「反対じゃないけど議論が…」新アリーナ建設問題で民意はどこに “中止”の新市長と“推進”多数の議会で住民投票は 集まった署名は13万人超に
東海テレビ / 2024年12月25日 17時13分
愛知県豊橋市で、プロバスケットチームの本拠地となる予定だった「新アリーナ」の建設を巡り、 “建設中止”を公約に掲げて当選した長坂尚登市長と、“建設推進”が多数を占める市議会が対立している。
12月26日には、住民投票が実施されるかが決まる公算が高まり、長坂市長の対応に注目が集まっている。
■Bリーグ強豪にまさかの危機…新アリーナが「建設中止」の検討
愛知県豊橋市を拠点とするプロバスケットボールチーム「三遠(さんえん)ネオフェニックス」は、Bリーグ・中地区の強豪だ。
そんな彼らが今、トップリーグへの“参入取り消し”の危機を迎えている。キッカケは、2024年11月10日に投開票された豊橋市長選挙だ。
豊橋市長選挙では、保守系の有力候補と三つ巴の激戦を制し、元市議で新人の長坂尚登(ながさか・なおと)氏が当選した。公約は、「新アリーナの建設中止」だ。
豊橋市の長坂尚登市長:
「契約を解除しますということを訴えて今回の選挙に臨みましたので、速やかに解除の手続きに入ると」
三遠ネオフェニックスは、新アリーナの計画を前提に2026年から始まるトップリーグ「Bプレミア」入りが決まっていた。計画中止になれば、参入が取り消しとなる。
Bプレミアでは、参入の条件の一つに「一定の基準を満たしたアリーナの確保」があるからだ。
■2027年開業を目指し…約230億円で「新アリーナ」等の整備計画
市の中心部にある豊橋公園は、豊橋市役所に隣接し、戦国時代に築城された吉田城址のほか、美術博物館、野球場もある市民の憩いの場所だ。
豊橋公園の東側エリアに建設が予定されている建物が「新アリーナ」だ。
今回の市長選挙で落選した浅井由祟(あさい・よしたか)前市長は、総額およそ230億円をかけて、バスケのトップリーグ参入要件の1つ『5000人収容の新アリーナ』のほか、市民らの憩いの場となる芝生広場や、テニスコートなどの整備を計画した。すでに業者と契約し、2027年の開業を目指していた。
建設が予定されていた場所は今、工事用のフェンスに覆われ、使われていない重機が止まったままとなっている。
■建設“推進派”は4分の3ほど…新市長と市議会“推進派”との対立続く
新アリーナの建設を巡っては、豊橋球場の移転先が津波の「特定避難困難地域」であることもあり、住民団体が住民投票を求めたものの、2度にわたり市議会で否決されている。
今回の市長選挙で当選した長坂市長は就任会見で、「新アリーナについては、先ほど契約解除に向けた手続きに入るよう指示をしました。選挙結果は重く受け止めなければいけない」と、改めて意欲を示した。
12月9日、長坂市長が初めて臨んだ議会では…。
豊橋市の長坂尚登市長(12月9日):
「契約解除が遅くなればなるほど、本市が事業者に支払うかもしれない金額が増えることを危惧して、速やかに契約解除に向けた手続きを進めるように指示したものでございます。説明ができる資料・状況等が揃ってきたら丁寧に説明を進めていくものと考えています」
市議会は、建設を求める“推進派”議員が4分の3ほどだ。市長が就任直後、議会などに説明することなく事業者に契約解除の申し入れをしたことを問題視した。
自民党豊橋市議団の小原昌子団長:
「二元代表制である市長と対等な立場の議会を、軽視していると言わざるを得ません」
■開催10カ月前に中止決定…1996年「世界都市博覧会」
選挙結果で大型公共事業がストップしたことは、過去にもある。
お台場を舞台に1996年、総事業費2000億円をかけて実施が予定されていた国際的なイベント「世界都市博覧会」。
しかし、1995年の東京都知事選で、放送作家の青島幸男(あおしま・ゆきお)都知事が、「博覧会の中止」を訴えた。
青島都知事(当時):
「都知事選における私と都民との公約を守るということで決断をいたしました」
公約通り中止を進める青島都知事に対し、都議会側が反発した。圧倒的多数で都議会側が「開催」を決議したものの、結局、開催の10カ月前に中止を決定した。
青島都知事(当時):
「あらゆるご批判も謙虚に受け止めてまいりたい。しかし信念については変わらず堅持して参りたい」
中止に伴う損失額は610億円だ。ただ、開催した場合の都の支出金はおよそ830億円と予定されていたため、220億円を抑えることができた。
地方自治が専門の名城大学の昇秀樹(のぼる・ひでき)教授は、次のように話す。
名城大学の昇秀樹教授:
「(豊橋と)非常によく似た事例だと思います。決断をしたことによって何らかの損失が出た場合については、政治的責任は問われて然るべきだと思います。ただ、世界都市博の場合は、どこの都市も快く『民主主義で、選挙の結果そうなったんだったら仕方ないですよ』って言って、そんなに損害賠償請求はしなかった。執行権は首長が持ってますので、そのことについて法的責任も政治的責任も問われてません」
豊橋の問題については…。
名城大学の昇秀樹教授:
「豊橋の場合は、あの相手の業者さんが被った損害について、もしかしたら市役所に対して請求があるかもしれませんね。これは市長さんに法的責任はないですけれども、政治的責任は負わなければいけない可能性はあります。民意は多面体なんですよ」
■集まった署名は13万人超 三遠ネオフェニックスのファンらが協力
11月30日、三遠ネオフェニックスのホームの試合が行われた豊橋市総合体育館では、アリーナ計画の「継続」を求める署名活動が行われ、多くのファンが集まった。
市民:
「一市民として豊橋の発展願っていますので、街中が元気になってほしい気持ち」
別の市民:
「署名活動であったり、ネオフェニックスを応援していくことで、本当に支えていけたら」
しかし、財政面についての不安や、議論が不十分ではないか、といった声も聞かれた。
市民:
「豊橋が盛り上がるのであればあった方がいいなと思うんですけど、それができなければ、お金がちょっともったいないかな」
別の市民:
「アリーナ自体に反対しているわけじゃないけどね。やる過程が本当に何て言うのか、十分議論が尽くされないまま進んでいる感じがする」
署名はおよそ13万4000人分が集まり、12月3日、豊橋市議会の議長に提出された。
■12/26に住民投票の条例案可決の公算 長坂市長「申し上げることはできない」
そして12月20日、新アリーナの計画継続を求める市民グループがおよそ13万4000人分の署名とともに提出した請願書が、豊橋市議会で採択された。
これまで、市議会の賛成派と反対派の双方がそれぞれ、建設についての賛否を問う住民投票の条例案提出の意向を表明していて、住民投票の条例案は、会期末の12月26日にも可決する公算が高まっている。
豊橋市の長坂尚登市長(12月20日):
「どういうかたちで住民投票が行われるかも分からないので、結果は重んじることになると思うんですけど、それ以上は何も申し上げることはできないのかなと思います」
民意はどこにあるのか、新アリーナの行方に注目が集まっている。
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