過熱する不動産融資に日銀が“イエローカード”。地銀苦境のツケは結局消費者に?
LIMO / 2019年4月19日 20時15分
![過熱する不動産融資に日銀が“イエローカード”。地銀苦境のツケは結局消費者に?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_10723_0-small.jpg)
過熱する不動産融資に日銀が“イエローカード”。地銀苦境のツケは結局消費者に?
スルガ銀行問題は氷山の一角
昨年4月18日は、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を展開するスマートデイズ社が、東京地裁から民事再生法の申し立てを棄却され、破産手続きに移行することが発表された日です。実際には、その約1週間前に民事再生法を申請していたのですが、結局は事業再生が困難と判断されました。
そして、この日を境に、徐々に表面化しつつあったシェアハウス問題が一気に社会問題となり、多くの所有者に多額の融資を行っていたスルガ銀行に批判が集中したのです。
過剰融資実施のスルガ銀行、最安値386円は約34年ぶりの安値水準
スマートデイズ社が破産宣告を受け、スルガ銀行の過剰融資が問題視された時点で、スルガ銀行の株価は2017年秋頃まで維持していた概ね2,600円前後の水準から既に半値以下(約1,200円)になっていました。
しかし、ここからさらに売り込まれ、今年(2019年)の年初には386円まで下落しています。ザックリ言うと、一連のシェアハウス問題の表面化により、株価は直近高値(2017年7月の2,810円)から▲86%下落したことになります。約1年半という時間を要したとはいえ、稀に見る大暴落と言っていいでしょう。
ちなみに、最安値の株価386円は1985年1月以来の安値水準でした(株式分割調整後)。ブラックマンデー(1987年)、バブル崩壊(1992年)、リーマンショック(2008年)でも付けなかった安値であることからも、今回の問題の深刻さが分かります。
スルガ銀行の過去10年間の株価推移
(/mwimgs/9/1/-/img_91cddf10d42c7f7268ed21b6c9c31a91104999.jpg)拡大する(/mwimgs/9/1/-/img_91cddf10d42c7f7268ed21b6c9c31a91104999.jpg)
スルガ銀行の2019年3月期の最終損益は▲975億円の巨額損失へ
一連のシェアハウス問題に関し、スルガ銀行が実施した過剰融資は焦げ付きが避けられない見通しであることから、多額の貸倒引当金の計上を余儀なくされました。2019年3月期決算は、最終損益が▲975億円の赤字となる見込みです(注:会社予想)。これは、地方銀行としてはほとんど前例のない巨額損失です。
さらに、計上した貸倒引当金は十分とは言い切れず、今後も追加的な損失発生の可能性も指摘されます。また、金融庁による一部業務停止の影響もあり、経営再建が待ったなしの状況になっています。
他の不適切な過剰融資事例が次々に発覚
ただ、今一度振り返ってみると、一連のスルガ銀行による過剰融資問題は、地方金融機関(主として地方銀行)が置かれた厳しい収益環境が引き起こした氷山の一角である可能性が高いことを認識しなければなりません。
実際、その後に明らかとなった不適切な過剰融資は、東日本銀行などで次々と明るみになりました。また、金融機関ではありませんが、TATERUの過剰融資の事例も発覚しています。
ついに日銀が過熱する不動産融資に“イエローカード”
そして、日本銀行が4月17日に発表した「金融システムリポート(2019年4月号)」では、金融機関による不動産業向け貸し出しが1980年代後半のバブル経済期並みに「過熱」していると指摘しています。
このレポートでは明確に指摘こそしていませんが、一連のスルガ銀行過剰融資問題の発覚以降も、地方金融機関を中心に、不動産向け融資の拡大が収束していないことを示唆するに十分な内容です。これは明らかに、過剰な不動産融資に対する“イエローカード”です。
悪化の一途を辿る地方銀行の収益環境
ところで、地方銀行の厳しい収益環境とはどういうことでしょうか? 銀行の業務は多様化していますが、それでも、収益の柱は貸出業務(利鞘ビジネス)であるべきです。ところが、人口減少が顕著な地方では過疎化が進み、地方銀行にとって最大の貸出先である中小企業や個人事業主がどんどん減っています。
また、既存の企業が新規の大型投資に踏み切るケースは少なく、現有設備の更新投資くらいでしょう。仮に、相応の投資案件があったとしても、手許現預金や営業キャッシュ・フローで賄うことが多くなりました。こうした状況に、長引く低金利が追い打ちを掛けたということです。特に、2016年から日銀が導入したマイナス金利が決定打となったと見ていいでしょう。
また、地方銀行はメガバンクのような海外事業がほとんどなく、なおかつ、メガバンクが注力している資産運用ビジネスのノウハウに乏しいのが実情です。これでは、地方銀行の収益力が高まるはずがありません。しかし、そんな時に、低金利のメリットを活かした不動産融資事業が絶好の好機となったとしても、ある意味では不思議ではないのです。
抜本的な地方銀行のリストラなしでは、第2のシェアハウス問題も?
ただ、スルガ銀行の問題に加え、今回の日銀による“イエローカード”提示により、今後は、この不動産融資事業が大幅に縮小する可能性は高いと考えるのが普通です。しかしながら、収益環境が好転しないとなれば、あの手この手を使って、無理な不動産融資事業が継続されるかもしれません。
こうした負のスパイラルから抜け出すためにも、地方銀行の統廃合(合併や経営統合など)を金融庁や日銀が率先して実施する時期がもう来ていると言えましょう。
スルガ銀行の過剰融資問題は例外のケースではなく、“氷山の一角”かもしれないということを、今一度肝に銘じるべきでしょう。最後に大きな負債を抱えてしまうのは、結局は一般個人になるのですから。
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