地方ほど「不便だから」で運転継続…“人生100年時代”高齢ドライバーの事情と現状 必要な1人1人の選択
東海テレビ / 2024年11月24日 11時45分
高齢ドライバーによる事故が増える中、運転免許の自主返納のあり方が問われている。生活や家族のために免許を手放せない事情もある中、返納時期を年齢で区切るような“一律のルール”ではなく、個人にあわせた選択肢を用意する取り組みが始まっている。また、返納をめぐって話し合いを重ねる家族の姿も追った。
■2023年は384件…増加傾向の高齢ドライバーの死亡事故
名古屋市天白区にある愛知県警の運転免許試験場で行われているのは、免許更新を希望する75歳以上の人に義務化されている「認知機能検査」だ。
検査では、16種類のイラストを4分間で記憶するテストがある。それぞれのマスにどんなイラストがあったのかを記入する。正解すれば1問につき配点は2点で、ヒントありで正解したら1点となる。
他のテストも含めて一定の点数を下回ると、「認知症の恐れあり」と判定され、医師から正式に診断されれば、「運転免許取り消し」となる。
警察庁によると、2023年に起きた75歳以上のドライバーによる交通死亡事故は384件だ。
2020年から増加傾向をたどり、「運転免許の自主返納」は度々議論に上がっている。
■「逆走」に「一時停止無視」 講習でミス相次ぐ実情
岐阜県岐阜市の三田洞(みたほら)自動車学校では、定期的に70歳以上のシニアを対象にした「高齢者講習」を開いている。
多くの高齢者が講習に参加するが、一筋縄ではいかないのが実情だ。
75歳の男性は、熟年のドライビングテクニックで一見スムーズに運転しているように見えるが、「クランク」で曲がりきれず、指導員に止められてしまった。
指導員:
「ちょっと無理やねぇ。このまま行ったらぶつかる。ちょっとバックしてください」
74歳の女性は、気が付かない間にセンターラインを越え、逆走していた。
指導員:
「ストップ、ストップ。センターラインこっちで逆走。こっち行かないとあかん。これは大変だ」
女性(74):
「すみません」
さらに、一時停止も見落としてしまった。
女性(74):
「すごく肝に銘じました。“止まれ”というところを2カ所も私は見逃したそうですので。そこまで見てなかった」
受講者からは、「車がないと生活できない」という本音も聞こえてきた。
男性(80):
「(Q免許返納を考えたことは?)考えたことないよ。東京ならともかくとして、岐阜は車がないとだめでしょうね」
こうした実情は、地方ほど色濃くなる。内閣府の調査では、免許返納で「不便を感じる」と答えた人の割合は、地方に行くほど高い割合となった。「買い物」や「通院」がしにくいといった、生活の悩みが大半を占める。
代わりの足となる路線バスは、2022年度までの15年間で2万キロ以上が廃止された。
高齢者による運転免許の自主返納は、池袋での暴走事故があった2019年をピークに減少傾向にある。
■免許返納を娘が説得「ブレーキを踏むのが遅い」
愛知県津島市で1人暮らしの76歳の鈴木さん(仮名)は、足の関節が痛み、歩くのも一苦労だ。日常の買い物には車の運転が欠かせない。
鈴木さん(76):
「事故があってからでは遅いから『もうお母さん乗らないほうがいい、乗らないで』って言われている。でも不便だから、津島は」
車で1時間ほど離れた場所で暮らす50代の長女・ヨシエさん(仮名)は、鈴木さんに運転を控えるよう説得を続けてきた。
長女・ヨシエさん(50代):
「やっぱり人に迷惑をかけるのが一番怖いなと思っていて。そうなる前に運転はやめたほうがいいんじゃないって、車検が来る度に話しています」
ニュースでシニアドライバーの事故を見るたびに不安が募るヨシエさんは、鈴木さんの運転に、助手席で肝を冷やした経験があるという。
長女・ヨシエさん(50代):
「ブレーキが遅い、踏むのが遅いと感じます」
鈴木さん(76):
「私は早めにブレーキしている。すーっと止まりたいの」
長女・ヨシエさん(50代):
「乗っている方はそうは感じなくて、ちょっと怖い」
鈴木さん(76):
「怖い?ふーん」
長女・ヨシエさん(50代):
「ちゃんと止まってくれるんだけど、最終的には。ただ、ブレーキを踏むのが遅い」
鈴木さん(76):
「早めに踏んでいるんだけどなぁ」
鈴木さんは、生活のために、免許の自主返納は考えていないという。大切な家族だからこその説得に、心は動くのだろうか。
高齢者の免許返納が進まない背景として、「MS&ADインターリスク総研」の調査で、興味深いデータがある。
世代ごとに「自分の運転に自信がある」と答えた人の割合で、一番高い世代は「80歳以上」で、70%を超えていた。
長年運転してきた「経験と感覚」が、自信となっていることがうかがえる。
■免許返納にも「その人にあった選択を」
愛知県大府市は『認知症不安ゼロのまち』を掲げていて、人それぞれの「リスク」を“客観的な視点で理解してもらおう”という取り組みをしている。
大府市は2021年から、医療機関と連携して「運転技能検査」を始めた。検査は、65歳以上の市民を対象に年に21回開かれている。
バーチャル空間で歩行者や信号に気付いたら、コントローラーでブレーキをする。「危険をどれだけ予測できているか」のデータを数値化し、その増減を見ながら免許返納の基準にしているシニアもいるという。
運転技能検査官:
「横断歩道の手前にあるオレンジ色の区間にはいって、手前のところでブレーキボタンを押してくださいね。ちょっと早いですね。もう少し」
男性(78):
「今のところ運転は毎日していて、特に不安は感じないけれど、こういう検査で非常に低下してくれば限界なのかなと。そういう基準にできればいいかなと思いますけど」
国立長寿医療研究センターによると、車の運転をやめた高齢者は、運転を続けている同世代と比べ、要介護状態になる危険性が8倍ほど上昇する、というデータもある。
『人生100年時代』といわれる現代では、「何歳になったら免許は返納」といった一律のルールを作るのではなく、その人に合った選択を促している。
大府市 健康増進課 東村亜美さん:
「安全に運転が継続できる方は、今後も運転を継続してもらうことで、より社会参加につながると思います」
■話し合いを重ねた家族がたどり着いたプラン
愛知県津島市で暮らしている76歳の鈴木さん。運転を続けたい鈴木さんと、免許返納を説得する長女のヨシエさんは、家族会議の結果、「あるプラン」に行きつき、鈴木さんも合意した。
長女・ヨシエさん(50代):
「我が家は“あと2年で車は引退する”っていう、決定しています」
鈴木さん(76):
「名古屋行くときはバス停まで歩いて、バスに乗って行くとか、色々考えています。まだ2年あるから考えます」
長女・ヨシエさん(50代):
「徐々に車がない生活に慣れるように練習というか、生活のリズムで毎日買い物に行っていたのを、計画的に週2回とかでタクシーで行くとか、そんなシミュレーションをしださないとね、なんていう話はしています」
鈴木さん(76):
「老いては子に従え、というでしょう。それだね」
2024年9月20日放送
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