女子高生から30代まで、日本代表を一つにした“魔法の4文字” 向き合う2つの難題…五輪出場で全てを変える【アイスホッケー】
THE ANSWER / 2025年2月6日 6時43分
■6日から苫小牧でミラノ・コルティナ五輪予選…日本代表が向き合う2つの難題
五輪4大会連続出場を目指すアイスホッケー女子日本代表「スマイルジャパン」は6日から、来年2月にイタリアで行われるミラノ・コルティナ五輪の出場権を懸けた最終予選を北海道苫小牧市で戦う。ここから本戦出場をつかめるのは、日本、フランス、ポーランド、中国の4か国で行うリーグ戦を制した1か国だけだ。日本は急激なチーム若返り、強化費の大幅削減という荒波の中で集まった23選手がこの舞台に臨む。とりわけ難しかったのが、17才の高校生から、代表の歴史をつくってきたベテランまで。ゆうに一回り以上の年齢差がある集団をどう一つにするか。主将の悩みを解決した「ツール」に迫った。
日本代表は2022年の北京五輪で、スウェーデンを破るなどして初めて準々決勝に進出した。ただ大会後に待っていたのは、世代交代の嵐だ。代表を長年支えた選手が次々に現役を退いた。残されたと言っていいのが、現在主将を務めるDF小池詩織だ。ムードメーカーとして、氷上でも氷を降りても存在感を発揮してきた選手だが、飯塚祐司監督からの主将指名には尻込みする部分もあった。それを上回ったのが、この競技の火を消してはいけないという使命感だ。
「びっくりですよ。でも五輪に出場できるチームを、あとにつないでいきたいという思いだけで引き受けたんです」
国内では決してメジャーとは言えない種目で、日本女子は10年近く世界の6~8番手につけている。なぜこんな偉業が可能だったかといえば、2014年のソチ五輪出場を勝ち取ったメンバーの経験値が突出していたのが大きい。女子高生の頃からU-18代表でともに戦い、平昌、北京と五輪3大会に出場したメンバーが立て続けに引退した時、チームでは世代の断層が大きな課題となった。
小池は北京五輪からの3年間を「最初の1~2年はコミュニケーションに苦労しましたね」と実感を込めて振り返る。新たに代表に加わったのは、世界を相手に戦う自分たちに憧れ、アイスホッケーに熱中した選手たち。今回の代表には、17歳の女子高生もいる。3月に32歳となる小池は、年齢が一回りも違う選手たちと「誰でも意見を言えるチーム」を作りたかったが、簡単ではなかった。
「どうしても世代ごとに集まってしまったり、若手とベテランが分かれてしまうんです。中堅に間をつないでくれないかと頼んだり、私イジられキャラなので、イジってくれと話をしたり……」
そして、最後に距離を縮めるのに役立ったのが、世界で広く用いられている性格診断ツール「MBTI」だった。自身の性格がアルファベット4文字で表現されるのだ。今シーズンが始まろうとする頃、代表選手の間でもはやり出した。小池は「若い世代の間ではやっているらしいですよね。私は全然知らなかったんですけど、今では全員やっています」。出た結果がコミュニケーションツールになった。共通の話題で距離が詰まるほかに、実質的な利点もあった。小池は言う。
北京五輪後に主将となった小池は、日本代表の歴史を作ってきた1人【写真提供:(C)JIHF photo by 永山礼二】
■性格判断で分かった意外な事実、強化費大幅減の現実もここで変える
「意外だったんですけど、チームの半数が内向型で……。その中で4人にエンターテイナーの素養があるとわかったので、チームの盛り上げに力を借りています。MBTIでわかった性格だったり、自分の強みを活かせるような係についてもらうことができるようになりました」
20歳のGK川口莉子や、18歳のDF佐藤虹羽に盛り上げ役の資質があると分かった。陸上トレーニングの前に必ず円陣を組む。そこで「いい声を持っている」という川口が声を出し「盛り上げ隊」が続いて声を上げ、気分を乗せていくのだという。他にも「モチベーション係」「カウントダウン係」「チームスローガン係」「チームビルディング係」と選手それぞれが、自身の強みを生かしてチームの中で役割を背負う。
チーム最年長、32歳のDF細山田茜は「私は『INFJ』提唱者と出たんですけど、これは一番レアと言われていて、全体の1パーセントちょっとしかいないらしいんです。考え方がみんなと違うらしくて、不思議ちゃんとか言われるんですけど……」。チームメートと違うことも、強みになる。日本女子の氷上での課題は常に得点力だ。新たなプレーのアイデアを提供できるかもしれない。
飯塚監督が小池に主将を任せたのは、まとめ役としての資質を買ったほかに「女子アイスホッケーが、あまりいい環境でなかった時から戦ってくれている選手」という理由もあった。2013年にスロバキアで行われたソチ五輪予選を、日本は第3シードから勝ち上がったことでガラッと変わったものがある。選手のプレー環境だ。
当時注目されていたのは、選手がピザ配達などのアルバイトをしながら、自腹で遠征費用を払ってプレーを続ける姿だ。五輪本戦に出場すると、その価値に注目した企業が、選手を雇用して活動を支えるケースが出てきた。遠征の自費負担は消え、大学を卒業してからも競技を続ける道が細いながらも生まれた。より長いスパンでの強化も可能になった。
ところが、今の日本女子は再び難しい時期を迎えつつある。東京五輪に向かってスポーツ界に流入してきた資金があっという間に消え、経済的に自立していない冬季スポーツも継続した強化が難しくなっている。飯塚監督は「強化費が大幅に削減されて、ちょっとカバーしきれないくらいになってしまって……。その上で昨今の円安ですからね」と苦悩を漏らす。
平昌大会や北京大会の前には毎月のように行っていた海外遠征を大幅に減らし、国内合宿の継続を選んだ。遠征先で対戦する国も、かつてはフィンランドなど世界ランキング上位国だったのが、格落ちは否めない。「1回海外遠征するなら3回国内合宿ということを続けていると、相手に入れてもらえなくなってしまうんです」と指揮官。その中で巡ってきた、国内開催の五輪予選だ。ここでもう一度波を起こしたいという使命感は強い。
2017年2月、今回と同じく苫小牧で行われた五輪予選には、連日3000人を超える観客が集まった。いつもは関係者ばかり、せいぜい数十人のスタンドを見慣れていた選手にとっては大事件だった。小池も8年前の光景を思い出しながら「本当に、超満員の中でプレーができて……。自分のパフォーマンス以上のものを、背中を押していただいて出すことができたんです」。五輪出場と、その先にある競技の発展を夢見て。選手たちはトレードマークの笑顔で氷に立つ。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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