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「財政赤字は問題ない(MMT)」はトンデモ理論? その危険性とは

LIMO / 2019年5月19日 20時20分

「財政赤字は問題ない(MMT)」はトンデモ理論? その危険性とは

「財政赤字は問題ない(MMT)」はトンデモ理論? その危険性とは

米国で「財政赤字は問題ない」という新理論が話題になっていますが、積極財政論者で財政赤字に楽観的な久留米大学商学部の塚崎公義教授でさえも、「やはりMMTは危険だ」と説いています。

「財政赤字は問題ない」という新理論が米国で話題に

米国でMMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)と呼ばれる理論が話題となっています。民主党左派が財政支出拡大を求める際の理論的根拠として支持しているようです。

一言で言えば「政府は無限に借金することができる」というのです。現代金融理論という名前の通り、伝統的な経済学や金融理論とは全く異なったものであり、当然のことながら、主流派の経済学者等々からは批判されています。

まあ、主流派の重鎮でさえも無視できずに批判せざるを得ない程度には、MMTが広まって来たのだろう、という具合に考えると良いのかもしれませんが(笑)。

「自国通貨で借金している限り、借金が返済できなくなることはあり得ないのだから、インフレにならない限り財政赤字は問題ないのだ」「失業が心配な時には借金をして景気対策をし、インフレが心配な時には増税をして借金を返せば良いのだ」ということのようです。

彼らの理論を単純化すると「借金が増えると金利が上昇するかもしれない。そうなったら中央銀行に紙幣を印刷させて財政支出を行えば良い。それでインフレになりかけたら、増税すれば良い。増税すれば景気が冷えてインフレが収まり、借金も返済できて一石二鳥だ」ということだとして、大丈夫なのか考えて見ましょう。

インフレ、高金利を招く可能性あり

「財政赤字が10%増えると金利が1%上がる」「日銀が持っている国債の量が10%増えるとインフレ率が1%上がる」といった関係があるならば、話は簡単です。金利やインフレ率が高くなりすぎないように注意しながら少しずつ財政赤字を増やしていけば良いからです。

万が一金利やインフレ率が高くなりすぎてしまっても、小幅に増税することで財政赤字を減らし、景気を小幅に後退させてインフレを抑え込むことが可能でしょう。

しかし、問題は、金利や物価の上昇がある日突然やってくる可能性がある、ということです。財政赤字が膨らんでも、表面的には何事も起こらず、地震のエネルギーのように地下深くで溜まっていった後、何らかの契機で一気に溜まっていたエネルギーが放出されるわけです。こちらは地震とはメカニズムが異なり、人々の心理が影響するわけですが。

政府の借金が増えても、政府が破産すると人々が思わなければ、政府は低い金利で借金をすることができるでしょうが、ある日突然人々が「政府は破産するかもしれない」と思うようになると、政府に対して「高い金利を払わないと貸してあげない」と言い始めます。

政府が高い金利で借金をするようになると、「そんなに高い金利で借金をしたら、金利が払えずに破産するのではないか」と考える人が増えて、ますます政府は借金をしにくくなります。

そのうち、「返してほしい」という人が増えてくると、人々は一層心配になり、一斉に政府に借金の返済を求めることになります。破産が噂される銀行で発生するのと同様の「取り付け騒ぎ」ですね。

実際には、政府は中央銀行に紙幣を印刷させて借金を返済し、費用を賄えば良いので、本当に破産することはありませんが、そうなると世の中に大量の紙幣が出回ることになります。

今の日本のように、大量の紙幣を受け取った銀行がそれを日銀に準備預金するのであれば良いのですが、人々が一斉に預金を引き出して物を買うようになると、銀行が準備預金を引き出して預金者に現金を渡すため、文字通り大量の現金が世の中に出回り、それを使って人々が物を買うので激しいインフレとなりかねません。

人々が突然物を買い始める契機としては、「政府が破産しそうだから、政府の子会社である中央銀行の発行した紙幣が紙切れになる前に使ってしまおう」と人々が考える場合もあるでしょうし、石油ショックのような出来事でインフレが発生し、人々が「値上がり前に急いで買おう」と一斉に買い物に出かける場合もあるでしょう。

そして、物価が上昇しはじめると、一層多くの人が「値上がり前に急いで買おう」と考えて預金を引き出すので、巨額の準備預金があっという間に引き出されて買い物に使われ、それがさらなる買い急ぎを誘ってインフレが加速し続ける、といったことになりかねません。

もちろん、先進国の政府や中央銀行は、適切に利上げや増税や預金準備率の引き上げ等々を行うでしょうから、本当のハイパーインフレが来ることはないのでしょうが、経済に相当大きなダメージが加わることは間違いないでしょう。

緊縮財政のリスクとの兼ね合いが重要

上記のようなリスクはありますが、政府の破産とか超インフレとかを心配する必要はありません。さすがに先進国政府は、いくら人気取りに熱心だとしても、政府の破産や超インフレが差し迫っている時に増税や金融引き締め等を行う分別はあるでしょうから。

したがって、単純に「財政赤字は怖いので、緊縮財政を採用すべきだ」ということにはなりません。世の中の人が心配するような、緊縮財政で景気が悪化してしまうリスクと見比べながら、適度な財政赤字のあり方を模索する必要があるわけです。

筆者は積極財政論者ですが、だからといって「財政赤字は気にしなくて良い」とまで言うつもりはありません。緊縮財政のリスクを普通の人より大きめに考えているので、「緊縮財政を焦るな」と言っているだけです。

米国には、日本より慎重になってほしい

日本政府が景気を重視して財政赤字を膨らませ、結果としてインフレ等が起きて引き締めが行われたとしても、政策のメリットもデメリットも概ね日本国内で完結します。

しかし、米国が同じことをすると、メリットが概ね国内だけに及ぶ一方で、デメリットは世界中に及びます。米ドルは世界中の貿易や投資や融資などに用いられていますから、米国の金融引き締めは世界的な貿易や投資や融資を激減させかねないのです。

たとえば米国のメリットが100、米国のデメリットの期待値(事件が起きる確率と事件が起きた時の悪影響の積)は50、米国以外のデメリットの期待値が100であった場合、米国はMMTを採用するインセンティブを持つことになります。米国以外の国としては、大変迷惑な話ですが、米国の政策に口を出せる立場にはありませんから、米国が「米国ファースト」を貫かないことを祈っています。

幸か不幸かユーロも人民元も米ドルに代わる新しい基軸通貨にはなりそうもなく、次が見当たらないので、米ドルが基軸通貨の座から滑り落ちることはなさそうですから、基軸通貨の交代に伴う世界経済の混乱までは心配しなくてよさそうですが。

外貨建て負債の多い国は、MMTは厳禁

余談ですが、日本のように対外純資産が巨額である国や米国のように自国通貨で借金ができる国は別として、それ以外の国はMMTを検討すべきではありません。政府自身の借金が自国通貨建てだとしても、民間部門が外国から多額の外貨を借りるのは大変危険なことであるため、外国の銀行や投資家を不安にさせるようなうようなことは厳に慎むべきだからです。

外国の銀行が不安を感じて「返せ」と言ってくると、民間企業は自国通貨を外貨に替えて返済することになります。最初の返済は良いのですが、最初の返済のために外貨を買うと、外貨が値上がりするので、2度目の返済は最初より大変です。

3度目以降も返済のために必要な自国通貨が増え続け、最後に返済要請を受けた民間企業は返済できなくなるリスクがあるからです。したがって、MMTが一般的な経済理論となることはできないでしょうね。

日本や米国でも、人々がインフレや政府の破産を予想するか否かを政府が予想することは、地震の予知と同じくらい難しいでしょうから、「危険なことには手を出すべきではない」ということなのかもしれませんね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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