ニッポン半導体の本格復活は新型メモリーの開発ラッシュにあり
LIMO / 2019年4月4日 6時0分
ニッポン半導体の本格復活は新型メモリーの開発ラッシュにあり
パワースピンのMRAM、富士通のFRAM、ソニーのReRAMに注目
いよいよ平成の時代が終わりを告げ、新天皇即位で「令和」へと元号が変わることになった。1989年は平成元年であり、この時の新元号「平成」を発表したのは後に総理大臣となる小渕恵三官房長官であった。激動の昭和が終わりを告げ、平成は31年間続いたわけであるが、残念ながらニッポン半導体にとってはひたすら後退、いや凋落の時代であったと言わざるを得ない。
今やニッポンの半導体の世界シェアは7~8%しかなく、その存在感は極めて薄い。もちろんソニーのCMOSイメージセンサー、日亜化学工業のLED、三菱電機のIGBT、さらには東芝のフラッシュメモリー、ルネサスのマイコンなど世界と戦える製品は今も数多い。しかしながら、ルネサスは工場の一時停止を決めるなど一時の勢いを失っている。東芝メモリもNAND価格の急落を受けて、この1~3月期においては310億円の赤字を出すとも言われている。なんとまあニッポン半導体は弱くなったことか、という印象が一般国民の間にも浸透しているのである。
平成の始まりに世界の過半を握っていたニッポン半導体
平成元年、つまり1989年時点においては、ニッポン半導体は世界シェアの53%を手中に収め、頂点に立っていた。とにかく恐ろしいほど強かった。その時点で4兆円の大台に乗せていたのだ。
ただ深く分析しなければならないことは、当時のニッポン半導体を支えていたのはメモリーであったということだ。東芝、NEC、日立はこぞって4M (メガ)DRAMの月産100万個体制を90年夏までに構築すると強く言い切っていた。そしてまた「メモリー大国ニッポンは不滅である」とのたまう大手半導体メーカー幹部の言葉を筆者は強く覚えている。
しかしながら、平成元年から10年ちょっとで日本のメモリー産業は木っ端微塵に叩き潰される。韓国、台湾、さらには中国の台頭もあって、DRAMの量産設備投資に大きく後れをとり、コストという点でも全く外国勢に勝てなくなっていた。東芝も富士通もみな91年ごろにはDRAM分野から撤退するという惨めな有様となってしまったのだ。
その後、エルピーダメモリをマイクロンに取られることによって、日本のメモリー産業は東芝のNANDフラッシュメモリーを残すのみになってしまった。もっともウエスタンデジタルと東芝の連合軍なら、まだまだトップを行くサムスンと戦うことはできるだろう。東芝の主力生産拠点である四日市工場は、世界のNANDフラッシュメモリーの40%を作っていると言われるほどの水準にあるからだ。
日本勢の「捲土重来」はメモリーにあり
さてここにきて、日本のメモリー戦線に全く新たな動きが出てきたことに注目する必要がある。それはDRAMやフラッシュメモリーではなく、MRAM、強誘電体メモリー、ReRAMなどの新型メモリーであり、いよいよ本格量産に向けての準備が急ピッチで整ってきているのだ。
宮城県仙台市に誕生した世界初のMRAM専業メーカーである「パワースピン」は今後、世界の注目を一手に集めるだろう。東北大学にあってMRAMの特許を多く保有するといわれる遠藤哲郎教授がそのバックにいることは心強いばかりだ。遠藤教授はフラッシュメモリーの生みの親である舛岡富士雄氏の愛弟子であり、今をときめく3D-NANDフラッシュメモリーの事実上の発明者である。サプライズなことに、このパワースピンの社員はほとんどが東芝のメンバーとみられている。今後、パワースピンがMRAMを事業化するにあたって、生産体制をどう構築していくのか(生産委託先をどうするのか)、注目されるところだ。
富士通は、強誘電体メモリー(FRAM)については米サイプレスとトップを争う存在になっている。圧倒的な低消費電力、高セキュリティー、そして何よりも不揮発性で高速書き換えが最大の特徴だ。累計35億個も作っており、現状は180ナノが中心。書き換え回数は10兆回まで保証。これまでは、太陽光発電、エレベーター、ガスメーター、スマートメーターなどの用途が中心であったが、今後は高温対応で車載のパワステ、モータ制御、カーナビ、カーオーディオ、さらにはウエアラブルデバイスも狙っていく。さらに、世界初のカーボンナノチューブを使った不揮発性メモリー「NRAM」も開発に成功している。
ソニーはメモリー事業部を新設し、デバイス構造、メモリー実装、回路設計、アプリケーションなどの開発を本格化する。かつてSRAMを作っていたが、20年ぶりのメモリー復活となる。勝負球のCMOSイメージセンサーに、現在はマイクロン広島工場で生産するDRAMを搭載しているが、今後はReRAMを搭載する可能性が強い。ReRAMは複雑なソフトウエア開発が不要であり、低消費電力に優れ、大容量化に適している。今後、DRAMやフラッシュの一部を食っていく可能性は十分にある。このファンドリーをどこがやるかも重要なことになってきたのだ。
東芝は3D-NANDフラッシュメモリーについては96層から200層までをラインアップし、サムスンからのシェア奪還を目標にする。しかし、NANDの市況後退により設備投資はほぼ凍結。岩手K1棟は建設は進むが、設備はフルには入らない。しかも岩手の場合、四日市で作るフラッシュよりもコストが3割以上高くなるという試算もある。これゆえに、岩手はフラッシュ以外をやるとの見方も出てきた。四日市に新たなY7棟を作る公算も大きくなった。
こうした各社の動きの理由はやはり、「メモリーこそ最重要半導体」という認識が強く出てきたからであろう。世界シェアを一気に上昇させるためにも、MRAM、FRAM、ReRAMなどの分野でニッポン半導体は市場における地位を確立する必要がある。「捲土重来」とも言うべき日本勢の本格復活のカギはまさにメモリーにあるのだ、と言っても過言ではない。
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