“幻の手羽先”生んだカリスマ創業者が急死…専業主婦だった妻が『世界の山ちゃん』過去最高売上を達成するまで
東海テレビ / 2025年1月12日 12時39分
代表的な名古屋めしの1つ、”幻の手羽先”が人気の「世界の山ちゃん」は、2016年カリスマ的存在だった創業者が急死し、専業主婦だった妻の久美さんが後継者となった。久美さんはコロナ禍の大量閉店などの危機を乗り越え、亡き夫の夢を叶えようと奮闘を続けている。
■ワンランク上の「世界の山ちゃん」念願の東京進出
2024年の年末、名古屋市を中心に展開する居酒屋「世界の山ちゃん」が、東京都千代田区有楽町に新店舗をオープンさせた。
“ワンランク上の世界の山ちゃん“と位置付ける「山」では、看板メニューの「幻の手羽先」のほかに、新鮮な魚介類なども提供していて、名古屋・大阪に続き、念願の東京進出を果たした。
オープン初日、店頭で客を出迎えたのは代表取締役の山本久美さんだ。創業者で夫の重雄さんが亡くなった跡を継ぎ、80店舗以上を運営する会社を切り盛りしている。
「世界の山ちゃん」の歴史は、重雄さんが1981年に「串かつとやきとり やまちゃん」としてオープンしたことに始まる。
わずか13席の小さな店だったが、提供したメニュー「幻の手羽先」が評判となったことをきっかけに「世界の山ちゃん」のチェーン展開を始めた。
重雄さんをモチーフにしたキャラクター「鳥男」も注目を集め、「幻の手羽先」は今では1秒に1本売れるという、名古屋めしを代表するメニューの1つだ。
「世界の山ちゃん」も東海地方で広くその名を知られる存在になった。店名に「世界」をつけたことについて、重雄さんは生前、エピソードを明かしてくれた。
亡くなった元会長の山本重雄さん:
「アルバイトがお客様からの電話に冗談で、かかってきたときに『宇宙の山ちゃんです』とか、『世界の山ちゃんです』とか電話受けていた。聞いていて『世界の山ちゃんって非常に面白いな、夢のある名前だな』と」
■カリスマ経営者が急死 専業主婦の妻が経営者に
小学校の教員だった久美さんは2000年に重雄さんと結婚。結婚を機に仕事をやめ、専業主婦として3人の子供を育て、幸せな日々を過ごしていた。
しかし2016年8月、大きな転機が訪れた。重雄さんが解離性大動脈瘤のため、59歳で死去した。前日まで店の調理場に立ち、メニューを考えていたという。
名古屋めしブームを支えたカリスマ経営者の突然の死。経営に関することはすべて重雄さんが1人で決めていたため、後継者はいなかった。
代表取締役の山本久美さん:(2016年11月)
「病院に運ばれて横たわっているときに、まず『社長をやってください』とお取引様から言われて、その時は主人が亡くなったことをまだ受け入れられていない中で、もうそんなこと言われるんだと思って『やりません』というふうに断ったんですけど」
従業員たちも不安でいっぱいだったという。
社員の男性:
「会社が売られるとか、誰か全然知らない人がなるか、もしくは知っている誰かがなるかっていうのが、どの選択肢をとってもどうなんだろうっていうことしかなくて、思いが分かる人が継いでくれるのが一番自然なんじゃないかなと思って」
夫の死からおよそ1週間後、久美さんは跡を継ぐことを決意した。
久美さん:
「何のために私は主人と結婚したのかなとか、そういうことをいろいろ考えているうちに、『今、私がやるしかないのかな』と感じて。元々が公務員なので、会社という組織自体も分からないし、会社で働くということも分からないし、ましてや経営っていうことに関して全く知識がなかったので、大変だったというか困りました」
■居酒屋にも”女性目線”を…トップダウンから“チーム”へ
「経営の素人」だった久美さんは、すべてトップダウンだったこれまでの経営を改め、店舗運営や経理など、それぞれの役割を明確にし“チーム”での経営を目指した。
月に一度行われる店舗の大掃除には久美さんをはじめ。幹部も参加して、従業員とともに汗を流す。
大掃除は亡くなった重雄さんの時代から行われていたが、久美さんは同じ立場にたって、夫の思いが理解できるようになったという。
久美さん:
「主人がやっていたころには『(外注に)出しちゃえば楽なのにな』とすごく思っていた時期もあったんです。自分が仕事をするようになって、人に任せるともっときれいになるかもしれないんですけど、でも気持ちの問題かなとすごく感じるようになって、お客様を自分たちの手できれいにしたところに迎え入れたいという気持ちがすごく大事じゃないかと」
久美さんは一部の店舗にキッズルームを設けたり、デザートメニューを増やすなど、女性目線での改革も進めた。
12月に行われた新メニューを決める会議では、料理開発部の自信作「稚鮎の唐揚げ」や「麦とろ雑炊」などとともに「飲むイチゴMILKパフェ」の試食が行われた。
久美さん:
「飲む感はあんまりないね。今、はやっているんですか?」
料理開発部の担当者:
「ではないと思うんですけど」
「飲むイチゴMILKパフェ」の採用は見送られた。最終決定の場に進んでも実際にメニューに選ばれるのはわずか2割ほどの“狭き門”だ。
■新型コロナで大量閉店も…危機を救った「幻のチューリップ」
これまでに採用したメニューの中で、久美さんの思い入れが特に強いのは「幻のチューリップ」だという。片手でも食べやすい「幻のチューリップ」が誕生したきっかけは、新型コロナだった。
2020年、感染拡大により緊急事態宣言が出され、一時、全ての店舗が休業した。売上は激減し、25店舗以上が閉店に追い込まれた。
久美さん:
「本当につらかったです。もうどうなってしまうんだろうかと。(コロナ前は)赤字店舗というのはほとんどなかったので、問題のない店をやめなきゃいけない。経営判断でどこをやめるというのは決めていったわけですけど、従業員さんのことを考えると本当に辛い選択でした」
従業員の雇用を守るため、コロナをきっかけにキッチンカーでの販売を本格的に始めた。
キッチンカー向けに開発された「幻のチューリップ」は子供でも持ちやすく、母親にもおかずになると好評で、コロナ禍以降も全国各地のイベントなどに出店を続けている。
新型コロナによる危機を乗り越え、「世界の山ちゃん」は雇用を守りきり、運営会社の2024年8月の決算では、売上高83億円と過去最高を更新した。
■合言葉は『立派な変人たれ』 亡き夫の夢を追いかけて
有楽町にオープンした「山」には、初日から多くの客が訪れた。
「山」は重雄さんの時代からあったが、業績は伸び悩んでいて、久美さんが代表となってメニューや内装など、高級路線を明確にすることでついに東京進出が実現させた。
久美さん:
「前あったものを否定して方向転換するのではなくて、前あったものを大事にしながら少しずつ進化していくという風に考えている。みんな会長のことが大好きだったんですけど、会長自体が多分一番変化することを好んでいたので」
「世界の山ちゃん」は、重雄さんの言葉『立派な変人たれ』を社是として語り継いでいる。ユニークで面白いこと、さらなる変化を求めて、久美さんは挑戦を続けていく。
久美さん:
「会長は全都道府県に1店舗以上出すというのが夢だったんです。世界もハワイとかアメリカとかヨーロッパとかに出店するのも夢の1つだったので、私の代かどうかわからないですけど、いつか叶うといいなと思っています」
2024年12月26日放送
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