WBC球、ロジンの扱い方…岩隈久志の本領を発揮させた松坂大輔のアドバイス【平成球界裏面史】
東スポWEB / 2024年6月23日 9時8分
【平成球界裏面史 近鉄編58】平成21年(2009年)は岩隈久志にとってターニングポイントとなるシーズンとなった。NPBのペナントレースが始まる前、3月に行われた第2回WBCでの経験。これこそが、岩隈のプロ野球選手としての道に大きく影響した。
もちろん、2大会連続世界一という結果が素晴らしかったことも大きい。だが、この大会で岩隈が得たものは結果や記録に関わるものだけではない。すでにMLBの世界で活躍していた松坂大輔の存在。メジャー初の日本人捕手として活躍していた城島健司とのコンビなど、刺激になったことは数知れない。
岩隈には松坂からのアドバイスで印象に残っていることが多々あった。それは投手にとっては聞きたくても聞けない実戦的な知識であり、生活の知恵とも言えるものだった。
まずは、メジャーのボールとほぼ同じとされるWBC球の問題だ。これはどの大会でも話題になるが、日米のボールの違いというものは今現在でも存在する。日本でも国際大会を意識し「統一球」なるものが開発されたが、誰が握っても日米のボールの違いは明白。当時の松坂は日の丸を背負い、侍ジャパンのマウンドに立つ仲間に自身の知識と経験を惜しげもなく伝えた。
「本当に助かったというのが正直な印象です。ごくまれに全く影響がないという投手もいますが、僕は違いを感じていました。単に滑りやすいとか、そういう問題ではないんです。NPBのボールを投げたときの自分の感覚と、変化球の曲がり幅や落ち方も違う。たくさん変化すればいいわけではなく、思い通りに操れるかが重要なんです。そういうボールを使ってやる競技なんだと頭を切り替えてプレーできないと違和感とも戦うことになってしまいますからね」
米国のロジンバッグの使い方にも特徴があった。「滑り止めのロジンの粉が日本で使うものはサラッとしていて指にも付くんですが、メジャーのはあまり手にも付かないんです。ただ、少しだけ汗をなじませるとしっとりして扱いやすい。『そういう風に扱うといいよ』と松坂さんに言われたのがものすごく参考になりましたね」と、かなりの情報効果があったようだ。
大っぴらにはできないが裏技的なものも多くあった。日焼け止めクリームを指になじませ、上手に駆使する方法など――。日本では簡単に手に入らないような野球に必要な小物も、誰かのコネクションで米軍基地経由で中1日で取り寄せられるなどなど、ワールドワイドな顔の広さに誰もが驚いた。
決勝戦で経験したドジャー・スタジアムの景色も格別だった。岩隈の世代で野球に関わった人間なら記憶にあるであろう風景。あの野茂英雄さんがトルネードで野球の本場を席巻した舞台は、一度立ってみると格別だった。
「アメリカの雰囲気を肌で感じることができた。純粋にこれはいいなと。松坂さんたちが実際に活躍する姿も見ていて、自分もやってみたいという気持ちが膨らみました。09年は帰国後にNPBでプレーしてリーグ2位と躍進。10年はポスティング移籍を試みるも断念。11年は東日本大震災があり、僕自身の故障もあって楽天イーグルスに残るのか、FAで移籍するのか本当に悩みましたね」
近鉄でエースとなり球団合併で移籍。弱小だった新球団で孤軍奮闘、右肩の故障、2段モーションの禁止など波乱の野球人生だった。一度きりの人生なのであれば…岩隈が選んだ道はより険しい道だった。
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