新東名沿線の“耕作放棄地”に着目…NEXCOの社員が畑再生し『枝豆』を栽培 コーヒー農園経営も視野に
東海テレビ / 2024年11月14日 21時27分
かつては農地だった場所が、今は使われずに変わり果てた「耕作放棄地」となっていて、全国で増え続けている。背景には“農家の高齢化”や“担い手不足”などがあるが、そんな土地を再び蘇らせようと、企業や地域住民が立ち上がっている。
■名古屋でコーヒー栽培 “高速道路”の会社がなぜ?
名古屋市港区の戸田川緑地の温室では、コーヒーの木が90本ほど植えられている。
北緯35度に位置している戸田川緑地は、栽培に適した赤道を中心とする「コーヒーベルト」からは外れているが、温度管理や強い日差しを遮るネットを張る工夫を施しながら、大切に栽培している。
実は熟し、新しい葉も生えて順調に育っている。
黄色の実を剥くと種が出てくるが、種の皮を剥いて焙煎すれば、黒いコーヒー豆ができる。
コーヒー豆は、世界的な気候変動で将来の生産量の減少が懸念されている。円安の影響で輸入豆の価格も高騰している中、国別コーヒー消費量が世界4位ともいわれる日本で栽培が実現することには、大きな期待が寄せられている。
本州では珍しいこのコーヒー栽培だが、試験的な取り組みとして“意外な人たち”が取り組んでいる。普段は高速道路の建設や維持管理がメインの『NEXCO中日本』の社員たちだ。
■新東名の沿線で“枝豆” 富山県の面積に匹敵する放棄地の行方は
2012年に開通した、静岡県浜松市の新東名高速道路の沿線では、かつては農地として生かされていたのに、変わり果てた土地「耕作放棄地」が目立つ。至る所で、雑草が伸び放題だ。
「耕作放棄地」とはその名の通り、1年以上作物を栽培せず、この先の数年間も再び栽培する考えのない土地のことだ。2015年時点で42.3万haとなっていて、富山県の面積に匹敵するほどにのぼっている。
今は放棄されていても、元々はれっきとした「耕作地」だ。NEXCO中日本は、浜松市の新東名高速沿いにあった耕作放棄地を復活させて畑にし、「枝豆」を栽培している。
NEXCO中日本 新事業開発課 井上寛規さん:
「(新東名)沿線の風景を見ると年々放棄地が広がっているという様子を目にしてたという話も聞きます。会社としてはなんとかしたいという意識が高まっていた」
NEXCO中日本は、2018年に農業法人を立ち上げ、人の背丈ほどあった草を刈り、石を取り除き、肥料をまいて畑として再生させた。ピーク時の収穫量は、1日900kgになることもあるという。
枝豆は除草剤を使わずに作っていて、『オレ達のえだ豆』というブランドで販売している。
NEXCO中日本 新事業開発課 井上寛規さん:
「一般より薄いという風に思われるかもしれませんが、これが本来の枝豆の色です。冬場は結構温暖な地域でもあり、コーヒーなんかの栽培には非常に適していると思ってます。重い野菜を運ぶというよりは、小さい実を収穫するということで、重労働ではない軽作業だというふうに言われております」
一度諦めた土地が、希望の土地に。近い将来、「お茶の里・静岡」でコーヒー農園が広がる光景が、見られるかもしれない。
■「放棄」された農地の復活は簡単なことではない
愛知県豊川市の農家・酒井美代子さんは、市民グループ「休耕地ハッピープロジェクト」を立ち上げ、地域住民の力を借りて耕作放棄地の再生に取り組んでいる。
酒井さんは、20年ほど前までキノコ農園だった場所の片付けを、1年ほどかけて続けている。当時は、20~30cmの厚さで土とプラスチックがあり、荒れ放題だったということだ。
鉄骨は錆び、ゴミも触って砕けるほど紫外線で劣化していたということで、「片付けるのが本当に大変」だと話す。
農家 酒井美代子さん:
「片付けるのに時間がかかる。なるべくこういうふうにしないほうがいい。これからもっともっと農業をしない・できない畑が増えてくると思うので」
一度荒れると元に戻すには手間と時間がかかる耕作放棄地だが、新たな作物を育てることで、その負のサイクルに歯止めをかける。
農家 酒井美代子さん:
「この白い花が咲いているのがソバです。ソバは肥料がなくても割とあの痩せた土地でもできるっていうことを聞いていて」
この畑もかつては、誰もが再び農業を始めようとは考えもしなかった場所だった。
地道な清掃作業で息を吹き返し、2023年、地元であまり馴染みのなかった「ソバ」を栽培した。
農家 酒井美代子さん:
「耕作放棄地になったものを誰かに使ってもらいたいっていう、そういう思いで。なるべく価値のある利用の仕方をしたいっていうことが、目的というか目標ですね」
放っておけば、いつまでもただの荒れ地だが、手を加えることで、新たな価値を作ることができる。
■「何か違う世界が開けていくんじゃないか」耕作放棄地の未来は…
酒井さんが耕作放棄地で育てたソバで作った「十割(じゅうわり)蕎麦」の試食会が開かれた。
女性:
「すごい、いい香り。すごいこんなのが取れるよね、ここで」
男性:
「そばはそこの畑で作ったんですか?」
“荒れ地うまれ”の食材が、地元の人のお腹を満たした。
酒井さん:
「みんな苦労して木の根っこを掘ったり、ご先祖様がしてきた畑が荒れている。そういうところを考えると一生懸命やらなきゃいけないなと。昔の人の苦労を考えるとね」
日本各地で、ポテンシャルを秘めたまま荒れてしまった多くの土地。見直して再び耕せば、新たな「宝の芽」が出てくるかもしれない。
酒井さん:
「こういう小さな取り組みが全国でできるようになったら、もっともっと何か違う世界が開けていくんじゃないかと思います。食べ物っていうのは本当に大事で。そこを大事にしないと人間生きていけないので」
2024年5月31日放送
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