“ウナギ神話”が根強い理由をアナゴと比較して考えてみた
LIMO / 2019年7月5日 20時20分
“ウナギ神話”が根強い理由をアナゴと比較して考えてみた
どちらも漁獲量激減が心配
今年も夏本番の7月に入ったものの、沖縄地方を除くと梅雨明けもまだ先になる見込みで、「もう暑くて暑くてやっていられない!」という日は少ないようです。また、大雨に見舞われた地域も多く、早く夏らしい気候になってほしいと願っている人も多いでしょう。
最近は価格高騰のウナギ、代替魚も登場
さて、7月に入ると世間が盛り上がってくるのが「土用の丑の日」。今年は7月27日ですが、土用の丑の日といえばウナギ。栄養豊富なウナギを食べて夏本番を乗り切ろうという、江戸時代に始まった風習です。
しかしながら、近年はウナギの流通量が激減しているのはご承知の通りです。供給不足から価格も高騰しており、一部の輸入品を除くと、庶民の食べ物としては高嶺の花になりつつあるようです。確かに、昨年から養殖ウナギの生産量増加等による流通量増加で一時の“狂乱価格”は脱したものの、劇的な改善には程遠い状況と言えましょう。
一方、こうした事情を背景に、ウナギの代替食品(代替魚)も登場しており、ナマズやパンガシウス(注:東南アジア産の白身魚、ナマズの仲間)などがスーパーの売り場にも並んでいます。食した人の感想によれば、ウナギの味とよく似ており、言われなければ分からないとの評判も少なくないようです。
ところで、ウナギに近い食材として、穴子(アナゴ)を思いつく人は筆者だけではないでしょう。味は明らかにウナギと違いますが、見た目はよく似ています。それに、ウナギに負けず劣らず美味しいですし(注:筆者の感想です)、栄養分も高いような印象があります。にもかかわらず、ウナギの代わりに食するという話をあまり聞きません。
なぜでしょうか。そこで、「穴子の日」でもある7月5日を迎えるにあたって、その背景を考えてみます。
そもそも、アナゴとはどういう魚なのか?
アナゴは「ウナギ目アナゴ科」に属する魚類の総称です。ウナギによく似た細長い体型の海水魚で、食用や観賞用に利用される種類を多く含んでいます。その種類は意外に多く、150種類以上あることが知られています。
ただ、私たちが“あー、美味しい”と食べるアナゴは、浅い海の砂泥底に生息している「マアナゴ」と見ていいでしょう。なお、ここから先は、注記のない限り「アナゴ」=「マアナゴ」とします。
さて、アナゴの特徴を理解するには、見た目がよく似ているウナギと比較するのが分かりやすいかもしれません。
両方とも同じ「ウナギ目」に属しますが、ウナギは「ウナギ科」、アナゴは「アナゴ科」であり、全然別物なのです。まず、生態の違いを見てみると、ウナギは降河性の回遊魚(海で産卵し、ふ化した後に淡水域に遡上して河川や湖沼で成長する魚)であるのに対して、アナゴは海水魚(その一生を海で過ごす)です。
したがって、基本的には、川や湖でアナゴが獲れることはありません(一部地域の河口周辺を除く)。また、養殖もほとんどありませんが、最近は研究が進んでいるようです。
ウナギに含まれる栄養分はアナゴを圧倒
そして、最大の違いは、その栄養分と味です。ウナギはアナゴの約2倍の脂質を有しているため、ウナギの方が高カロリーで“こってり”とした味がします。一方、アナゴは低カロリーで“さっぱり”とした味です。
また、栄養分では、ウナギはアナゴの約5倍にも上るレチノール(ビタミンA)を含み、ビタミンB1、B2、D、E、カルシウムなどもウナギの方が断然多いことが分かっています。さらに、近年話題になっているEPA(血液中のコレステロール減少に効果があるとされる)やDHA(脳の活性化に有効とされる)も、ウナギの方が多いことが判明しています。
こうして見ると、栄養分ではウナギに軍配が上がります。土用の丑の日の夏バテ予防効果という観点では、少なくとも、アナゴよりウナギを食べる価値の方が高いことは間違いないでしょう。
アナゴの漁獲量も激減、直近23年間で約4分の1へ
さて、近年はウナギ(注:正確には「ニホンウナギ」)の稚魚が激減したため、ウナギの流通量も大幅減少となり、その結果として価格高騰となっているのは前述の通りです。しかし、アナゴに関しては、同じような品不足や価格高騰のニュースをあまり聞かない気がします。現在、アナゴの漁獲量はどうなっているのでしょうか。
結論から言うと、アナゴの漁獲量も激減しています。1995年に約1万3千トンあった漁獲量は、2018年には約3千500トン(速報値、前年比+100トン増)へ減少しました。23年間で約▲73%減ですが、この減少ペースは、同期間における全体の漁獲量の減少度合(同▲46%減)と比べても大きなものとなっています。
一方で、アナゴの輸入量(主に中国や韓国から)は増えている模様であり、駅弁、回転寿司などで使われるアナゴは、その大部分が輸入品と考えられます。
ウナギの消費市場規模は激減してもアナゴの6~7倍以上ある
こうした状況にもかかわらず、ウナギに比べて、アナゴの品薄に関するニュースが少ないのは、市場規模と嗜好の差なのでしょうか。ちなみに、輸入品(注:加工品を含む)を含めた年間のウナギ生産量(=ほぼ消費量に近い)は2018年実績で約4万8,410トンあります。この数字は、9年前(2007年実績)の半分以下の規模です。
一方、養殖がほとんど実施されていないアナゴを同じベースで換算することは難しいですが、前述の漁獲量3千500トンに輸入品を含めても、高々7千~8千トンでしょう(筆者推計)。市場規模としてはウナギの約6分の1~7分の1と推察されます。これだけ市場規模が小さければ、品薄のニュースが少ないのも仕方ないことかもしれません。
やはり、日本人には“ウナギ神話”が根強く残っていると言うのは言い過ぎでしょうか。今一度、アナゴのおいしさも見直したいところです。
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