楢崎智亜、日本人初Vで奪った五輪切符 23歳で競技の「顔」となった兄の覚悟

THE ANSWER / 2019年8月22日 6時13分

金メダルを獲得した楢崎智亜【写真:荒川祐史】

■真剣勝負直前、明智との兄弟対決に「勝っても負けても恨みっこなしだぞ」

 東京五輪新種目のスポーツクライミング世界選手権(東京・エスフォルタアリーナ八王子)は21日、スピード、ボルダリング、リードの3種目を合わせた複合の男子決勝が行われ、エースの楢崎智亜(ともあ・TEAM au)が金メダルを獲得し、東京五輪代表に内定した。20日の女子決勝銀メダルで内定を決めた野口啓代(あきよ・TEAM au)に続き、男子の新種目では五輪内定第1号。世界選手権では、昨年大会から始まった複合での日本人による優勝は、男女通じて初の快挙となった。

 日本のエースが五輪への壁を圧勝で登り切った。ノックアウト方式のスピードでは、1本目に3学年下の弟・明智(TEAM au)と兄弟対決。真剣勝負の前に「これは勝っても負けても恨みっこなしだぞ」と伝えると、明智も「ごめんね、勝っちゃって。俺が勝つから」と冗談めかしながら、いつも通りライバル心をむき出しにして戦った。

 大舞台での兄弟対決を6秒500で制した智亜は、勢いに乗った。フランス選手との2本目は自身の持つ自己ベスト6秒291を更新する6秒159を叩き出して勝利。3本目は敗れて2位となったが、大歓声の中で上々のスタートを切った。

「一戦目の相手が明智だったのがよかった。いつも通りの相手だったので、落ち着いてできた。2人で決勝に残れたので凄くリラックスできていたし、能力を上げ合えたと思う」

 尊敬し合う弟の存在に感謝すると、続くボルダリングは第1課題に1トライ目で完登する「一撃」を決め、出場8選手で唯一のクリア。ドヤ顔で右拳を握り、雄叫びを上げた。第2課題も最後のジャンプでつかみ取る唯一の完登で拍手喝采。第3課題も一撃を決め、会場は“智亜劇場”と化す盛り上がりで堂々の1位で終えた。

 最後のリードを総合トップで迎えた智亜に対し、スピード5位、ボルダリング2位の明智は総合3位。この時点で五輪切符は楢崎兄弟に絞られた。一騎打ちの展開で迎えたリードでは、明智が序盤でまさかの落下。智亜が2位で逃げ切り、勝負所で兄の貫録を見せつけた。

「こんなにうまくいくとは思わなかったので、少しびっくりはしている。でも、今日が一番体が動いていた。優勝できると思っていたのでそんなに舞い上がってはいない。野口選手にも言われたけど『複合は本当にメンタル勝負だよ』と。最後まで気持ちを切らさずやった。これから五輪まで、みんなよりもやりたいことができる」


楢崎智亜は東京五輪でも「金メダルが目標」だと話した【写真:荒川祐史】

■「トモアスキップ」は世界の流行り、兄弟での五輪出場へ「明智を鍛え上げる」

 2016年8月にクライミングが東京五輪新種目に採用された当時。20歳の若武者はボルダリングで日本人初のW杯シーズン総合優勝を飾ると、世界選手権(パリ)でも金メダルを獲得した。一躍「東京五輪の星」として脚光を浴びた日本のエース。若くして競技の顔となり、クライミング界の期待を一手に担う存在となった。

 小学5年から本格的に始めたクライミング。23歳となった今では、身長170センチと小柄ながら抜群の身体能力でダイナミックに壁を登り、海外では「ニンジャ」と呼ばれるスタークライマーになった。スピードでは、スタート直後のホールド(突起物)を使わずに直線的に登る独自のスタイルで世界を席巻。「トモアスキップ」と称され、海外選手たちが「俺もやったよ!」と声を上げるほどの“流行り”を生み出してきた。

 今季もボルダリングで年間王者に輝くと、13日には金メダルを獲得。ともに3年ぶりの栄冠でエースの存在感を発揮した。3学年下の弟・明智は総合5位。兄弟での東京五輪出場の夢をかなえるには、2枠の五輪切符のうち今大会で1枠を死守するのが絶対条件だった。

 栃木・宇都宮市出身で、実家には幼い頃に壊れたっ切りテレビがない。五輪という世界的祭典の盛り上がりもイメージが沸かないかもしれないが「金メダルが目標なので、それに向けてどの種目でも1位、1位、1位を狙えるようにしたい」と1年後の世界一を真っすぐを見据えている。

 東京五輪は残り1枠。「明智が入ってくる可能性は十分ある。今は僕が先に決まったので、ここから僕が明智をしっかり鍛え上げて2人で出たい。『待ってるぞ』と言いたい」。兄弟、なんでも言い合える仲間、そして最大のライバル。楢崎兄弟の固い絆を結び、これからも2人で五輪への壁を登っていく。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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