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女子マラソンに23歳超新星が現れた謎が判明 同好会→10か月で歴代10位、小林香菜の急すぎる成長曲線

THE ANSWER / 2025年1月27日 5時53分

大阪国際女子マラソン、日本勢トップの2位でゴールした小林香菜【写真:中戸川知世】

■大阪国際女子マラソン

 9月の東京世界陸上代表選考を兼ねた大阪国際女子マラソンが26日、大阪・ヤンマーフィールド長居発着の42.195キロで行われ、23歳の小林香菜(大塚製薬)が2時間21分19秒で日本人トップの2位に入った。参加標準記録を突破し、代表争いで大きく前進。大学時代はランニングサークルで走りを磨いた異色の経歴を持つ。社会人10か月目で迎えた大きな飛躍。指導者の予想を超える成長の連続だった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 初体験ばかりの一日に戸惑いを隠せない。レース直後の場内インタビュー。新ヒロインは頬を赤らめた。

「まだ実感がなくて、わけがわからないです。タイム、いくつですか?」

 本人にも謎の結果。経歴と同様、奇想天外とも言えるレースだった。パリ五輪代表の鈴木優花、2大会連続世陸代表の松田瑞生ら実力者たちとの先頭集団。23歳の小林が主役になった。15キロの給水所でペースメーカーと接触。「一瞬焦ったけど、ぶつかった痛みできつさが和らいだ。よくわからないんですけど。うふふ」

 中間地点で先頭から離された。「ああ、もうしんどいなぁ」。胸の内とは裏腹に22キロ付近で追いつく力走。日本人は前に2人しかいない。「あれ、今回いけるのかな?」。再び前の背中が遠のいても、29キロで1人抜いて3番手に浮上した。


表彰式に参加し、笑顔を見せる小林【写真:中戸川知世】

「前、バテてるからいけるよ!」。沿道の声を背に残り800メートルで鈴木を逆転。8回目のフルマラソンで日本勢トップの2位だ。世界陸上の参加標準記録2時間23分30秒を突破しただけでなく、自己ベストを一気に3分40秒も更新。日本歴代10位の快記録でもある。

「気がついたら鈴木さんの背中が大きくて……。予想以上に走れて驚いています。後半に粘れた理由は自分でもよくわかっていない。どの練習がマラソンに生きたのか……。標準記録突破が目標と言いつつ、無理かなと思っていました」

 体やレースの感覚すらも荒削りだから驚きだ。トップランナーには類を見ない経歴をたどってきたルーキー。ここに好記録の理由がある。


会見直後に並んで撮影に応じる小林と河野匡監督(右)【写真:中戸川知世】

■同好会の練習は皇居ラン、登山サークルにも…

 早大本庄高陸上部では全国的な実績はなし。「マラソンを楽しく走りたい」。駅伝にも興味があったが、少人数の早大陸上部では駅伝ができなかった。そこで選んだのがランニングサークル「早稲田ホノルルマラソン完走会」。

 完走を目指すだけの同好会、練習は皇居ランを週1回2周する。登山サークルにも入ってみた。友だちと楽しみながらも、自分はガチ練習。ポツンと一人、黙々とジョギングを続けた。

「一人はつらい。サボっても怒られないし、自分を律するのは大変。周りも陸上をやっていない子たちだったので大変でした。でも、ひたすら一人でジョグをするのは好き。ボーっとするのが好きなので走っていました」

 2021年11月の富士山マラソンが初めての42.195キロ。「最初は楽しく走りたくて入ったけど、高校で結果を残せず心残りがあった。もっと速く走りたい」。くすぶった心が再燃。より熱を入れ、ネクストヒロイン枠で2023年の大阪国際女子マラソンに出場した。2時間29分44秒の12位。トップ選手にくらいつき、マラソン愛が膨れ上がった。

「この走り方なのにあのペースで走れるのか。本格的にやれば、もう少し高いところに着地する」と、ダイヤの原石に気づいたのは大塚製薬の河野匡監督。ただ、連絡を取ったのは小林のほう。進路を相談すると、「前橋出身で(拠点の)徳島は遠い。親御さんも心配」と最初は関東圏のチームを紹介された。それでも意志は強い。

「マラソンをやりたいです。大塚製薬じゃダメですか?」


フィニッシュ直後でよろける小林を支える河野監督(右)【写真:中戸川知世】

 河野監督は当時を振り返る。

「有森裕子さんも、高橋尚子さんもそう。やりたいという気持ちの子は絶対に頑張る。早大を受けるような人から『陸上に何年間か懸けたい』と言われたら、陸上界に関わる人間としては少しでも夢を叶えてあげるようなお手伝いをしてあげたいと思う」

 本格的な指導を受けたことがなかった大学生。フォームもぎこちなく、「これで実業団でできるのか」と疑問符をつけられた。実業団の練習タイムにも仰天。明らかについていけなかった。「え、これ、本当に全力?」。河野監督が思わず言ったほどだ。

「でも、彼女はとにかく練習する。少しずつ走る感覚を掴んでいきました」

 昨年4月の入社から1か月、長距離練習を走れる体つきに。あれよあれよと成長し、設定タイムは常に上方修正となった。急成長を支えたのは頑丈な体。河野監督は分析する。

「骨も強い。成長期にあまり専門的なトレーニングをやっていないけど、逆に言えばしっかり食べて体を作れている。練習をしても体が痛まない。体がむくんだり、疲労を感じさせたりすることがないんです。それが彼女の強さかも」


レース後の会見で「うふふ」と笑顔を見せる小林【写真:中戸川知世】

■調整レースで自己ベスト&優勝

 恵まれた素質がトップレベルのノウハウで磨かれた。今年の大阪国際女子マラソンに照準を定め、「40キロ走の代わりに」と調整で出場したのが昨年12月の防府読売マラソン。2時間24分59秒の大会新で優勝してしまった。河野監督は「これは大変だ」とまたも予想を裏切られた。

「その1週間前のクイーンズ駅伝前に転んで膝を2針縫っていました。抜糸しないまま防府に出たんです。『痛い』より『走るのが好き』が勝ってしまう」

 12月4日から1月9日まで米アルバカーキで初めての高地トレーニング。「最初から速く行ったから絶対に死ぬよ」。監督の忠告もどこ吹く風。というより、ペース配分を掴めておらずぶっ倒れた。「無理だけはダメ」と監視されたが、無事に12月は1200~1300キロを走破した。

 前回大会では前田穂南(天満屋)が2時間18分59秒をマークし、19年ぶりに日本記録を更新した。その練習法を聞いた河野監督は、少し強度を落としてやらせてみた。「たぶん途中でへばるだろう」という予想も覆され、過酷な練習も乗り越えてしまった。

「私の方が驚いています。彼女の成長に私も追いついていない。彼女は試合になったら、もう一つ違うエネルギーを持っているんだと思います。成長過程にとてつもない結果が出ている。要因を分析しないと次にいけません。現状で『なぜ伸びたか』については、持っているものが凄いということでいいと思います」


表彰式で並んで撮影に応じるウォルケネシュ・エデサ、小林、鈴木優花(左から)【写真:中戸川知世】

 すり足のような独特のピッチ走法。本人は「他の人と一緒の感覚のつもり。特別なものはないです」と中学で自然と身についたという。

 代表は最大3枠。3月2日の東京、3月9日の名古屋で参加標準記録を突破した選手から総合的に判断される。現状では小林が一歩リードした。会見場では終始笑顔だったが、やはり戸惑いも隠せない。

「もちろん世界でマラソンを走りたいと言って入社して頑張ってきたけど、自分の成長に対して、トップ選手ほどの精神面の成長が追いついていないです。上のレベルの方々は、気持ちの面も見ているところが違う。自分もそういうふうに強くなりたい。将来は日の丸を背負ってマラソンを走りたいです」

 9月、東京を駆け抜けるのか。新ヒロインの伸びしろは広く、きらめいている。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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