SNSに写真アップ禁止!? 東京五輪チケットの購入規約に波紋
LIMO / 2019年5月29日 11時45分
SNSに写真アップ禁止!? 東京五輪チケットの購入規約に波紋
ビジネス、今日のひとネタ
2019年5月9日から29日の正午前まで、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が、観戦チケットの抽選予約受付を実施。半世紀以上ぶりの日本での夏季オリンピックがいよいよ近づいてきたという実感が湧いてきますね。
ところで、チケットを予約したみなさんは、チケット購入時の利用規約をお読みになったでしょうか。とても長い文書なので読み飛ばしてしまっている方がほとんどかもしれませんが、実は、この中の一部の規約が物議を醸しているのです。
SNS投稿禁止⁉ 物議を醸している規約とは
では、実際どのような内容なのか見てみましょう。「第33条(撮影)」の第3項・第4項には、次のように書かれています。
3. チケット保有者は、会場内において、写真、動画を撮影し、音声を録音することができます。また、IOCが、これらのコンテンツに係る知的財産権(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)について、~(中略)~単独で権利を保有することに同意し、さらにチケット保有者は、これらのコンテンツについて保有する一切の権利(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)をIOCに移転するとともに、その著作者人格権を行使しないことに同意します。
4.IOCは、前項を前提としたうえで、チケット保有者が会場内で撮影・録音したコンテンツを個人的、私的、非営利的かつ非宣伝目的のために利用することができる制限的かつ取消可能な権利を、チケット保有者に対して許諾します。ただし、チケット保有者は、会場内で撮影または録音された動画および音声については、IOCの事前の許可なく、テレビ、ラジオ、インターネット(ソーシャルメディアやライブストリーミングなどを含みます。)その他の電子的なメディア(既に存在するものに限らず将来新たな技術により開発されるものを含みます。)において配信、配布(その他第三者への提供行為を含みます。)することはできません。
どのようなことが書かれているのか、簡単に解説していきます。
まず、「3」の後半部にある、「チケット保有者は~IOCに移転する」という文ですが、これは本来それぞれの撮影者が持っているはずである著作権は、すべてIOC(国際オリンピック委員会)に渡るということを述べています。つまり、オリンピック会場で写真を撮ってしまうと、自撮りの写真や、友人とのツーショット写真などの著作権でさえ持つことができないという意味に読める規約なのです。
次に、「4」の中盤から書いてある「チケット保有者は~配信、配布(その他第三者への提供行為を含みます。)することはできません」という文ですが、これは、観客がSNSなどに画像や動画を投稿することを禁止するものです。つまり、私的に利用する範囲での写真撮影自体は問題ではないものの、その写真を共有する際は、「直接見せ合うこと」だけが許されるという解釈になります。
この規約に従えば、FacebookやTwitterなどだけではなく、LINEなどのある程度クローズドなSNSでも共有できないということになります。あなたはこのルールに対してどう考えますか?
なぜこれほど厳しいのか
そもそも、なぜここまで厳重なルールを定めているのでしょうか。それには「放映権」という権利が大きく関わっています。
2018年の平昌オリンピックで、お隣の国である韓国で開催しているのにも関わらず、あまりいい時間に見ることができなったという思い出はないでしょうか。それは、アメリカやヨーロッパのテレビ局が巨額を投じて放映権を勝ち取っている関係で、それらの国の視聴者にとって都合の良いように競技プログラムが組まれる場合も多かったからなのです。
IOCにとって、テレビ局から入る放映権料は、大きな収入源になります。もしこれで、インターネットで競技をライブ配信されてしまうなどの事態が起こってしまうと、大枚をはたいて放映権を買ったテレビの役割・価値が弱まってしまいます。こうした点を考慮したことが、上記のようなルールがつくられた要因のひとつだと考えられます。
世間の声は?
これに対して、一般の人々はどのように思っているのでしょうか。ネット上では、
「自撮りくらい許してほしい」
「今の時代にそぐわないルールだ」
「もしかしたらIOCに訴えられてしまうのか」
「SNS映えで東京オリンピックのムードを高めようと都は政策を行っているのに、本番は真逆の発想なのか」
「ネットの盛り上がりなしで競技が盛り上がるとか思ってる時点で完全にズレてる」
といった、この規約を疑問視する声で埋め尽くされています。
専門家の指摘
弁理士でITコンサルタントの栗原潔氏は、ヤフーニュース(個人)の記事にて、
「IOCは、その勝手にアップされた動画を(撮影者の許可なく)自由に使うこともできてしまいます」
と指摘しています。著作権などがIOCに渡るのであれば、自分が投稿した画像や動画がIOCに勝手に使われてしまう可能性もある規約だということです。
また、弁護士で著作権問題に詳しい福井健策氏は、ツイッターで、
「ユーザーに著作権譲渡までさせるのは日本のプラットフォーム規約では禁じ手中の禁じ手だ」
「確かに撮影を許しつつ映像・画像の使用範囲を厳守させるには、著作権を取ってしまうのが最強だが」
という形で、狙いはわかるものの、日本におけるネットサービスやSNSの使い方、一般的なユーザーの感覚にそぐわないのではないかという懸念を表明しています。
これからどうなるか?
IOCが大々的に公表したわけではなく、利用規約に記載しただけのこの文章。実際にこの事実を知っている人は多くないのではないでしょうか。
生観戦のために、決して安くはないチケット代を支払う必要があるオリンピックですが、観客の皆さんは、会場の写真を慎重に扱わなければ、「訴えられるリスク」を抱えることになるかもしれません。この規約が、これからどのように観客のSNS投稿に幅を利かせてくるのか、議論の行方はどうなるのか、注目しておきたいところです。
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