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ラグビーにレンタル移籍導入、“助っ人化”に懸念 脳震盪の度合を数値化する最新科学テクノロジーとは

THE ANSWER / 2025年1月30日 10時34分

今季導入された「期限付き移籍」の制度、有力選手の“助っ人化”に懸念【写真:Getty Images】

■ラグビーライター・吉田宏氏のリーグワン検証/後編

 5節を終えたNTTリーグワン・ディビジョン1は、1週の試合休止を挟んで2月1日からゲームを再開する。序盤戦では接戦の増加など観戦する側も楽しめる地殻変動が起きているが、その背景には、前編で紹介したチームによる強化や、カテゴリ制の変更も影響している。後編では引き続き様々な規約変更(導入)がリーグにどんな変化を生み出したのか、そして集客面、新たに導入されたテクノロジーの影響なども検証する。(前後編の後編、文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 チームの戦力にも直結するカテゴリ制の改訂と共に、今季導入されたのが「期限付き移籍」だ。いわゆるレンタル移籍だが、第5節を終えた段階でこの制度を使ったチームはない。序盤戦の振り返りには当てはまらないが、各ディビジョンの順位争いや成績に直結するレギュラーシーズン終盤戦、プレーオフ、入替戦などのポストシーズンの段階での適用を踏まえて、事前に問題点を考えておく必要はあるだろう。

 詳細はリーグワンホームページ(「選手規約および登録に関する規定」改訂)を参考にしていただきたいが、基本的なルールは、移籍を受け入れる場合は上限3人(4月以降は1人)、1シーズン内での移籍先から元の所属チームへの復帰は不可能となっている。

 主な趣旨としてリーグ側では「チームにとっての選手活用機会、および、選手にとっての活躍機会を増やし、シーズン中の戦術的な補完や、ケガ等での選手不足による試合不成立の回避を実現する」としている。とりわけ下部リーグの選手、公式戦経験の少ない若手選手でも、高いレベルの実戦経験を積むことで成長を促すのが大きな狙いで、それに加えてシーズン途中でのチームの戦力維持、強化も目的とされている。

 制度自体は、選手により良いプレー環境、プレー機会を創り出そうというものだが、詳細をみると、このような趣旨に基づいたものとは異なる形で適用されてしまう可能性も浮かんでくる。あるチームが、あと1勝出来れば入替戦を回避できる、入替戦でどうしても負けられないために戦力アップしたい――。このような事情で、他チームから有力選手を“助っ人”として補強する可能性だ。もちろん規定上はこうした都市対抗野球のような補強も認められてはいるが、実際に今季適用されるケースを現段階で想定すると、若い選手の経験値アップという本来の目的よりも、後者のチームの事情によるレンタル補強が横行してしまうのではないか。プレーヤー・ファーストではなくチーム・ファーストの適用。そんな憶測は杞憂に過ぎないだろうか。

 繰り返しになるが、実際にこの制度が適用されるのはシーズン後半戦だろう。リーグ関係者が「具体的に適用されていないので現状での判断は難しい部分がある」と語っているように、制度の評価は今後の具体的な移籍が行われるのを待つしかないのだが、実際に適用されたケースを検証しながらでも、やはり細かなルール策定は必要だろう。

 あまり1つの規定を、ガチガチの条件で縛り付けるのは個人的にも歓迎しないが、本来の可能性を持ちながらプレー機会の少ない選手に実戦経験を増やすことを重視するのであれば、社会人リーグやチーム在籍年数や年齢、公式戦プレー時間などという若手のレンタル移籍が優先されるような条項があってもいいだろう。


スマートマウスガードに関するブリーフィングで紹介されたこのテクノロジーを導入する主要なリーグ。世界の名だたる大会の大半で使われている【写真:吉田宏】

■前シーズンはW杯明け、観客数の推移は?

 ここからはグラウンドを離れた振り返りになるが、序盤戦の観客数にもスポットを当てたい。

 ディビジョン1の第5節、30試合を消化した時点での1試合平均観客数を見ると、昨季の1万459人から8539人と減少している。この数字は、昨季ディビジョン1レギュラーシーズンの1試合平均観客8929人に近い。先に紹介したように得点差が減少してクロスゲームが増える中での減少は残念だが、チームの経営サイドではこの苦戦を想定していたという声もある。BL東京の荒岡義和社長は、オフシーズンに今季の観客動員についてこんな見通しを語っていた。

「2023-24年シーズンはワールドカップ(W杯)明けの開催だった。このため、日本代表選手や世界で活躍した選手の加入が、集客面ではプラス材料だったが、新シーズンはこのような追い風はない。集客面でも厳しい部分があるのではないか」

 理想としては外部要因に関わらず観客数を増やしたいところだが、このような“荒岡理論”をベースに考えると、各チームが5試合を終えての平均2000人減は比較的妥当な数字なのかもしれない。多くのチームが昨季比での減少を認め、深刻に受け止めている一方で、チームスタッフからは「苦戦の中で、なんとか頑張れている」という声も聞く。

 リーグワン広報担当者も「楽観はしていないが、そこまで悲観もしていない観客数。今季はワールドカップ(W杯)がないことは当初から懸念としてありつつも、現状ディビジョン1は去年の8割程度の集客という状況だ。ディビジョン2では、チーム数増加を踏まえても観客数は伸びていて、ディビジョン3も同様に着実な積み上げはしっかりある」と一定の評価をしている。ディビジョン2では、共にディビジョン1経験チームだが、レッドハリケーンズ大阪が昨年12月に行われたNECグリーンロケッツ東葛との開幕戦で9000人を超える観客を集め、今年1月11日にはGR東葛が本拠地の千葉・柏の森公園総合競技場での日野レッドドルフィンズ戦で1万646人の観客を集めるなど奮闘をみせている。

 このような成長の理由を、同広報は「ディビジョン1のみならず2、3でも、外的な要因に左右されない、シーズン毎の(集客の)着実な積み上がりはしている。1年目は皆手探りだったが、チケット販売などのデータを取るなど様々な手を打ってきている。地域に根差した取り組みなどで、チームがファンをしっかりと育てていることなどの表れではないだろうか」と指摘。リーグ側でも、招待客への告知、募り方などのノウハウ、リーグや協会と同じチケット販売フォーマットの提供などで連携、サポートはしているが、「あくまでもチーム側の努力」(同広報)と説明する。

 ディビジョン1でも、開幕節を見ると1試合平均で昨季の1万1762人から1万2244人と500人弱の増加をみせている。微増ではあるが、先ほどの荒岡理論、そしてリーグ集客の追い風としても期待される日本代表の苦戦続きなど、動員に拍車をかける要素が乏しい中での増員は一定の評価が出来るだろう。

 シーズン比で見れば、昨季は第2節で3万人台の集客が2試合あったことが大きかった。この集客は横浜Eが神奈川・日産スタジアムでのホスト開幕戦で動員をかけ3万1312人の観客を集めたこと、そして東京SGも東京・味の素スタジアムでの開催に3万1953人と集客に力を入れたことが大きかったが、今季はそこまで爆発的な動員が出来なかったことも響いている。チーム側から集客面で不評だったのが、今季は第2節が過去には開催のなかった年末(12月28、29日)に行われたことだ。「年末の時期だと、冬休みではあるが帰省などもあって観客動員は難しい」と指摘するチーム関係者の声も複数あった。この異例の日程については、レギュラーシーズンが2試合増加されたこと、リーグ期間前後の日本代表の活動などで詰め込まれたものだった。この過密日程については、リーグ側でも2028-29年シーズンからの秋開幕も構想しているが、年末年始開催については、今季のマーケティングも踏まえて早急な改善も必要かも知れない。

 一方で、観客動員については数字だけを睨んでも意味はないだろう。大前提として、ホストスタジアム問題があるからだ。リーグワンは発足時から、それぞれのチームにホストエリア、ホストスタジアムの確保を求めているが、多くのチームが4シーズン目を迎えた今季もスタジアム確保に苦戦を強いられている。

 企業(学校)ベースで進化してきた日本のラグビーは、リーグワンが掲げる地域に根差したチーム作り、運営に取り組んでいる最中だ。公式戦開催が可能な規模のスタジアムの確保は、どの地域でも既に根付いているJリーグが先行しているのが実情だ。そのため、今季開幕まで2か月を切ったばかりの昨年10月24日時点で、キックオフ時間、試合会場が全て確定していたのは全18節の中で6節までに過ぎなかった。第5節を終えた1月第4週の時点でも、14節以降の時間、会場が未定の試合が半数を超えている。このような状況で、チケット販売、ファン動員にどこまで力を注げるのか。チケット販売なども担当するあるチーム関係者は「チケットを買っていただくにも、テレビ中継の相談をするにも、キックオフ時間や会場が未定では、強くお願い出来ない」とこぼしている。

 集客、つまりチケット販売についてはすべてホストチームが担うのだが、リーグワン発足前の段階から、各チームが優先使用権を持つ本拠地を確保するのが相当難しいことは、ラグビー関係者誰もが周知のことだった。リーグワンの準備段階では、リーグ側もスタジアム確保に協力する旨を語っていたが、多くのチーム関係者は「スタジアム探し、確保でリーグから協力はほとんどない」と苦言を呈している。

 リーグ関係者も「リーグ側から働きかけが出来ているかというと、出来ていない。スタジアム確保のために具体的に何かあるかというと、画期的な解決策はない。そこは地道にやるしかない」と語っている。この厳しいスタジアム確保問題を考えれば、個別チームによる努力はもちろん必要だが、リーグや、場合によってはラグビー協会が共同で取り組むべき急務だろう。前身のトップリーグ時代は、協会でスタジアム確保なども含めて地方自治体との連携を図る担当者もいた。残念ながら現時点でリーグ、協会内にそのようなポストはないが、スタジアム確保はチケット販売や集客問題の一丁目一番地だ。


ブリーフィングでは実際使用されるマウスガードも公開。超小型のセンサーで脳への衝撃を計測する【写真:吉田宏】

■目視で脳震盪と判断されてきた事象を数値化するテクノロジーとは

 最後に、今季から導入されたテクノロジーに触れておこう。1月15日、リーグワンは都内で今季から導入されたスマートマウスガードに関するメディアブリーフィングを行った。スマートマウスガードは、脳への衝撃を計測する目的で開発された。マウスピース内部に埋め込まれた超小型センサーにより頭部への損傷を計測する最新のテクノロジーだ。設定された閾値の衝撃の強度と角度が、試合中オンタイムで医療スタッフの端末にアラート(警報)として伝達され、従来のHIA(Head Injury Assessment=頭部損傷審査)と同様に10分以内のメディカルチェックが行われる。

 従来はコンタクトを受けた選手のダメージ具合や医療スタッフの目視で脳震盪と判断されてきたものを、科学技術で数値化して計測するものだ。ブリーフィングに出席したWRの科学医療マネジャーは「脳震盪は4試合に3件の頻度で起きている。それを見た目にはわからない情報も得ようというのがスマートマウスガードの目的です。繰り返し起こる脳への衝撃は、認知症などにも影響します。2年前までは選手への衝撃がどれほどかを(数値として)知る術がなかったものを、このスマートマウスガードで検出していきます」と新たなテクノロジーへの期待を語っている。

 統括団体WRでは昨年1月からスーパーラグビー・パシフィックや欧州6か国対抗など世界の主要大会で使用を義務付け、8000人の選手による100万件のデータが集積されているという。1体5万円近いマウスガードなどの経費は全てWRが受け持つ。リーグワンが22大会目の導入で、現在ディビジョン1、2で適用されている。ブリーフィングが行われた時点で、24試合で使用されて、1チームあたり2.5試合に1回、選手1人平均に換算すると46試合に1度という頻度でアラートが作動している。

 興味深いテクノロジーだが、では、その計測にどこまでの正確さがあるのか。ブリーフィングで「誤作動の可能性や頻度は」と質問すると、同マネジャーはこう説明している。

「様々なテストをしてきて信用度の高いものなので、誤作動が起こることはあまりないと思う。選手が正しく口に装着していてアラートがあれば、必ず何か閾値を超えた衝撃が起きたと考えられる」

 敢えてこのような質問をした背景には、笑い話のような実例があった。ある選手がプレーの合間に取り外したマウスガードを持ったまま無意識に手を叩いたためにアラートが鳴り、検査のために一時退出されたという話だ。これは誤作動というよりも誤使用というべきではあるが、WR側の見解とはすこし異なる事案も聞いている。チーム内でスマートマウスガードを受け持つのはトレーナーが多いのだが、あるチームの担当者は「4節までに4回アラートがあったが、医療スタッフが選手を直接検査すると脳震盪の兆候は0だった。その一方で、2人の脳震盪者がでたが、そのケースではアラートはなかった」と指摘している。

 あるチーム関係者は、「まだ導入したばかりで評価は難しい」と前置きしながらも、「もし、あまり測定精度が高くない、誤作動が多くなると、原因理由なく選手を一時退出させられてしまうことになり、ゲームにも影響する可能性は否定出来ない。使いたがらないチームや選手も出てくる可能性もある。選手の安産対策としては価値のある技術なので、一定の精度は必要だ」と指摘する。まだ導入したてのテクノロジーで、センサーの精度や、測定の閾値の設定もどこまで正当性があるかなど、これからも様々な検証やフィードバックが行われることが、より適切で有効な測定に繋がるという段階なのは間違いない。このような精密な機材は実用の蓄積と修正で精度を高めていくものだろう。同時に、世界的に問題化、深刻化している安全対策面で、WRとして真剣に取り組む姿勢をアピールしたい思惑も、このシステム導入には反映されていそうだ。

 現在進行形の試合中での検出も重要ではあるが、ブリーフィングを聞くと、むしろこのテクノロジーにより計測されたデータをどう生かしていくかが重要だと感じている。どのような状態でのコンタクトが脳への深刻なダメージを与えるのかを数値化することで、禁止、是正するべきプレーや姿勢、体の使い方などを洗い出せる可能性にこそ価値があるように思える。

 同マネジャーも「試合中や練習中に、何が大きな衝撃を生むのかを見ていきたい。それによって、危険なプレーをどう減少させるかということも(マウスガードを)導入した目的の一つです。例えば同じような2つのドリルで、片方が脳に衝撃が少ない数値があればそちらを推奨出来るし、何が脳震盪を引き起こすかというのも見ていけると思う」と、今後のデータ集積から得られる成果に期待している。機材の費用や、試合と同時にデータを計測するシステムを考えれば、導入出来るのは一部のトップレベルの大会、試合のみになるが、データから安全なプレーが解析出来れば、どのカテゴリのラグビーにも反映できる。このような観点からは、画期的なシステムと期待していいだろう。

 第2フェーズの1シーズン目というステージが始まり、序盤戦を終えたリーグワンは明らかに変貌の時を迎えている。ファンをスタジアムへ、中継放送へと向かわせるのは、選手のパフォーマンスとゲームのクオリティーなのは間違いない。この不変の鉄則に加えて、様々な制度変更やテクノロジー導入が地殻変動を加速させることが出来れば、国内最高峰リーグは、さらに魅力に満ちた舞台へとステップアップするはずだ。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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