奇習! 夜這いをしないと村八分 ― 長野県の集落にあった「成人の儀」とは?

tocana / 2016年3月8日 7時0分

「そりゃあもう、気が気じゃねえよ。だって、足が遅かったり、自分の家と相手の家が離れていたら、他の男に寝取られてしまうわけだからさ。けれども、たとえば別の男と恋仲になっとる女に横恋慕しとる男からすりゃあ、恋仲になれなくとも一回は確実に抱けるかもしれない一発逆転の大チャンスというわけ。これが本当の横槍だよな(苦笑)」

 儀式が行われる晩、見事、「一番槍」を突き立てた男からその想いを伝えられた女は、もしその想いを受け入れる気があるのならば、その後、結婚を前提とした交際関係を認められるのだという。しかし、女が首を縦に振らなければ、一番槍以降も、二番、三番、四番という具合に、朝日が昇るまで複数の男たちと枕をともにすることとなるのだ。

「まあ、私の場合はね、ハナから相手を決めてたから、その日は全力で駆けて、もちろん、一番槍を手に入れたよ。それが今の女房なんだけどもさ、それこそ一歩遅れてたら、他の男にとられてしまったかもしれねえんだ。運も良かったんだろうな、なにせうちの女房は器量よしだったからさ」

 こうした儀式が成立した経緯については、不明な点も少なからず存在するが、実はこの手の儀式は世界中の至るところで、今なお確認することができる。たとえばそれは「歌合せ」のような会であったり、力ずくの誘拐のようなものであったりと実に様々である。だが、文化や風土の異なる国や地域で、類似点を多く持つ儀式がある点は実に興味深い。

「私もね、詳しいことはよくわからんのだけども、男にとっちゃ死にもの狂いで好いた女を抱きに走るわけだから、そりゃあ嫁にもらった後だって、大事にするさ。女にしたって、好きでもない男に抱かれる危険を味わいながら、好いた男を待つわけだから燃えるだろう?

 携帯電話やなんかで簡単に好きだのへったくれのだって言い合えて、パソコンだかなんだかで抱ける女探したり、股を開いたりできる時代の子らからすりゃあ、こんなこと、わかりゃしねえかもしれないけどな」

 山口さんがその儀式を体験してから、早いもので既に約70年の歳月が流れた。その間に多くの若者たちが新成人となり、やがてはその子供たちが恭しい表情で式に臨む姿を見送るといった光景が、この国の至るところで展開していたことだろう。

 無論、現代の若者にとって過去の不可思議な習慣は、興味すら抱けぬ存在に過ぎないだろうが、そうした歴史の上に今の自分があることを、心の片隅に留めて頂きたいところである。
(文=戸叶和男)


※イメージ画像:「Thinkstock」より

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