80年前の津波で多くの犠牲者…南海トラフ地震に備え高齢化進む町で『高台移住計画』検討 抵抗ある人も
東海テレビ / 2024年12月30日 22時6分
2024年1月1日に発生した能登半島地震から、まもなく1年が経つ。南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないとされているが、今から80年前に起きた、昭和東南海地震の際、津波で多くの命が失われた三重県大紀町では、避難が難しい高齢者を守るため、事前に高台へ移住させる計画が進められているが、課題もある。
■80年前の“東南海地震” 津波で64人の命が失われた三重県の町
昭和東南海地震は1944年(昭和19年)12月7日午後1時半過ぎ、紀伊半島沖を震源に発生した。マグニチュードは7.9で、東海地方を中心に1200人以上が犠牲となった。
三重県の伊勢志摩地域にある大紀町では、64人が命を落とした。犠牲となった全員が、町で唯一海に面した、錦地区の住民だった。
錦地区に住む西村定吉さん(91)は当時11歳で、ススキの穂を採るため友人らと近くの山に向かっていたとき、地震にあったという。
西村定吉さん:
「ダダダダって(揺れが)来たもんで、歩くに歩けんもんで。その時に『津波が来るもんで逃げよ』という人は1人おっただけやった。それでわしら山に上がって、だけど『津波が来るっていうけど来やへんやないか』って。それでまた下りてったわけや、家まで」
地震発生からおよそ15分後、錦地区に津波が到達し、高さは最大6メートル以上に及んだ。
西村定吉さん:
「先祖さんの位牌置いてあるで、持ってこなあかん。『じいやん、ばあやん置いて出てきたから家に帰らんといかん』って。下りた人は10人か15人か、6割か7割くらい流されたな」
同じ錦地区に住む83歳の女性は、母親が津波の犠牲になったという。
錦地区の女性:
「いったん潮が下がったんやわ。みんな油断して荷物を取りに行ったらしいわ。(母親は)位牌を取りに行ったら流されて。すぐ見つかったけど、向かいの浜に流れとって」
低い所で海抜2メートルほどの錦地区では住宅477戸が流され、亡くなった64人はすべて津波によるものだった。
■地区人口の3分の1が後期高齢者…タワー等の備え進むも「よう上がるかな」
過去の地震の教訓から、大紀町は錦地区に高さ20メートルを超える2つの避難タワーを建設した。
大紀町の西村周英副町長:
「津波の避難所を高台にという形で、この地区の周りが川に囲まれていまして、山の中腹まで行くことができないので、人工の高台を整備した」
住宅から近い高台には、およそ30カ所の避難所を整備した。避難所には投光器や毛布などが備蓄されている。
錦地区に1人で暮らす、90歳の西村すやさんも、昭和東南海地震で被災した。当時の経験から、食料などの備蓄品を詰めたリュックサックを常に自宅に備えている。
西村すやさん:
「怖いです、怖いですよ。津波は怖い」
Q.今だったらどこに逃げます?
「高いところ。ここ出たところ段々があるでしょ」
三重県の想定では、錦地区に南海トラフ巨大地震が発生すると、およそ8分後に津波が到達し、高さは最大で16メートルに達するとされている。
西村さんは、地震が発生したら自宅のすぐ裏にある高台へ避難するつもりだが、不安もある。
西村すやさん:
「足がちょっと悪いで。ここをよう上がるかなと思って」
錦地区の人口はおよそ1500人で、75歳以上の後期高齢者が3分の1を占める。避難タワーや高台を登るのは容易ではない。
大紀町の西村副町長:
「結構きついですね。周りにはシルバーカー使いながら歩行されている方とか、杖で歩いている方もたくさんおりますので。そういう方に有事の際にここまで駆け上ってというのはなかなか難しいと思いますね」
■町が計画する「高台移住」
津波の被害から高齢者を守るため、大紀町が乗り出したのが、「高台移住」の計画だ。
錦地区にある海抜20メートルほどの高台に、高齢者など災害弱者向けの集合集宅を建設し、地震が発生する前に高台に移住しようという計画だ。
約7000平方メートルの土地を造成し、町が避難の困難な高齢者に貸し出し、移住してもらうという。
大紀町の西村副町長:
「高齢者の生きがい活動をしてもらうための集会所的な施設、あと小公園とか、グラウンドゴルフ場とかですね、健康増進のための施設も合わせて併設する予定になっております」
大紀町の移転企画は、奈良県十津川村の「高森のいえ」をモデルにしている。2011年の紀伊半島豪雨を機に、高齢者などが暮らすための住宅施設を村が安全な場所に用意した。
およそ5200平方メートルの施設には、9世帯が暮らせる居住スペースのほか、集会室や広場が併設されている。
大紀町では2023年10月、錦地区の後期高齢者およそ300人を対象にアンケートをしたところ、移転を希望する人が50.7%とわずかに過半数を超えた。
西村すやさん:
「そういう住宅なら安全地帯に建ててくれるんでしょ。それやったら逃げやんでいいでええわ。ありがたいな」
■「高台移住」に抵抗がある高齢者も 専門家は「若者にも促進を」
しかし、住み慣れた家を離れる事や、移転に伴う費用負担がかかることから、抵抗がある高齢者もいる。
錦地区に住む高齢の女性:
「私らもそうゆうとこよう住まん。どうしても住んだとこにおりたい。1人でおるで気楽やな今のところ。気にせんでええし」
錦地区に住む別の高齢の女性:
「(入居費用が)高かったら誰も行かへんやん。1人暮らしの人多いしさ、その人たちはやっぱし年金暮らしやろ。それで高かったら入れへん」
大紀町は、今暮らしている土地や住宅を町に提供してもらい、移住にかかる費用や移住先の家賃費用に充てるなど、住民の負担をなるべく抑える仕組みを検討するとしている。
大紀町の西村副町長:
「町全体(の移転)というところであれば、(国の)補助金要綱にメニューがあるんです。これだけの町ですので、それぞれが生活している中で、事前に全体を移転するっていうのは現実的じゃないのでですね。もちろん家があってですね、そういう方に移ってもらう予定ですので、費用は極力低くして、できるだけ利用してもらいやすい内容にしていきたいと思っています」
地域防災に詳しい専門家は、こうした取り組みを評価したうえで、災害発生前の移住を進めるには高齢者だけでなく、若い層にも促すべきと指摘する。
京都大学防災研究所の牧紀男教授:
「やっぱり歳をとってくると、新しい環境への適応が実際問題難しくなってくるので、移るのであれば若いうちの方がお金のことも自分で何とかできますし、生活を自分でそこで立ち上げることもできますし、地域の方としっかり議論することが求められると思います」
大紀町は2028年度に、単身高齢世帯を中心に8世帯の移転を目指して敷地の造成などを進め、2024年度中に基本構想を作り、住民に知ってもらう機会を設ける予定だ。
昭和東南海地震から80年。いつ起きてもおかしくないとされる巨大地震を前に、被害を少しでも抑えるための取り組みが求められている。
2024年12月6日放送
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