名門・横浜野球部が異例「お笑い大会」開催のなぜ 高校野球の課題に一石、エース&主将が漫才で爆笑さらう
THE ANSWER / 2025年1月26日 7時43分
■村田浩明監督が提案、異例の催しの裏にあった感謝と思い
第97回選抜高校野球大会の選考委員会が24日に開かれ、昨秋の神宮大会王者・横浜が2019年以来6年ぶり17度目の出場を決めた。昨年12月21日には、校内で野球部のお笑い大会を初開催。就任5年目の38歳・村田浩明監督が提案した異例の催しは、野球とはかけ離れたもののように思える。だが、その裏には保護者への感謝、部員に対する思いが込められ、高校野球の課題に一石を投じるものでもあった。
「どうしよっか」「一緒にやる?」。師走も半ばを過ぎた頃、部員たちの間ではこんな言葉が飛び交っていた。お笑い大会の開催が迫っていたからだ。野球では大舞台を経験している選手たちといえど、気の知れた友達の前であればいざ知らず、保護者や教員の前で漫才やコントをするとなれば緊張感は何倍にも跳ね上がった。
エースの奥村頼人投手(2年)もその一人。寮で同部屋の主将・阿部葉太外野手(2年)を誘い、コンビを結成した。だが、普段は白球を追いかける高校球児。肝心のネタはすぐには思いつくはずもない。「保護者を楽しませる、来客者を楽しませるのが一番」。どんなことをすれば楽しんでもらえるかを第一に考え、野球部の過去の出来事を奥村がネタとして提案。爆笑をかっさらった。
村田監督がお笑い大会を開催した理由。その1つが保護者の存在にあった。「今の時代、保護者の協力なしでは絶対に(活動は)無理だと思っている」。確かに、高校野球部員にとって、保護者の存在は欠かせない。公式戦には遠方でも応援に駆け付け、寮費に、練習着やスパイクなども費用がかかる。負担は少なくない。
また、基本的に観戦するのは試合のみ。子供の仲間である他部員のことを深く知れる機会もない。自身も横浜OBで涌井秀章(現中日)らと2003年選抜準優勝を経験している指揮官は、そんな状況を変えるきっかけを探していた。「保護者も『この選手こんなに面白いんだ』『この選手こういう子なんだ』というのを知ってくれて、自分の子供だけでなく、他のお子さんも応援してくれる。野球もそうなってほしいなと」
選抜出場決定後、選手たちにメッセージを送る村田浩明監督【写真:編集部】
■開催の意図は他にも「選手も野球ばっかりではなく…」
ただ、開催した意図はそれだけではない。「選手も野球ばっかりではなく、違うことをやってほしかった。野球だけやっていて相当疲れていたと思う。何か面白いことないか、何か野球につながることはないかなと考えたときにお笑い大会だった」。対外試合が禁止となる野球部にとってのオフシーズン。秋の日本一を掴んだ名門にとって、リフレッシュしながら野球に生かす舞台と考えた。
人前で漫才やコントを披露する。野球とはかけ離れたことのように思えるが、村田監督の考えは違う。「殻を破るだとか、自分を表現するとか、恥ずかしがらないことに繋がる」。試合に先発出場できるのはたったの9人。ベンチや客席から見守る部員も大勢いる。自己表現が苦手であれば、いざグラウンドに立った時に、持ち味を発揮できるか。勝負強さや対応力を見る機会にもなる。
漫才を披露した奥村頼は「日ごろ野球をやっていて思うんですけど、野球以外の部分でも、人前に立って緊張しないことが社会に出ても通用する部分だと思う」と必要性を強調した。また、コンビを組んだ阿部も「実際にやってみて、殻が破れたというか、なかなかグラウンド上で自分を出せない選手もいるので、そういった選手たちが一緒になって笑って、笑かしてという会になったのですごくよかった」と振り返った。
村田監督は、この催しが間違いなく成長につながると信じている。「僕はそういうのが大事だと思ってやったので。チームは明るくなったり、コミュニケーションは変わってきますよね」。自分の子供や部員たちが普段とは違った形で奮闘した姿に、保護者も大いに喜び、自分を表現することが苦手な選手も、変わるきっかけを掴んだ。
春夏通算5度の甲子園優勝を誇る全国屈指の名門。秋の日本一を掴んでなお、さらにチームが進化し、高校野球をより良いものにするために、チャレンジを止めない。(THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda)
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