「一人で死ね」論争の過熱、”悪者探し”が連鎖する空気が辛い
LIMO / 2019年6月6日 19時45分
「一人で死ね」論争の過熱、”悪者探し”が連鎖する空気が辛い
登戸児童殺傷事件のショックが消えない中、その4日後となる6月1日には元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者が長男を殺害するという事件も起きてしまいました。
子どもの安全をいかに守るか、また中高年の引きこもりといった社会問題が取り沙汰される中、一連のニュースについてコメントした芸能人や問題提起をした人に対して次から次へと批判が起こる事態が続いています。
激しい言葉が飛び交う「一人で死ねよ」論争
スクールバスを待っていた罪もない子どもたちや保護者を、51歳の男が襲った登戸児童殺害事件。その残酷さから多くの人が被害者や遺族に対して哀悼の意を示しています。また、やりきれない怒りから、自殺した犯人に対して「自殺するくらいなら一人で死んでほしい」という声も殺到しました。
この声に対し、次の凶行を生まないためにという思いを込めて、NPOほっとプラス代表理事の藤田孝典さんが異を唱えたことから「一人で死ねよ」論争が過激化。今なお、藤田さんに対する批判も多く見受けられます。
一方で、同事件を扱ったワイドショー「ひるおび」(TBS)で立川志らくさんが「どうやって子どもを守ったらいい。死にたいなら他人を巻き込まずに1人で死んでくれよ」と、「ワイドナショー」(フジテレビ)では松本人志さんが犯人に対して「人間が生まれてくる中で何万個に1個出てくる不良品。そういう人同士でやり合ってほしい」とそれぞれコメント。
すると、ネット上には「日本の自殺者は1日55人。あなたの望み通り、今日も明日も他人を巻き込まずに1人で自殺する人はいますよ!」「そんなことを言うあなたこそが不良品」と、それぞれに対する厳しい批判の声が上がりました。
このように事件から1週間以上を経てもなお、事件や犯人に対する著名人の意見も、その著名人に対する批判も、とかく激しく攻撃的な言葉が飛び交い続けています。
怒りをぶつけるための “悪者探し”?
テレビで著名人が不適切な発言をした場合、その影響力の大きさを考慮して待ったをかけることは大切なことではあります。また、登戸の事件については「引きこもり=悪」と一方的に決めつけるかのようなメディアの報じ方についても、多くの人が「マスゴミ!」というネットスラングを用いて異を唱えています。
「それは間違っているのではないか」「こうすべきだろう」という意見が飛び交うのは、社会全体が解決策を模索し、前を進もうとしている証拠だと言えるでしょう。
しかし一方で、自殺したことで犯人は生き続けて罪を償うことができず、今後同じような事件が起きないように解明したい動機を知るすべも閉ざされてしまいました。そのためか、被害者や遺族だけでなく、多くの人が怒りや悔しさや悲しさを悶々と抱え続ける結果に。
次から次へと批判の矛先が変化していく今の流れは、事件に対するやりきれない思いをぶつける標的を、社会全体で探しているようにも思えます。そして、この犯人以外の“悪者探し”が延々と続く空気に、精神的に消耗してしまうのは筆者だけではないでしょう。
具体的な解決策が見いだせない閉塞感
登戸の事件に関連したさまざまな問題は、突き詰めて考えれば考えるほど「殺傷事件を起こすような人を生み出さない社会にしていかなければいけない」「この世界には死ぬべき人などいない」といった漠然とした理想論やきれいごとしか言えなくなる無力さを感じてしまうのも事実です。
あまりに辛く悲しい事件のために皆が考えなくてはいけないことが多いものの、答えや解決策が出ないことも多すぎる。こうした社会全体でもがき苦しんでいる閉塞感もまた、批判できる“悪者”を見つけて何かを納得したい大衆心理を引き起こす要因なのかもしれません。
批判の矛先が次から次へと変わり、攻撃的な声が飛び交う時こそ、それは悲劇を生まないためにできることや社会をよくしていくための前向きな議論なのか、やり切れない怒りをぶつけるための“悪者探し”なのかを、立ち止まって考えるタイミングを持つことも大切なのではないかと思います。
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