【吉田秀彦連載#28】引退試合を終え「もう殴らなくていいんだ」と安堵感があった
東スポWEB / 2025年1月27日 16時3分
【波瀾万丈 吉田秀彦物語(28)】2009年12月31日、石井慧との金メダリスト対決を判定3―0で勝利しました。自分と石井の大きな違いは、彼は格闘技が大好きでリングに上がってましたが、自分はあくまで格闘技を「仕事」と捉えてきました。そして、その格闘技を引退します。
「戦極」の大みそか大会がなくなった時点で「次のことを考えてやっていかなきゃ」と思うようになり、石井との試合に臨んでいました。戦極がなくなることと自分の体力的な限界を考えたら、引退しか道はない。石井戦を最後にしても良かったんですが、ケジメをつけるため、引退試合を行うことになりました。
10年4月25日、日本武道館で開催した「吉田秀彦引退興行~ASTRA~」です。この大会は何から何まで自前でやり遂げました。お金を集めることから誰に何を頼むかまで「いかにお金を使わないでやるのか」を考えて、みんなに協力してもらって成り立った大会でした。
一方で「みんなに悪いな」とも。自分の引退試合をメインにした興行でしたが、自分がいなくなることで今後はそうした大会がなくなる。対戦相手だった中村和裕らに「次の人生も考えていかないと」と、思わせてしまったことは申し訳なかったです。
カズ(中村和裕)は日ごろ練習していた相手だし「なるようにしかならない」と思って5分3ラウンドを戦い抜き、判定0―3で自分の負けで終わりました。
02年8月のデビューから、7年半あまりが過ぎていました。「柔道しか知らないのに、よくやってきたなあ。もう殴らなくていいんだ」。試合後には、そうした思いが頭をよぎりました。
ボクシングにも取り組んできましたが「打撃はうまくないから、みっともないなあ」とも感じていました。ただ、リングで見せるものは技術だけではない。「負けない気持ち」でも魅せることができる。打撃で勝負できるとは思っていなかったけれど、殴られたら殴り返すしかないとやってきました。引退にあたっては「もうそんなことしなくていいんだ」と、安堵感がありましたね。
引退興行には“氷の皇帝”エメリヤーエンコ・ヒョードルも来てくれました。ヒョードルと戦いたかった? そんなわけないでしょ。練習もしていないジジイでしたから。04、05年あたりに「戦ってくれ」と言われたら仕事としてやりますが、自分から指名して「戦いたい」なんてこれっぽっちも思わない(笑い)。
試合では死を覚悟しながら臨んだ総合格闘技を引退しました。「生き残れたな」との思いと同時にこうも感じました。
「ここから何をやろうかな」。自分は再び人生の大きな岐路に立つことになります。
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