【吉田秀彦連載#6】古賀稔彦先輩「奇跡の金メダル」は自ら考え、その通りに完結させたストーリー
東スポWEB / 2024年12月10日 16時9分
【波瀾万丈 吉田秀彦物語(6)】1992年バルセロナ五輪ではオール一本勝ちで金メダルを取りました。バルセロナというと、古賀(稔彦)先輩とのこと(※)ですか? 今思うと、自分ではなく古賀先輩のストーリーじゃないですか。自分は普通にやっていただけ。逆に古賀先輩の近くにいて「この人はすごい人だな」という感じだけですね。
古賀先輩はストーリーを自分で描いていたんです。大ケガをしてから自分でストーリーを考え、その通りに完結させてしまったんですから。ヒザの靱帯を損傷したら普通はやめますよ。それを諦めることなく、どうやって勝つかだけを考えて、それを実現させた。「スゲーなあ」以外にはないでしょう(笑い)。
ただ、バルセロナ五輪の後、自分の人生が一変しました。それまではパチンコを打っていても誰だかわからなかった。それが、五輪の後はパチンコ店に入っただけで声をかけられる。人前で何もできなくなってしまったんです。目立つようになり、悪いことができなくなった(笑い)。講演会、柔道教室のオファーもどんどん来て、毎週のようにやっていました。それが本業のようにも感じていました。
当時は人に見られるのが、注目されるのが好きではなかった。試合は注目してほしいですが、普段は放っておいてほしかったですね。週刊誌にもいろいろ書かれたし、すべてが初めての体験。どこで誰が何を撮られたかなんて、自分にはわかりませんよ(笑い)。
初めての五輪の後は練習量が減りました。今までは吉村(和郎)先生とマンツーマンでやってきたのが、そうもいかなくなって。それまではやり過ぎていたということもありましたけど、96年アトランタ五輪で負けた時に一番思ったのが「やっぱり練習量が足らなかったなあ」と。
アトランタ五輪で負けた後、報道陣の取材に「たかがオリンピックですから」と答えました。柔道を始めたとき、自分は五輪のために始めたわけじゃない。五輪への思い入れはなかったし、自分の中ではそんな感じでしたから、言葉に出ました。今なら、炎上確実でしょうけど(笑い)。
その思いはずっと同じ。もちろん五輪の影響力がすごいのはわかっています。今の五輪に出てメダルを取った選手は自分らの時代より注目される。それをモチベーションに五輪を目指す人がいる中、単に自分はそうじゃなかっただけ。自分のモチベーションはただ試合で「負けたくなかった」だけなんですよ。自分を「勝負師」と言ってくれる人もいますが、負けず嫌いなだけなんです。
※古賀は大会直前に吉田との乱取りで畳に足を滑らせ、左膝内側側副靱帯損傷の重傷。痛み止めの注射を打って試合に臨んで優勝し「奇跡の金メダル」として日本中を感動させた。
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