親の恐怖体験は孫の代まで遺伝する!? ~自分の中に棲む誰かの記憶~

tocana / 2013年12月9日 16時30分

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「身の危険を感じる体験をすると、その「記憶」が子々孫々に遺伝して受け継がれる」

 そんな研究結果が、米国エモリー大学の研究チームよりまとめられ、12月1日に英科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」に掲載された。

 実験は、雄のマウスの脚に電気ショックを与えながら桜の花に似た匂いを嗅がせ、その匂いを嗅ぐと恐怖を感じさせるというもの。電気ショックを何度か繰り返すと、桜の匂いを嗅いだだけで身構えるようになる。

 その後でメスとつがいにして、生まれた子どもにさまざまな匂いを嗅がせた。すると、父親が恐怖を感じた桜の匂いを嗅いだ時だけ、強く怯える仕草を見せた。

 この反応は、孫の世代でも同様に見られた。

 電気ショックを受けた父親と子孫の精子のDNAを比較したところ、両者とも嗅覚を制御する遺伝子に変化した跡が見られたという。もっとも、こうした一致は、親が子に「教育」した結果とも考えられる。その可能性を排除するため、父マウスから精子を採って人工授精で生まれた子の脳を調べたところ、同様の変化が見られた。

 父との接触がまったくない人工授精マウスでも、桜の臭いを嗅ぐという「恐怖体験」が、精子のDNAを介して継承されるという結果になったわけだ。

 マウスに限らず、人間でも「恐怖」に代表される「感情」が遺伝して子孫に伝わるとしたら、現代の科学的常識を覆すことになるが、本当にそうなるかどうかは今後の研究を待たなければならない。


■恐怖心は本能か、遺伝か、学習か?

 この研究結果を知って思い出したのは、「ヘビを怖がるのは本能」とする日本の研究だ。

 2010年に京都大学の正高信男教授らが発表した研究では、ヘビによる恐怖体験がない3歳児でも、大人と同様にヘビに敏感に反応し、自分に襲いかかってくるかもしれないヘビの攻撃姿勢を見分けられることを示した。

 蛇を見て恐怖心を覚えるのは、世界共通のものだろう。だが、それが「本能」なのか「学習」なのかという論争は、19世紀から続いていた。正高教授らの研究では、それが「本能であることを示す」という。

 かたや、インドでは、赤ちゃんにキングコブラを近づけて、赤ちゃんに触れさせるという、非常に恐ろしい宗教的儀式がある。蛇を恐怖する心が「本能」か「遺伝」かの論争は別にしても、毒蛇をまったく怖がらない赤ちゃんというのは、どう説明をつけたらいいのか。この分野の研究は奥が深い。
(百瀬直也)

tocana

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