日銀短観で要注目なのはプラスを維持する販売価格DIの動き
LIMO / 2019年4月11日 21時15分
日銀短観で要注目なのはプラスを維持する販売価格DIの動き
「柏原延行」のMarket View 2019年4月10日
皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
先週の土曜日は、まさにお花見日和でしたね。ここ数年の中でも、満開の時期、良好な天候、土曜日と好条件が重なった一日であったと思います。
さて、今週の記事のポイントは以下の通りです。
日銀短観(3月調査)では、「①大企業・製造業の業況判断DI「最近」が悪化したこと、及び「②設備投資計画はそれなりに底堅い動きをしていること」がポイントとして報道されていると思われる。
日銀短観には、日銀の金融政策を考える上で重要な物価に関する内容も含まれる。企業の物価全般や販売価格の見通しは、大きな変化がなく、引き続き物価安定の目標である2%とは距離感のある数字となっている。
水準ではなく方向性を示す販売価格DIをみると、プラスであるものの、足もとのデータはやや弱含んでいることが分かる。もし、水面上に浮上した販売価格DIが下落するようであれば、企業収益の下押し圧力となるとともに、わが国の物価上昇率は低位にとどまることになる可能性に留意が必要。
日銀短観については、先週のコラムでもお伝えしたとおり、「①大企業・製造業の業況判断DI「最近」で12ポイントと昨年12月調査比7ポイント低下し、2012年12月調査以来の悪化幅となったこと」、及び「②設備投資計画はそれなりに底堅い動きをしているということ」がポイントと報道されているようです。
一方で、日銀短観の中には、将来の物価を示唆する情報も盛り込まれているので、今回のコラムでは、これをご紹介したいと考えます。
まず、企業の物価全般の見通し(全規模全産業)については、1年後で0.9%上昇、3年後で1.1%上昇と前回調査と変化はみられませんでした。5年後についても、前回調査で+1.2%へ上昇したものの、3月調査で再び+1.1%へ低下しました。5年というある程度長い時間軸でみても、期待インフレ率は低位で安定しています。
次に、企業の自らの販売価格の見通し(全規模全産業)は、1年後が+0.8%、3年後は+1.2%、5年後は+1.5%でいずれも前回調査と同じでした。
これだけみると、なんともつまらない結果にみえるのですが、短観では、販売価格DIという指標も発表されています。
これは、前述のような物価の水準自体ではなく、企業が販売している価格が「上昇している」と答えた企業の割合から「下落している」と答えた企業の割合を差し引いたものです。販売価格判断DIと呼ばれ、0ポイントであれば、上昇していると答えた企業と下落していると答えた企業の割合が同じであることを示します。
この販売価格DIの推移をみると、約30年前のバブル期など一部の時期を除きマイナス圏で低迷している局面が多いこと、及び足もとでプラスで推移していることが分かります(図表1)。
2%台にある失業率からも分かるとおり、現在の日本は人手不足が懸念されています。そして、これは企業の人件費上昇圧力として働きます。コストが増加している状況の中で、企業としては、自身が販売している製品の値上げをする力(消費者などへの価格転嫁力)が重要になってきます。
もちろん、生産性の改善などにより、コストアップを企業内で吸収する努力を行うわけですが、企業が販売価格を上昇させることができないと、物価も低位にとどまるリスクが増加します。
図表1の足もとのデータはやや弱含んでいることが分かります。もし、水面上に浮上した販売価格DIが下落するようであれば、企業収益の下押し圧力となるとともに、わが国の物価上昇率は低位にとどまることになりそうです。
前述した底堅い設備投資は、人手不足に対応するためにも計画され、生産性向上を目指していると考えます。生産性の向上は望ましいことですが、企業が価格転嫁力をある程度は確保できないと、物価安定の目標である2%を達成することは困難であり、この結果、追加金融緩和の必要性が増加すると思われます。
最近、メディアの報道などでは、冷凍食品など、一部の製品が値上げされるという報道をみかけることが多くなってきたと感じますが、マクロ的観点では、その値上げにどの程度の広がりがあるかをとらえることが重要です、そして、日銀短観の販売価格DIはこの判断に重要な示唆を与えると私は考えています。
(2019年4月9日 9:30頃執筆)
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