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“子供が伝えたい事”聞く難しさ…児童相談所の一時保護で生活一変した家族 子供の意見と安全確保の狭間で

東海テレビ / 2024年9月14日 21時9分

ニュースONE

 児童相談所が虐待などの疑いがある子供たちの安全を確保する「一時保護」は、毎年全国で5万件前後となっていて、多くの子供たちが日常から離れた生活を送っている。身の安全を守るためだが、児童相談所と家族の見解が違い、子供たちが辛い思いをすることもある。ささいな親子喧嘩をきっかけにバラバラとなった家族の現状と、解決策を取材した。

■突然の「一時保護」 2人の里子と離れ離れに




 三重県名張市に住む松山健(まつやま・たけし)さんの夫婦には、それぞれ血の繋がりはない、大切な2人の息子がいる。あおいさん(16 仮名)は2歳の時、わかばさん(13 仮名)は3歳の時に、「里子」として迎え入れた。

松山健さん:
「遊びに連れて行った時に肩車したんだけどね。ごちそう食べたら、その晩はもう凄くうれしそうな顔して寝ていましたね」


2人の里子は2022年3月、児童相談所に連れていかれた。きっかけは、14歳になった兄・あおいさんとの『親子喧嘩』だった。わかばさんに対して、「そこのチョコレートを取れ」と繰り返し命令するあおいさんの態度を、松山さんが注意した。口論にはなったが、手を上げることはなかったという。

松山健さん:
「僕に向かって『黙れ、お前は』って言ってきたもんですから。これだけ育ててきたのに、それはないやろうって」


しかし翌日、定期訪問のために児童相談所から掛かってきた電話に、松山さんはあえてこう話した。

松山健さん:
「『実は昨日、大喧嘩をしたんだ』と。『胸ぐらをつかんで一発やった』と言ってしまったんですよ。とにかく(反抗が)ひどい状態だよということを伝えるために、そういう話を出したんです」

“反抗期に入ったあおい君を、児相の職員にも注意してほしい”という思惑は、予期しない事態に発展した。4日後、児相の職員があおいさんとわかばさんそれぞれの学校を突如訪問し、“安全を脅かす情報を得た”として、そのまま2人を「一時保護」した。

「一時保護」とは、子どもの安全を確保するために、児相の判断で親元などから引き離す措置のことだ。その間に調査を行い、帰宅させるか施設に入所させるかなどを判断する。


子供たちへの聞き取りなどから、三重県は、あおいさんが松山さんに「『施設に帰れ』と言われた」などと主張した。“心理的虐待”にあたると認定し、児童養護施設への入所を決めたうえ、松山さんの里親登録も抹消した。

松山健さん:
「してない。『施設に帰れ』なんて言ってないですよ」

Q:三重県は松山さんには確認していない?
「もちろんです。うちの子供たちも、とても幸せに暮らしていました。私たち里親は(児童相談所に)連れていかれたら、『もうあんたは里親じゃないですね』って言われてしまいます」

■「里子であることを知られたくなかった」子供の“心の声”




 松山さんの話との食い違いの理由は、あおいさんの“心の中”にあった。一時保護から5カ月後、あおいさんは県の担当者へ手紙を送っていた。

あおいさんの手紙:
「里子であることを友達に知られたくなかったのに、児童相談所の人が何の配慮もなく学校に来て、パニックにおちいっていました。自分を守るためだったら、事実じゃない事でも言おうと思っていました」


パニックの末、「自分に問題があると判断されれば、施設へ行くことになる」と考え、松山さんを悪者にするウソの説明でその場を乗り切ろうとしてしまったと、釈明されていた。

あおいさんの手紙:
「僕は松山の家でいるのが一番安心する。再調査をして欲しい」

当時中学生の少年が、とっさに口にした「自己防衛」の言葉。胸の内を正直に伝えたことで、日常が戻るはずだった。


三重県は5月17日、一時保護の経緯について「あおいさんの証言だけでは判断していない」と説明した。一般論として、児相の役割は「子供の意見を反映させることだけではない」と話した。

三重県 児童相談支援課 近正樹課長:
「自分に有利なような証言をしたとしても、子供の証言だけで判断をするわけではない。虐待があったということを県が判断した。そのことに対して覆すことではなかった。例えば子供が『家に帰りたい』と言っても、やっぱり子どもが帰る先が安全でなければ、『それは安全じゃないよ』ということを伝えて、子供に理解を求めていくのが権利擁護なのかといったところはあると思います」

三重県では2023年、女の子(4)が母親から暴行を受け死亡する事件が発生した。事前に虐待の疑いを把握していた児相が一時保護していなかったことで、批判も集まった。児相は、「子供の安全」が第一だ。


2023年、15歳となったあおいさんは養子縁組を結び松山さんの元に戻ったが、現在13歳のわかばさんは今も施設にいる。一家4人は、まだ元通りではない。


児童相談所の元職員でもある専門家はこの一連の経緯について、児相側の対応に一定の理解を示す一方で、子供の意見の扱われ方に課題を指摘する。


東洋大学 福祉社会デザイン学部 鈴木崇之教授:
「子どもの意見に寄り添って少しでも変えていこうというような姿勢。こういう風になりたいんだっていう子供の意見を、児童相談所側や施設側に実効性のもった取り組みにしていく。そういった基本のところがまず一番問われている」

■全国で広がる『アドボケイト』の取り組み




 子供たちが心に秘めている“本当に伝えたいこと”を代弁する取り組みが、和歌山県で進んでいる。

『アドボケイト=代弁者』と呼ばれる、専門の研修を受けたスタッフは、県の委託を受けた第三者の立場で、一時保護された子供にヒアリングし、「児相での生活の悩み」「本当は家に帰りたい」といった、心の声に耳を傾ける。


どんな風に接しているのか、記者が体験してみた。

アドボケイトの家本めぐみさん(toddle わかやま代表理事):
「お名前教えてもらえますか?」

記者:
「かずきです」

家本めぐみさん:
「かずき『くん』でいいか、かずき『さん』がいいか、どっちがいいかな、呼ばれるの?」

記者:
「かずき『さん』で」

家本めぐみさん:
「じゃあ、かずき『さん』。今の気分ってどんな気分?」

記者:
「今の気分…普通、普通かな」

家本めぐみさん:
「そっかそっか、うん、普通でもいいです。でも嫌なことあったりしたら教えてほしいなと思っています」


話を聞く相手は0歳から18歳までの子供で、年齢に関係なく気持ちを表現できるよう、イラストも用いて寄り添う。話してくれた本音は、子供にも表明する権利があることを伝えたうえで、児相に伝える方法も自分で選択してもらう。

家本めぐみさん:
「自分で伝えることができるよという人もいるけど、でも伝えられない人は、横にいて一緒に言うし、希望がちょっとでも叶えるようなお手伝いをしたい」


児相との面談内容は子供にもわかるように説明する。本人不在で議論が進まないよう、納得するまで何度も気持ちを確認することができる。

家本めぐみさん:
「“子供の聞きたいこと”を聞いたりするのは、児童相談所の職員の役割なんですよね。この子のためだけに寄り添う大人って言うのかな。そういう制度ができたところなので、課題を1つずつクリアにできていったらなとは思います」


2022年の児童福祉法の改正で、「アドボケイト」の配置が全国でも広がっている。和歌山県では、一時保護された子供の約7割がこの制度を利用しているということだ。三重県でも2022年からアドボケイトを導入しているが、実際に運用していくうえでは、難しさも感じているという。

三重県 児童相談支援課 近正樹課長:
「子供の意見を100%『うん、そうだね』って聞くというか、その通りにするのが子どもの意見表明を支援することなのか、しっかり話を聞いて子供の考え方を整理するということが支援なのか。個別のケースとしては控ますけど、評価としても難しいところはあると思います」

■さらに進む兵庫県明石市の取り組み




 一時保護された子供の声を聞く取り組みは、兵庫県明石市でさらに一歩進んでいる。2021年から始まった「こどものための第三者委員会」では、弁護士や医師などで構成される委員が、一時保護された全ての子供と面接をする。

松山さん一家のように、子供本人から“再調査をしてほしい”などの希望があれば、第三者委員会で調査をし、妥当性について児童相談所に意見をする。子供の意見がより反映されやすくなるということだ。


本当の意味での「子供のため」とは。その正解は、まだ模索されている。

2024年5月24日放送

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