長男の“跡継ぐ”申し出を断る…57年続く大衆食堂が暖簾下ろす決断 81歳店主と77歳妻が迎えた最後の1日
東海テレビ / 2025年2月5日 21時14分
三重県松阪市の「鈴天(すずてん)」は、81歳の男性が77歳の妻と営む大衆食堂で、安くておいしいと地域の人に愛されてきたが2024年12月いっぱいで閉店し、約60年の営業を終えた。最後の日は、多くの人に惜しまれながら暖簾を下した。
■1967年創業の高齢夫婦が営む三重県松阪市の名物食堂「鈴天」
日本を代表する牛肉の町、三重県松阪(まつざか)市で、国の史跡、松坂城跡の目の前に店を構えてきた「鈴天(すずてん)」は安くてうまいと評判の大衆食堂だ。
三重県産の黒毛和牛がたっぷり入った焼肉定食は1000円以下。
2023年に値上げしたという「うどん・そば」は、それでも400円とほとんどが3桁の値段。
女性客:
「安いやろ。おいしいし、安くてもおいしくなかったらイヤやけどさ」
1967年(昭和42年)に創業し、名古屋の料亭で修業をしたというこの道64年の料理人、店主の高山悍(いさむ 81)さんと、妻の光子(みつこ 77)さんが二人三脚で食堂を切り盛りしてきた。
12月16日午前7時、店内ではダシ作りの真っ最中だった。ダシを取ったあと、悍さんは朝食をとるが、「時間がない」とパンを牛乳で流し込む。
悍さんの妻 光子さん:
「いつもこんなんです。コップで飲みなって言っても面倒やもんで、口飲みですわ」
今は店で料理を作るのは光子さんの役割だが…。
悍さん:
「この人は何もできなかったけどな」
光子さん:
「今は私の方が上手です、ハハハハハ。(悍さんが)ちょっと忘れっぽくなってきて、1年ぐらい前からかな、足が痛いと神経痛かあちこち。足が痛くてはちょっとできないですね」
60年以上続けてきた“立ち仕事”で体は限界に。代わりに光子さんが1年前から厨房を取り仕切るようになった。
■客が絶賛する“鈴天ならでは”の「中華そば」
光子さんは、もともと料理が好きではなく、「結婚するまでしたことなかった」という。悍さんは鈴天を開業した4年後、光子さんとお見合い結婚した。
夫の調理を手伝って半世紀、その腕前はいつのまにか悍さんを凌ぐほどになった。
光子さん:
「見よう見まねやな。料理もやっぱりセンスという感じがあるかな。味をみて、その感覚やね」
創業以来変わらぬ味。それを求めて長年通ってきたファンも多い。
男性客:
「(通い始めて)20年ぐらいになるかもわからんな。良心的な値段で、おいしいものを出してくれとるもんで」
女性客:
「こんな手作りな店ってなかなかない。おうどんでも、ダシを煮干とかでとってあるのがすごくわかる」
悍さんがとったダシで光子さんが作るうどんと親子丼は、おいしいと評判で、一緒に味わうことができるセットは人気のメニューだった。
そして「鈴天ならでは」の味というのが、中華そばだ。鶏ガラスープで豚肉、もやし、ニンジン、白菜を軽く煮込み、中細麺と合わせて、ゆで卵、ハム、ナルト、刻みネギを加えたら完成。
具沢山の“タンメン風”で、戦後に松阪市で考案された麺料理がルーツだという。
女性客:
「この中華そばをいただきに、初めて来店してそれから常連になった」
男性客:
「ここらへんで食べる昔ながらの中華そば、おいしいですね」
■今の時代には成り立たない…長男の申し出も断り閉店へ
鈴天は出前も受けていた。悍さんが向かったのは、店のすぐ近くにある松阪市役所だ。注文は秘書課からだった。この日は竹上真人市長も注文していた。就任以来の常連だという。
松阪市の竹上真人市長:
「昼に協議が入るとか、そういう時は鈴天さんから出前を取ります。いわゆる“店屋物”というものを持ってきてくれる店がなくなっちゃいまして、“あの味をもう一度”という形で、常連さんが跡を継ぐとかね、なんて期待はしております」
跡継ぎがなく廃業を余儀なくされる個人店。鈴天の場合は、長男が跡を継ぐことに前向きだったが、断ったという。
光子さん:
「反対したんです。かわいそうやけど、もうちょっとあきらめてもらったんですわ」
手作りの料理を安く提供する食堂は、今の時代には成り立たないと息子の申し出をことわり、2024年の大晦日で暖簾を下す決断をした。
■店主「精一杯やった」客に子供に孫に労われ57年の歴史に幕
迎えた2024年の大晦日、「鈴天」最後の日。常連客が作って持ってきてくれた横断幕には、「57年(2万805日)ありがとう!」と力強い文字で書かれていた。
常連客の男性:
「ようにここで飲んだわ、ほんとに」
光子さん:
「なぁ、最後にこんなにしてもらって鈴天はほんとに幸せやな」
最終日もいつも通り午前11時に開店。直後から別れを惜しむ常連客が次々と来店し、記念撮影も。
光子さん:(中華そば出す)
「すみません、お待たせしました。ちょっと多めやけど頑張ってください」
女性客:
「これが最後なんですよね…」
中華そばに魅了され 常連になったという女性は、最後の注文もちろん中華そばだった。
鈴天の味が食べられるのも これが最後とあって人気メニューの注文が次々と入った。鈴天を愛した人たちが途切れることなく来店し、午後2時の閉店時間も延長することに。
そして創業以来57年間、助け合いながら料理を作ってきた夫婦の「最後の1日」も終わりを迎えた。
光子さん:
「ありがとうございます。」
男性客:
「さみしいですね、松坂城の下といえばこの店だったので」
女性客:
「大好きな中華そばを食べられなくなるだけでなく、女将さんと大将に会えなくなるというのもとてもさみしいなと思っております」
男性客:
「おいしかったです!ありがとうございました!」
暖簾を下した高山さん夫妻は…。
悍さん:
「精一杯やったんでな、悔いはありません。ちょっとさみしいけど…」
光子さん:
「今まで本当に色んなことがあったけども…」
店を閉めたあと、子供と孫たちが労いに訪れ、花束を手渡した。
光子さん:
「小さい時から遊びにもよう連れていかんと、悪いことをしたなと思っています。だけど皆大きくなって立派に家庭を持ってもらって本当に幸せです。ありがとうございました」
夫婦が紡いできた57年の歴史が、幕を閉じた。
2025年1月13日放送
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