助かる命増えるも…医療的ケア児や難病の子供育てる『親』へのサポートが不足 安心して出かけられる“居場所”を
東海テレビ / 2025年1月18日 21時10分
痰の吸引や人工呼吸などのケアが必要な子供『医療的ケア児』が増えていて、推計で2万人以上がいるとされている。医学の進歩により助かる命が増えているが、「親」に対するサポートはまだまだ不十分だ。
■母「命は私にかかってる」日常的にケア必要な“医療的ケア児”を持つ家庭
愛知県豊田市で暮らす豆田悠真くん(まめだ・ゆうま 4)は、人工呼吸や痰の吸引などのケアが必要な『医療的ケア児』だ。
生まれたときから横隔膜や呼吸器周りの筋肉が弱く、生後まもなく気管切開したことで、日常的に医療的なケアが必要になった。
自宅には、痰の吸引器、血中の酸素濃度や心拍数を図るサチュレーションモニター、人工呼吸器などが常に用意されている。
悠真くんの母・真織さん:
「一回シューシューだけしておくよ。あんまり(痰は)ないね、よかった」
悠真くんは、寒い季節に体調を崩しやすい。
母の真織さん(まおり 35)は、通常の子育てに加え、体調管理から定期的な通院、自宅などでの医療的なケアまでこなしている。
悠真くんの母・真織さん:
「ちょっとしんどいから両親にこの子を預けるとか、託児に預けるとか、そういうことができる状況じゃないから。絶対私がみなきゃいけない、この子の命は私が守らなきゃいけないとか、この子の命は私にかかってるみたいなそういうのがあるから。そういうのがちょっとしんどいよなって思うことがあったけど」
■看護師が保育園に常駐…2021年に施行「医療的ケア児支援法」
悠真くんは2023年から、愛知県にある豊田市立「中山こども園」に週に2回、通っている。
出かける時は、気管切開の場所につける呼吸器を外して「人工鼻」を取り付ける。
呼吸器を外して“自由”になった悠真くんは、家の中を歩き回って嬉しそうな様子だ。
普段使っている人工呼吸器や痰の吸引機などの機材は、あわせて5キロほどだが、毎回、真織さんが運んでいる。
悠真くんの母・真織さん:
「『園に通いたいです』っていうのを相談したら『いいですよ』って。“医療的ケアがある子はダメです”みたいな断りがないだけ、すごいありがたい」
中山こども園では、配置されている看護師が、母親から悠真くんの体調を聞いたり機材のチェックをする。
看護師:
「悠真くん元気そうですね。お熱もないし、サチュレーションも95。昨日はよく眠れましたか?」
悠真くんの母・真織さん:
「はい。吸引は昨日のお風呂の後くらいかな」
看護師:
「じゃあ呼吸器の方の確認をさせていただきます。充電もありますね」
2021年、医療的ケア児を育てる家族の負担を減らす目的で「医療的ケア児支援法」が施行された。豊田市では2024年4月現在、3カ所の市立こども園に看護師を1人ずつ常駐している。
看護師のほか、担任とは別に悠真くんには専属の保育士が1人ついて、園で過ごしている。
看護師:
「ちょっと手かしてね。(サチュレーションが)94くらいはあるかな」
保育士:
「悠くん元気?お外は行けそう?」
豆田悠真くん:
「うん」
看護師:
「酸素濃度をはかったんですけど少し低めだったので、“早めに教室に入って休むようにしてくださいね”と(保育士に)伝えました」
中山こども園の安藤真奈美園長:
「医療的なことは看護師が行っていて、保育の面は保育士が行う。保護者としっかり話をして、いろんな角度で見ながら、悠真くんが安全で楽しく園で過ごせるということを考えていくのが一番難しいというか、大事にしているところです」
悠真くんが園にいる間、母の真織さんはわずかな時間を生かし、子育てで諦めていたという仕事を再開した。
しかし、医療的ケアが必要な悠真くんを預けられる場所は、週に2回のこども園以外には、ほとんどない。
悠真くんの母・真織さん:
「医療的ケアがあるから、預け先がないよねみたいな。気軽に託児所みたいな施設が使えなかったりするから。私に何かがあったときにどうしようっていうのは常に思うかな。主人もそんなにすぐ仕事を休めるわけじゃないし」
■親がケアされる場所を…愛知県みよし市に「Mom House」オープン
豆田さんたちのような悩みを持つ母親や父親にも安心して利用できる拠点が2022年、愛知県みよし市にオープンした。その名も「Mom House(マムハウス)」だ。
Mom Houseの近藤綾子さん:
「お子さん自身への支援ではなくてお母さんへの支援が足らないなと。母親自身がケアされる場が必要」
コンセプトは「ママのための居場所」かつ、「子育て休憩所」だ。複数の個室があり、子ども達を遊ばせたり休憩したり、授乳や入浴の練習をすることもできる。
開放感あるリビングに、子供の遊び場も設けられ…。
キッチンやお風呂場も完備されている。
さらに、看護師や助産師などの専門職が常駐していて、子育ての悩みや不安を相談することもできる。医療的ケア児を抱える母親はもちろん、子育て中の親は誰でも利用することが可能だ。
母親(30代):
「安心感ありますね。なかなかお母さん同士のつながりも無いのでこういう所で色々相談できたりすればいいな」
別の母親(30代):
「上の子もいて、双子の育児も初めてで。医療的ケアがあったりすると気軽に遊びに連れていけたりとか、そういう場所があまりないので、ありがたいなと思ってます」
「Mom House」の運営スタッフで助産師の近藤綾子(こんどう・あやこ)さんは、双子や三つ子などの多胎児や医療的ケア児を育てる家庭への訪問看護などの経験を活かし、Mom Houseの開設に向けて、5年かけて準備してきた。
Mom Houseの近藤綾子さん:
「子供を支えるお母さんをさらに支えるっていう立ち位置なので。既存のサービスのはざまに落ちる人をちゃんと救える、子育てを楽しめるとか、辛さから救われる施設にしていきたい」
■Mom Houseで“親を対象”にしたイベント メイク等して写真撮影
Mom Houseで2023年11月、医療的ケア児や難病を持つ子供を育てている親を対象にしたイベントが開かれた。
スタッフ:
「今日はようこそお越しくださいました。大人は大人の時間。とにかく自分にちょっとわがままに、お子さんたちは奥の方でスタッフがみてますので、要望を言って頂いて」
イベント中は、別の部屋で看護師らが子供たちの面倒を見てくれている。
普段は子供にかかりっきりで、着飾ってお出かけをする時間のない母親や父親が、プロのメイクで変身する。
参加した父親:
「きれい!惚れ直しました!」
参加した母親:
「うーちゃん、どう?すごい?似合う?やったー!」
最後は子供たちにもヘアメイクを施し、プロのカメラマンがファミリーフォトを撮影した。花に囲まれ、穏やかな笑顔に包まれた。
母親:
「医療的ケアがあってなかなか出かけられなかったりとか、家族みんなでっていうのがないので。メイクとかヘアもやってもらって、さらに嬉しかった」
別の母親:
「ずっと子育てと看病とできてて、自分にかける時間とかはどちらかというと封印してきているというか、そこまでの時間も持てないのが正直な中できていたので。すごく大事な宝物を頂いた気がします」
医療的ケアや難病を抱える子供を育てる家族が、安心して出かけられる「居場所」を増やすことが求められている。
Mom Houseの近藤綾子さん:
「母子別々で通所できて、お子さんだけ預かってもらえる場所とか、地域の園に上がっていくとかそういうハードルも高い状態だと思うので。障害がない子たちと同じように地域で育てていける環境が整っているとは言いづらい。子供の状態に関わらず行きたい場所を選択できるというか、生活したい場所が自由に選択でいるようになるといいのかなと思います」
■まだ全国で4カ所…「こどもホスピス」の動きが名古屋でも
重い病気と闘う子供や家族が過ごす居場所として「こどもホスピス」があるが、国内では現在、関東や関西の4カ所しかなく、東海地方にはまだない。
名古屋のNPO法人「愛知県こどもホスピスプロジェクト」は、東海地方にこどもホスピスを作ることを目指して活動している。
「愛知県こどもホスピスプロジェクト」では、こどもホスピスという親たちの居場所の必要性を広めるため、シンポジウムやイベントを展開したり、自治体に対して施設を建てるための土地を貸したり、運営費の補助といった支援を求めて要望している。
2026年度の開設を目指していて、名古屋市内を候補地に具体的な構想を進めているということだ。
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