「働くと年金が減る」は本当か? 在職老齢年金制度は廃止すべし
LIMO / 2019年7月14日 20時15分
「働くと年金が減る」は本当か? 在職老齢年金制度は廃止すべし
働くと年金が減る制度(在職老齢年金)は廃止が当然だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
働くと年金が減る制度が存在
在職老齢年金という制度があります。60歳以上の労働者が、働いて一定以上の金額を稼ぐと受け取れる年金額が減ってしまう、という制度です。
ちなみに、この制度はサラリーマン(男女を問わず、公務員等も含む。以下同様)に関するもので、自営業者等には無関係ですので、本稿としてもサラリーマンについて記すこととします。
大雑把に言えば、「65歳までは、給料プラス年金が月額28万円を超えたら、超えた分の半分を減額する」「65歳からは、給料プラス年金が月額46万円を超えたら、超えた分の半分を減額する」というものです。
「収入の高い人は年金が少なくても大丈夫だろうから、限られた年金の原資を必要とされる人に優先的に届けよう」という趣旨だとされています。給料のみで生活している現役世代との公平感、という観点もあるようです。
制度の趣旨はわかりますが、この制度は高齢者が働く意欲を削ぐという問題があります。
日本経済の現状を考えると、これは望ましいこととは言い難いので、政府が廃止を検討しているというのは当然のことでしょう。ぜひ、廃止して欲しいものです。
失業が問題だった時には、良い制度だったかも
日本経済は、バブル崩壊後の長期低迷期、失業に悩み続けて来ました。それ以前も、安定成長期には景気対策が頻繁に講じられていたことを考えると、やはり失業が問題だったと言えるでしょう。
現役世代が失業に悩んでいるのであれば、高齢者が働くことは現役世代の仕事を奪うことになりかねないため、「高齢者は働かないでほ欲しい」ということになるでしょう。
もちろん、高齢者も収入や生きがいが欲しいのでしょうが、それによって現役世代が失業してしまうことを考えると、少ない仕事を取り合うなら、現役世代に譲って欲しい、と考えるのが自然でしょう。
しかし、時代は変わりました。今や、少子高齢化で労働力不足となり、高齢者にも働いてもらうことが望ましいという時代になったのです。そうであれば、高齢者の働く意欲を削ぐような制度は廃止すべきです。
人生100年時代にふさわしい制度を
人生100年時代という観点からも、在職老齢年金制度は廃止すべきです。55歳まで働いて70歳くらいで他界するのが普通だった時代と、100歳まで生きるのが普通になる時代では、働き方も当然変わるはずですから。
サザエさんの登場人物である波平氏が54歳という設定ですから、波平氏より元気な高齢者は当然に70歳くらいまで働くべきなのです。それを阻害するような制度は有害です。
高度成長期、農村から都会へ出て来た金の卵達は、15歳から55歳まで40年間働きました。人生の半分以上は働いていたわけです。農村に残った親達は、定年がないので、もっと働いたことでしょう。
それを考えれば、人生100年時代に20歳から70歳まで50年間働くのは当然のことです。60歳で引退して40年間も税金と年金に食べさせてもらおうというのでは、制度が成り立ちません。
個々人としても、人生の半分は働いて稼ぐ必要があるでしょうし、日本経済全体としても国民の半分は働いて物を作り、税金と年金を納めていることが必要でしょうから。
これからは、「70歳まで働いて税金と年金を納め、70歳から年金を受け取る」のが普通になると思いますし、そうなるべきでしょう。
したがって、一歩譲って在職老齢年金の制度を残すとしても、「60歳以上ではなく、70歳以上のサラリーマンが、働いて一定以上の金額を稼ぐと受け取れる年金額が減ってしまう」、という制度にすべきです。
国民の制度への誤解を解く努力も
制度自体の廃止が望ましいことは当然として、それまでの間は、国民が制度を正しく理解するように努めることも必要でしょう。
そもそも年金の制度を正しく理解している国民は多くないと思いますが、在職老齢年金制度についても「高齢者が働くと損をしてしまうから、働くのはやめた」という高齢者が少なくないと聞きます。
専業主婦のパート収入が年間130万円に達すると、突然社会保険料負担が発生して、身入りが減ってしまう「130万円の壁」のような場合には、その直前で働くのをやめるという選択肢もある意味で合理的ですが、在職老齢年金はそうではありません。
「一定水準以上に稼ぐと、追加で稼いだ分の半分しか身入りが増えない」というだけで、身入りが減ってしまうことはありません。したがって、「追加で稼いだ分は半分しか身入りにならないが、働かないよりは身入りが増える」のです。
そこをしっかり国民に周知することが重要でしょう。
本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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