次世代蓄電池の大本命?リチウム硫黄電池がついに実用化
LIMO / 2019年7月23日 6時0分
次世代蓄電池の大本命?リチウム硫黄電池がついに実用化
ドローン、無人飛行機、EVなどに搭載
本記事の3つのポイントの見出し
次世代蓄電池として、リチウム硫黄電池に注目が集まっている。低コスト・高いエネルギー密度が魅力
一方、最大の課題がサイクル回数。携帯電話やEVで採用は現状では難しく、用途が限られる
英オックスフォードに本拠を構えるOXIS Energyなどが工場建設を進めるなど、実用化に向けた動きが活発化
現行のリチウムイオン電池(LiB)を代替する様々な種類の次世代蓄電池の研究開発が進められており、一部はすでに製品化されている。このなかで、大きな期待を集めているのがリチウム硫黄電池(LiSB)だ。低コスト化、それにLiB以上の高エネルギー密度化が実現できるからだ。OXIS Energy(英オックスフォードシャイア)のように生産計画を進めているメーカーもある。最大の課題である少ないサイクル回数さえクリアされれば、実用化に拍車がかかる可能性が高い。
次世代蓄電池の最有力候補が全固体電池(半導体系、高分子系、LiB系など)で、スマートフォン、掃除機、電気自動車(EV)などで搭載されている。2019年中にはノートPCへの導入もスタートする見込みだ。他方、ナトリウムイオン電池も電動バイク、電動自転車、EVなどに搭載されている。
調査会社の㈱富士経済(東京都中央区)によると、17年における次世代蓄電池市場は21億円だが、35年には17年比1334.6倍の2兆8026億円に拡大すると予測している。
LiSBは、正極活物質に硫黄、負極にリチウム金属を採用した蓄電池だ。充放電は硫黄とリチウムの酸化還元反応で行われる。具体的には、放電時は負極でリチウムが酸化・溶解し、正極で硫黄が段階的に還元され、反応中間体である複数種の多硫化リチウム(リチウムポリスルフィド)を経て硫化リチウムに還元される。一方、充電時は、負極でリチウムイオンがリチウム金属に還元・析出し、正極で硫化リチウムが硫黄へ酸化される。
電解質としては、LiB同様に有機溶媒を用いた電解液をはじめ、固体電解質やイオン液体などが検討されている。
国内では国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の産官学プロジェクト「先端的低炭素化技術開発 次世代蓄電池(ALCA-SPRINGS)」で研究開発が活発に行われている。具体的には、電解液を使ったタイプを「正極不溶型リチウム―硫黄電池チーム」(チームリーダーは横浜国立大学 教授の渡邉正義氏)、固体電解質やイオン液体を「全固体電池チーム」(同大阪府立大学 学長の辰巳砂昌弘氏)で実施している。
低コストと高エネ密度を両立
LiSBのメリットの1つが低コスト化だ。正極の硫黄は資源的に豊富で、安価に調達できる。日本は火山国であることから容易に調達できるが、それ以上に大量に輸入している原油の精製過程で脱硫して得られる硫黄が大量にある。硫黄は工業的にはタイヤなどゴムの加硫にも使われているが過剰であり、硫酸などを製造して中国などに輸出している。ただし、これら以外で硫黄を有効かつ大量に消費する用途は少ない。コストも10円/kg程度と安い。
これに対し、LiBはリチウム、コバルトやニッケルなどの希少金属を使っており、今後EVが本格的に普及すれば資源的に足りなくなると言われている。リチウムは南米のチリやボリビア、中国、オーストラリア、コバルトはコンゴに偏在している。政情が不安定な地域も多く、調達価格も変動しやすい。なお、ナトリウムイオン電池もナトリウムが海水に含まれているため、低コスト化には有利だ。
次に、エネルギー密度が高い点が挙げられる。硫黄正極の理論容量は1672mAh/gであり、LiB正極のコバルト酸リチウムの137mAh/gを大きく上回る。電圧はLiBより低いものの、理論エネルギー密度は2500Wh/kgに達する。現状、高性能LiBが200Wh/kg程度であるから、ポテンシャルは極めて高い。ただし、現状では300~500Wh/kg程度となっている。
また、難燃性の電解質を用いるため高い安全性を確保する。そのため、LiBが適用されている消防法が適用されない可能性がある。これにより、定置用電源であれば設置場所の自由度が上がる。
課題はサイクル回数
一方、LiSBの最大の課題がサイクル回数だ。要因は様々だが、その1つに多硫化リチウムが電解液に溶解することにより電極活物質が失われ、かつ副反応が起きることが考えられている。また、電極の膨張・収縮を繰り返すことによる劣化も指摘されている。先述の「正極不溶型リチウム―硫黄電池チーム」では、難燃性のイオン液体や溶媒和イオン液体を採用し、それまでの数百回から800回程度まで向上させることに成功した。
用途は携帯用機器、ドローン、EV、定置用電源などが考えられる。現状ではサイクル回数がLiBほど高くないため、携帯用機器やEVでは厳しいと言われている。一方、海外ではドローンや無人飛行機などの電源として開発が活発だ。
OXIS、LiSB・材料工場を建設
OXISは、LiSB工場をブラジル・ベロホリゾンテ、LiSB電池用材料工場を英ウェールズに建設する計画だ。前者では22年に完了するフェーズ1投資で年産200万セルとする予定。また、20年代中ごろに同500万セルに拡大する計画。現状、エネルギー密度は400Wh/kgだが、19年中に500Wh/kgに向上させていく。また、サイクル回数は数年以内に500回程度とする。一方、材料工場は正極材および負極材、電解質を生産し、LiSB工場に供給していく。
また、LiSBは電圧2.1V、容量20Ahに対応し、高エネルギー密度タイプとハイパワータイプの2種類を製品化する。前者はエネルギー密度500Wh/kgで、ドローン、無人飛行機、高高度疑似衛星(HAPS)といった用途を想定している。後者は同400Wh/kgで、EV、それに垂直離着陸航空機(electric vertical take-off and landing aircraft)といった用途に対応する。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也
まとめにかえて
全固体電池などを筆頭に開発競争が激化している次世代蓄電池。そこにまた1つ有力候補が現われました。日本国内の蓄電池開発プロジェクトにおいても、リチウム硫黄電池は全固体電池と同格に扱われ、プロジェクトチームが発足しています。資源的に豊富で、かつ安価な硫黄を正極材に用いているため、低コスト化しやすく、また高いエネルギー密度も魅力の1つです。英オックスフォードでは専業メーカーが立ち上がるなど、産業化に向けた動きが活発化しています。日本国内においては今のところ、次世代蓄電池という面では全固体電池に対する期待が高まっていますが、今後はリチウム硫黄電池に対する取り組みも注目していきたいところです。
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