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社員思いの企業なら、福利厚生として金融教育を考えるべき

LIMO / 2019年6月30日 20時20分

社員思いの企業なら、福利厚生として金融教育を考えるべき

社員思いの企業なら、福利厚生として金融教育を考えるべき

社員に金融教育をすることは、最高の福利厚生の一つだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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金融庁の「老後2千万円報告書」が大きな反響を呼びました。専門家の間では「当然の内容」と思われていることがこれほど大きな反響を呼んだということは、「世の中の人々が老後資金や年金等のことをよく知らない」ということを意味しています。

政府や学校等々が広く国民に金融教育をすることが求められるわけですが、筆者が注目しているのは、企業が福利厚生として行う「社員向けの金融教育」です。

多くの企業は社員向けに様々な福利厚生を提供していると思いますが、住宅手当や配偶者手当等々と比較して、はるかにコストパフォーマンスが良いと思いますので、ご検討いただければと思います。

まずは、各自が老後資金のイメージを持つことが重要

会社の仕事に関しては大変優秀で何でも知っている人が、自分の老後資金については何も知らない、という例は多いと思います。

まずは、老後資金について知り、考え、自分の老後資金が足りるのか否かを認識してもらう機会を作りましょう。足りているならば、無用な不安を感じる必要はありませんし、社員が不安から変な投資商品に手を出したりするリスクも軽減できるでしょう。

一方で、仮に足りていないなら節約する等々の対策が取れますから、どちらにしてもまずは事実認識が重要です。

まずは、社員を集めて以下の質問をしてみましょう。

自分が65歳になった時の貯蓄額はいくらくらいだか、わかりますか? 今の貯蓄残高と、今後の毎月の貯蓄額と、退職金の額と、退職から65歳までの収入と支出を考えればわかりますね。

65歳から年金生活に入ると思いますが、毎月の生活費と年金支給額の差額を貯蓄残高から引いて行くと、90歳時点で何円残る計算ですか?

計算してみたことがない、という方は、ぜひ一度、計算してみてください。90歳の段階で葬式代が残っているのか否か、というのが一つの目安ですね。「老後資金が不安だ」と言いながら、こうした計算をしていない人が多いと思いますから、ぜひ。

退職金、年金等々に関する説明会のススメ

社員に上記の計算をしてもらうために説明会を開催することは、社員の福利厚生として重要だと思います。

そして、計算の仕方がわからなかったり、本当に節約等々が必要な社員には、相談する専門家(ファイナンシャルプランナー、FP)を紹介しても良いでしょう。相談料を会社が負担したとしても、大した金額ではありません。

ボーナスを1万円増額したり家賃補助を1万円出したりするよりも、はるかに社員のためになることだと思いますよ。

ちなみに、説明会には配偶者も招きましょう。老後の生活設計は、夫婦が相談しながらでないと、一人で勝手に決めて良いものではありませんから。

NISA、iDeCoへの申し込みを奨励しよう

コストをかけずに社員の老後資金を充実させることができるならば、それは素晴らしいことです。その最たるものがNISAとiDeCoという投資優遇税制です。

会社は、制度を社員に紹介して申し込みを奨励するだけで、社員が支払う税額が大幅に安くなるわけですから、家賃補助よりはるかに効率的です。会社の懐を痛める代わりに税務署の懐を痛めるだけですから(笑)。

しかも、無理筋の節税対策や脱税等を伝授するのではなく、政府が「貯蓄から投資へ」という奨励のために作った制度ですから、社員にそれを活用させることについては、政府も悲しむどころか喜んでくれるはずです。三方一両の得なのです。

ただ、NISAやiDeCoの制度を説明してメリットを教えるだけでは、「今は忙しいから、暇になったら手続きしよう」という社員が多いかもしれません。

そうだとすれば、会社が「背中を押してやる」ために、「NISAとiDeCoの口座を開設したら1万円の補助金を出す」といった対策が有効かもしれません。

繰り返しますが、こうした補助金も家賃補助等の1万円よりはるかに効率的な金の使い方だと思いますよ。

社員に少額の投資をさせよう

NISAやiDeCoほど本格的なものでなくても、社員に1万円の株式投信を買わせるだけでも金融教育としての意味があります。投資というものに慣れさせる、株価の動きが合理的でないということを学ばせる、といったメリットが見込まれるからです。

とりあえず1万円だけでも購入しておけば、後日それを増額して老後のための投資を行う際の心理的なハードルも下がるでしょう。

これも、購入した社員には1万円の補助金を出すことで「背中を押す」という選択肢を検討しましょう。安上がりでコストパフォーマンスの良い金融教育になるはずです。

ちなみに、これは会社にとっても大きなメリットがあるかもしれません。1万円でも株式投信を持つと、株価が気になって社員が毎日経済ニュースを読むようになるからです。仕事にもよるでしょうが、社員が経済ニュースを読むことが会社の仕事に役立つという場合も多いでしょう。

そもそも「投資が必要だ」という認識を持たせよう

日本人は、金融資産に占める銀行預金の比率が非常に高く、株式や外貨をあまり持っていないのが普通です。しかし、これは危険なことです。

現金や銀行預金は、安全資産だと思われていますが、インフレが来ると目減りする「リスク資産」なのです。

毎年1%のインフレでも、30年で30%の目減りになります。あるいは、大災害が起これば物価が高騰してしまう可能性もあります。そうなれば、何千万円も預金があっても老後の生活は安泰とは言えなくなってしまいます。

現金も株式も外貨もリスク資産なのですから、リスクを分散するために3種類の資産をバランスよく持つことが重要なのです。

社員向け説明会は4部構成で

社員向けの説明会は、以下のような4部構成ではいかがでしょう?

第1部は、退職金や企業年金、定年後再雇用制度等々について、人事部から社員向けに説明します。各自に老後資金の基礎となる生涯所得のイメージを持ってもらうためです。

第2部は、公的年金の仕組みの解説や、「2千万円報告書」に関する解説、等々です。「普通のサラリーマンは、退職前日に住宅ローンと金融資産が見合っていれば、何とかなる」といったことを理解してもらいましょう。

投資の必要性に関する説明等も重要ですね。「預金はインフレに弱いリスク資産であるから、分散投資として株や外貨も持つ方がむしろ安全だ」といった内容です。

第3部は、夫婦が各家庭の老後資金のシミュレーションをして、専門家に相談したり質問したりするコーナーです。会場にはFPに来てもらいましょう。

第4部は、当日でなくても良いのですが、NISAやiDeCoの申込書を記入する時間としましょう。これは、「どうせ書類を自宅に持ち帰ったら記入しないから」ということですね。背中を押すことも重要なのです。

余談ですが、筆者がこうした社員向け説明会の開催を説いていることを知って、第2部の講師を依頼してくださった会社があります。ありがたいことです。会社と従業員のためになり、国策にも貢献できるのは光栄なことです。よろこんで。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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