【菊地敏幸連載#38】巨人・渡辺オーナー辞任でも収束しなかった「一場裏金問題」
東スポWEB / 2024年9月13日 11時2分
【菊地敏幸 辣腕スカウトの虎眼力(38)】2006年にいわゆるプロ野球ドラフトにおける「逆指名制度」が廃止になりました。1993年から始まった制度でしたが、大学・社会人の有力選手を獲得するために各球団が自由競争でしのぎを削るわけです。当然、多額の金銭の授受も発生し多くの問題を含んでいました。
日本経済の基本となっている資本主義。その概念にのっとれば経済的に余裕がある球団であればあるほど、有力な選手を獲得できることになります。一方で長いプロ野球の歴史を振り返れば伝統のある人気球団というものも存在します。経済力、人気、いろんな要素の中から選手が希望球団を選定するわけですが、選んでもらうために動く仕事が我々のようなスカウトという構図です。
逆指名制度の廃止に際し、影響した事件と言われれば「一場事件」というキーワードから話をそらすことはできません。04年当時、明治大学4年生だった一場靖弘投手を巡って激しい争奪戦が繰り広げられていました。この年のドラフトの目玉は一場。巨人、横浜、阪神、広島ら複数の球団が一場獲得のため独自の動きを展開していました。
世の中に衝撃が走ったのは8月のことでした。この時点で各球団のドラフト戦略はほぼ決まっています。夏の甲子園大会までのデータ、調査を最終の資料とし、秋のドラフト戦略を詰めていく時期でした。
8月13日、巨人が03年12月から7か月にわたり一場に食事代や交通費などの名目で数回にわたって、およそ200万円の現金を供与していたことを公表。土井誠球団社長、三山秀昭代表らの解任に加え、渡辺恒雄オーナー、堀川吉則会長の引責辞任を発表した。
この事実は野球界にとどまらず世間に大きな衝撃を与えました。学生野球憲章では入団を条件とする金品の支給や貸与を禁ずるという項目があります。ですが、以前からアマ球界の有力選手に同憲章に抵触する裏金が横行しているウワサは飛び交っていました。
いわゆるグレーゾーンです。法律に反している行為ではなく、関係者が沈黙を守っている限り、各社でつじつまが合う経理処理がなされていればあけすけになることはあり得ません。しかしながら、どこまでがシロでどこからがクロなのかもはっきりしない問題でもありました。
この当時、当事者である巨人が裏金問題を明らかにしたことは、これまでのウワサが真実であったことを意味します。そういう意味でも社会的な影響は絶大でした。
翌日の8月14日に一場は明大野球部の退部を表明。別府監督は同16日に監督辞任を発表しました。この事態を受け、当時の根來泰周コミッショナーは同16日に「各球団の自浄能力に委ねる」との立場を示しました。日本学生野球協会も同日「当該選手は野球部退部によって連盟の傘下から外れており、学生野球憲章に基づく処分の対象とはしない」との公式談話を発表しました。
いかにも大人の対応をとったように見えますが、裏を返せば掘り下げられると困る関係者が複数存在することも示しています。根來コミッショナーは9月7日に巨人への戒告と、現金500万円か同額の野球用具を野球育成関係団体に寄付するように命じました。
しかし、これで収束することはありませんでした。ドラフト直前の10月に入ると一場問題に関わった他球団の存在も報道されていくことになります。
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