朝井秀樹が1軍デビューを飾った日から1年後…近鉄は本拠地最終戦を迎えた【平成球界裏面史】
東スポWEB / 2024年9月15日 9時27分
【平成球界裏面史 近鉄編70】平成16年(2004年)、近鉄・朝井秀樹投手はプロ3年目のシーズンを迎えていた。シーズンオフから自主トレを経て、2月は宮崎・日向で行われた春季キャンプに参加。開幕一軍を目指し右腕を振る毎日を過ごしていた。
キャンプスタート前日の1月31日、一部夕刊報道で掲載された「近鉄、球団名売却へ」との見出し。マスコミからの問い合わせが球団に殺到し、宮崎の選手宿舎で当時の永井球団社長から担当記者に説明が行われた。
平成13年(2001年)にパ・リーグ制覇した際のPR効果、361億円の10分の1に当たる36億円で球団名を売却する。あくまで球団そのものの売却ではなくネーミングライツ(命名権)を売りに出すという説明だった。大阪近鉄バファローズから「大阪〇〇バファローズ」になるという話だ。
球団からすれば、年間実質30億円とも言われた赤字を解消するための苦肉の策。すでに関西の大手飲料メーカーが有力な買い手としてウワサされていた。だが、当時の巨人・渡辺オーナー、西武・堤オーナーらが猛反発。近鉄・永井球団社長は命名権売却が赤字解消の唯一の策として抵抗した。使用料が高額だった大阪ドームから藤井寺球場へ本拠地再移転の可能性まで示したが、球界から理解を得られることはなかった。
コミッショナーは近鉄が球団命名権売却案の撤回に応じない場合、これを却下するコミッショナー裁定を下すと小林球団代表に伝達した。すると、球団の赤字削減の使命を一身に背負っていた永井球団社長は引責して退任する事態に発展した。これがその後、6月13日に発覚するオリックスとの球団合併につながっていくのだが…。
この時点では礒部選手会長も「球団の名前が変わっても近鉄で野球ができるんやったらいい」と重くは受け止めていなかった。ましてや朝井ら若手選手は、そんなことより自らの技術向上に努めなければという立場だったはずだ。
このシーズンは7月9日に近鉄の本拠地・大阪ドームでフレッシュオールスター戦が行われている。朝井はこの試合でウエスタン・リーグの6番手として8回の1イニングを投げて3失点。合併問題で球界が大混乱の中でも、選手たちは目の前の日程をこなすしかなかった。
労組選手会とNPBサイドの会議が行われるたび、礒部選手会長から近鉄の選手たちには状況が説明された。チームがどうなるのか、自たちはどうなるのか。それぞれが不安になることは当然だった。会議を重ねるにつれて方向性が徐々に判明していった。10球団1リーグ制という計画を阻止できたとしても、近鉄の消滅は決定事項である。それが分かった時にはある種の絶望感が近鉄ナインに芽生えた。
大阪近鉄バファローズの04年本拠地最終戦は9月24日だった。ちょうど1年前、朝井が一軍デビューを飾った日だ。その1年後が近鉄バファローズが最後に大阪ドームで公式戦を行った。そんなことを誰も想像できるはずもなかった。
その後の若手選手の処遇はどうなるのか。まだ入団して間もない選手の身分保障はなされるのか。そのあたりも当然、議論の対象となった。結果、入団2年目までの選手はオリックスが保留権を持つということが確認された。
3年目の朝井はどうなるのか。平成16年(2004年)の一軍成績は3試合に登板し5回2/3を投げ防御率6・35。分配ドラフトの結果、後に楽天に所属することが決まった。地元の大阪で力を発揮するはずだった右腕は、東北の新球団で本格的なプロのキャリアを歩み始めることになる。
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