部も支援しているとのこと。
スポンサーをしている理由をたずねるとこのような答えが返ってきた。
「私はここで22年間、ビジネスをしています。この地域のまわりにはたくさんの学校があり、中学校と高校もあります。私たちのお店に毎日のように来てくれる常連のお客さんは、(学校に子どもを通わせている)保護者が多いのです。子どもたちもこの地域で育っていきます。この地域にある中学校や高校はさまざまな活動をしており、(その活動を運営する保護者は)財源の調達をしています。
うちのお店だけでなく、この地域のスモールビジネスは、そこの中華料理店やピザ屋とかも、助けを求められます。こういう支援をしてほしいとか、ベーグルを差し入れしてほしいとか。こういったお願いをしに来られるのは、私たちの常連のお客です。それで、いろいろなイベントにベーグルを寄付しています。子どもたちはとてもベーグルが好きですから」
■支援額は年間15万~46万円程度
この話を補足すると、子どものスポーツや学校の運動部はファンドレイジング(財源調達)として、保護者を中心とする組織が資金集めを行うことが多いのだ。近くのお店や知り合いに寄付をお願いしたり、スポンサーになってもらうようにお願いしたりする。アメリカのいろいろなところで見られるファンドレイジングがここでも行われていることになる。
スポンサーになることでお店側の利益になっているのだろうか。「高校が近いので、高校生たちは昼ご飯の時間にたくさん来ますし、週末は親とやってくることもありますし、年度末や活動期間の終わりにはお礼のカードや盾を贈ってくれたりします」。1年間にどのくらいの支援をしているのか。「1000ドル(約15万5390円)か3000ドル(約46万6320円)の間です」
このベーグルショップは商品を無償で提供し、いくばくかの金銭的支援もしている。寄付とスポンサーの中間のような支援をし、そのことで店の存在を認識してもらうことにつなげているし、支援した高校生や親子が店にやってくる。顔のみえる範囲でお金が循環しているともいえるだろう。
企業や商店が子どものスポーツや高校運動部を金銭的に支援し、その見返りとして企業名や商品名の露出や宣伝の機会を得るのは商業化といえる。企業が利益を最大化するために、子どものチームや学校の運動部に介入した場合には「商業主義に陥る」ことになる。それでも、スポンサーをつけて商業化することと、スポンサーが自らの利益のために介入して商業主義に陥ることは全く同じではない。
アメリカをみていると、お金も出すが口も出してくることを抑止しながら、スポンサーから支援を得ているケースもある。お金も出すが口も出すやっかいな保護者や、課金しないと子どもが不利になると不安を刺激する悪徳業者と比べると、ビジネスライクで節度あるスポンサーのほうが、子どものスポーツ活動に悪影響が少ない場合もあるといえるのではないか。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)
谷口 輝世子
デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。
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