世界で“争奪戦”…バイオ燃料となる使用済み天ぷら油『廃食油』国内回収と消費が日本のエネルギーの支えに
東海テレビ / 2024年8月3日 21時0分
天ぷらを揚げた油『廃食油』が、バイオ燃料の原料として活用されている。バイオ燃料は、CO2の排出量を“実質的にゼロ”にできるとして需要が急速に高まっていて、世界各国の間で“争奪戦”となっている。その争奪戦に挑む、日本の現在地を取材した。
■天ぷら油が脚光 使用後の“お役目御免”は過去の話
名古屋市守山区の「メーキュー」は社員食堂の食事や学校給食などを提供していて、名古屋市内を中心に20カ所に納入している。
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1日に2000食ほどを作っていて、大人にも子供にも人気の揚げ物は、全てここで調理されている。1カ月で200リットルものてんぷら油が使われているということだ。
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それだけ使えば残るのが、使い終わった天ぷら油「廃食油(はいしょくゆ)」だ。
表面に浮いているのは揚げ物の衣だが、この廃食油がもう“お役目御免”というワケではない。
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廃食油を回収する業者がタンクローリーで到着すると、ポンプを使い、ものの3分で1カ月分の廃食油を吸い上げた。
メーキュー 企業給食事業部 纐纈良太さん:
「新しく燃料に生まれ変わって、社会の役に立っていると聞いています。回収していただいて『バイオ燃料』に変換している」
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“天ぷら油”がいま、「バイオ燃料」に活用されている。
■“実質的に”排出ゼロの廃食油 バイオ燃料の原料として期待
三重県四日市市では、海底の土砂を掘り上げる「浚渫(しゅんせつ)工事」が行われているが、この巨大な船を動かすのにも廃食油由来のバイオ燃料が使われている。
小島組 小島琢洸取締役:
「バイオ燃料で稼働している第381良成丸という浚渫船で、パワーも何も変わらず通常のA重油とほぼ変わらない感じ」
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名古屋市港区に本社を置く小島組は2024年3月、中部地区で初めて港湾工事の作業船に活用した。「脱・炭素社会」実現への様々な取り組みが求められる中、従来の設備に改造を加えることのない“現実的な対応策”として手応えを感じている。
小島組 小島琢洸取締役:
「通常はA重油という燃料を使うが、A重油に対して(バイオ燃料を)24%混ぜて作業しています。バイオ燃料が100%植物性由来のものなので、24%のCO2が削減されている考え」
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環境省などによると、化石燃料は、燃焼時に軽油で1Lあたり2.6キロ、重油では2.7キロほどのCO2を排出するとされている。
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バイオ燃料もCO2は排出するものの、原料となる植物が成長過程でCO2を吸収しているため“実質的に”排出ゼロだ。
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そんなバイオ燃料の原料として、「廃食油」が注目されている。
■日本の廃食油の3割が海外に…“輸出のためにCO2排出”という矛盾も
愛知県東海市にある「ダイセキ環境ソリューション」が持つバイオ燃料の製造プラントでは、東海3県などから集められた廃食油に化学処理を施し、バイオ燃料へとうまれ変わらせている。
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ここでは、1日に最大10Lのバイオ燃料を作ることができるということだ。
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赤茶色に濁った廃食油は、蒸留などをすることで透き通った透明になる。軽油と比べ、より無色に近いのが特徴だ。
豊通エネルギー 種田舜さん:
「においは天ぷら油。ちょっとお腹がへるようなにおいになっています」
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バイオ燃料の製造から、小島組などの需要先への提供まで、サプライチェーンの構築を担うのは、豊田通商のグループだ。新たなビジネスチャンスに、原料となる廃食油の回収に日々追われているが、ある悩みがあるという。
豊通エネルギー 種田舜さん:
「実は本当に今、大変で苦慮してまして。廃食油が輸出されていたり、奪い合いになってきている状況がありまして。ヨーロッパとかが需要が高まっていますね」
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廃食油の“争奪戦”が、世界規模で起きている。環境意識が高いヨーロッパなどでは、すでにバイオ燃料の大規模な製造工場がいくつも確立。日本で回収される廃食油も、実に3割が海外に輸出されていて、需要が高まる今、日本はその確保に後れを取っている。
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全油連 塩見正人事務局長:
「現状、日本の廃食油の発生量、回収できているのは40万トンです。そのうち直近の数字ですと、12万トンが海外に輸出をされております。国内のSAF需要が今後数万トンレベルで廃食油が必要になると圧倒的に足りない」
原因は“飛び恥”と揶揄されるほどCO2排出量の多い、航空機の燃料だ。日本では2030年から、機体に給油する燃料の10%を再生燃料=SAF(サフ)に置き換えることが義務化される。
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高まる需要に、国内の廃食油の取引価格は、直近1年で3倍ほど跳ね上がっている。激しさを増す争奪戦は、サプライチェーンの拡大を目指す企業に課題とジレンマを感じさせていた。
豊通エネルギー 種田舜さん:
「(廃食油を)輸出してしまうと、移動でもCO2が発生してしまい、矛盾が発生してしまう。地域で地産地消してもらうのがあるべき姿だと考えている。バイオ燃料の供給・需要先の開拓・サプライチェーンの構築を通じて、地産地消ができるような循環の仕組みを対策として行っています」
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国内で回収した廃食油を国内で消費することが、エネルギー自給率の低い日本の救いになると、期待されている。
■廃食油の「地産地消」のカギは『家庭』 捨てられている10万トン
争奪戦の中、国内のバイオ燃料導入は着実に進んでいる。
愛知県大口町にある運送会社「ユーネットランス」は2023年、『100%バイオ燃料走行』の大型トラックを導入した。見た目も通常のトラックと変わらず、ディーゼルからバイオ燃料に変えてもエンジン周りはそのまま使え、導入コストがかからないのもメリットだ。
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ユーネットランス 熊澤洋一社長:
「年間で(バイオ燃料を)2万5000リットル使用しています。CO2としては60トンを削減できたという換算値になります。“走って稼ぐ”ということですから、より多くより遠く運ぶのが我々の仕事。カーボンニュートラルを達成するには、今できることをすぐチャレンジしようと」
電動の大型トラック普及にはまだ時間がかかると考え、「環境にやさしい選択肢」として、バイオ燃料トラックにたどり着いた。
しかし、争奪戦の影響でバイオ燃料は軽油に比べ割高となっていて、カーボンニュートラルに対する荷主の理解と協力がなければ、継続できない状態だ。
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資源エネルギー庁の統計によると、軽油の産業用価格は直近の24年3月で127円。対するバイオ燃料は、仕入れ業者によってばらつきがあり統計はないものの、軽油の2倍から3倍で取引されているとみられている。今後、バイオ燃料が定着し拡大するには、価格が安定する仕組みづくりが必須だ。
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熊澤社長:
「廃食油の回収から製造といったサプライチェーン全体の完成もまだまだなので、供給量の課題もあると思う。一つずつ課題を潰しながら構築しながらやっていくことが必要」
カーボンニュートラル社会の実現に向け熱を帯びる“天ぷら油争奪戦”。世界が欲しがるその「廃食油」は、この国にもまだ眠っている。
全油連 塩見正人事務局長:
「年間10万トン程度が全家庭からの廃食油排出があると考えられている。この10万トン、ほぼほぼ捨てられております。自治会の回収であったり、スーパー・コンビニでも『回収拠点を置かしてほしい』と協力の要請はさせていただいているので、市民の皆さまにご協力していただくことで、油がリサイクルできることを理解いただけたら」
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2024年5月17日放送
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