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日本の経常収支は赤字になるのか? 輸出頼み国家脱却へ

LIMO / 2019年6月16日 20時20分

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日本の経常収支は赤字になるのか? 輸出頼み国家脱却へ

少子高齢化によって、日本は輸出に頼らない国になっていく、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は考えています。

従来は輸出が命綱だった

戦後の日本は、外貨が決定的に不足していましたから、資源を輸入するための外貨を輸出で稼ぐ必要がありました。したがって、米国が不況になって対米輸出が減ると、外貨が不足して大変困ったわけです。「米国が風邪を患うと日本は肺炎になる」と言われたものです。

その後、高度成長期には輸出産業が成長して輸出が増え、日本経済の外貨不足は解消しましたが、高度成長が終わると今度は需要不足に悩むことになりました。内需が弱いので、需要としての輸出が必要になったのです。

バブル期には珍しく需要超過でしたから、「輸出が減ったら国内で売れば良い」ということで、海外の景気などについて気にする人は少なかったのですが、バブル崩壊後の長期低迷期には内需が本格的に不足していて、輸出が景気の命綱となったのです。

アベノミクスで労働力不足になるまでの間、ITバブルの崩壊やリーマン・ショックといった海外からのショックで日本経済は何度も翻弄されたわけです。輸出が減って輸出企業の雇用が減ると、失業した人が所得を失って消費を減らすので、さらに景気が悪化するという悪循環が生じたのです。

労働力不足で悪循環が生じにくくなった

今は少子高齢化による労働力不足とアベノミクスによる好景気の相乗効果で、大幅な労働力不足となっていますが、10年も経つと少子高齢化が進むため、「好況だと超労働力不足、不況でも少し労働力不足」という時代になるでしょう。

そうなると、需要としての輸出の重要性は低下してきます。輸出が減って輸出産業が雇用を減らしても、そこで失業した人は容易に別の仕事を見つけることができるようになるからです。失業者が消費を減らしてさらに景気を悪化させる、という悪循環が生じにくくなるのです。

今後はむしろ、輸出企業が労働力不足で生産を増やせず、仕方なく海外に工場を移転する、ということも起きるかもしれません。そうなれば、これまでの輸出に関する考え方を根本的に見直す必要が出てくるかもしれません。

需要としての輸出が不要なら、円高も怖くない

「円高だと輸出企業の利益が減って景気に悪影響が出る」と言われますが、これは二つに分けて考える必要があります。「輸出数量が減って製造業の生産が減って雇用が減る効果」と「輸出企業が持ち帰った外貨が安くしか売れない効果」です。

前者に関しては、今後は従来ほど気にならない、と上に記しました。後者に関しては、実は今でも全く気にならないのです。それは、「輸出企業が持ち帰った外貨が安くしか売れない分と、輸入企業が支払いのためのドルを安く買える分が概ね等しい」からです。

デフレ気味の経済であれば、円高により輸入物価が値下がりしてデフレを深刻化させてしまう可能性もありますが、少子高齢化による労働力不足で賃金が上がりつつありますから、デフレが再燃する可能性は高くないでしょう。

経常収支の赤字転落は、かなり先の話

「海外の景気が悪化して輸出できなくても、日本経済は大丈夫」だとしても、今度は「労働力不足で輸出ができないから経常収支が赤字に転落する」というリスクはないのでしょうか。

リスクがないわけではありませんが、赤字転落は、かなり先のことだと思われます。現在の経常収支黒字は大幅ですから、輸出が2割以上減っても大丈夫だ、ということもありますが、今ひとつ重要なことは、海外での工場建設、すなわち海外直接投資が増えるということです。

これまでの日本は、海外から稼いだ外貨で主に米国債を購入していましたが、最近では直接投資で海外に工場を建てるようになっています。そして、直接投資の方が米国債投資よりも収益率の期待値が高いのです。

直接投資は儲かるか損するか分かりませんから、投資する際には慎重になります。つまり、証券投資と期待値が同じならば、その投資案件は実行されないわけです。これを逆から考えれば、実行された投資案件は、利益率の期待値が証券投資より高いはずだ、ということになります。

実際、近年の国際収支関連統計を見ても、「直接投資収益を直接投資残高で割った値」は「証券投資収益を証券投資残高で割った値」よりも高くなっています。

それに加えて、海外に工場を建てると、海外の子会社から本社に「知的財産権等使用料(特許権使用料等)」が支払われます。これも、金額的には相当大きなものです。

したがって、今後は輸出が減る一方で、直接投資収益と特許料等の収入が増えるので、経常収支は簡単には赤字にならない、と考えて良いでしょう。

経常収支が赤字に転落しても大丈夫

将来、経常収支が赤字に転落して、日本政府の借金が国内でファイナンスできなくなったら、つまり政府が外国から借金をしなければならなくなったら大変です。しかし、そうしたことにはなりそうもありません。

経常収支が赤字になっても、日本は巨額の対外純資産を持っているので、それを取り崩していけば良いのです。

さらには、経常収支が赤字になると為替レートが円安になるため、輸出企業の採算が向上します。そうなると、「高い給料で労働者を雇っても儲かるから、大幅に賃上げをして他の産業から労働力を奪ってこよう」という輸出企業が増えるでしょう。

その結果、輸出企業の生産が増え、輸出が増え、経常収支の赤字は短期間で解消することになるかもしれませんね。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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