日本郵政という”国営企業”の教訓を、民営化が始まるウズベキスタンで考える
LIMO / 2019年8月10日 21時45分
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日本郵政という”国営企業”の教訓を、民営化が始まるウズベキスタンで考える
シルクロードの中央に位置するウズベキスタンでは、最近、ホットな話題は国営企業の民営化です。一方、日本からは連日、かんぽ生命の「不正販売」のニュースが聞こえてきます。そのような中で、日本郵政という日本の国営企業の不祥事からどんな教訓が得られるだろうかという疑問が湧いてきました。
今回は、日本郵政の事例を参考にし、ウズベキスタンの経済移行プロセスの中で取り組まれる「国営企業の民営化」をどうしたら成功に導けるか考えてみたいと思います。
国営企業の民営化に向けて始動するウズベキスタン政府
タシケント証券取引所には609社の上場企業がありますが、そのうち政府が182社(株式発行額では証券市場全体の83%)の大株主となっています。証券市場全体の時価総額は約18億ドル(GDP比5%)とわずかで、売買も活発ではありません。
上場企業の時価総額トップ20社には13社の銀行がランクインしていますが、銀行セクターでも国有銀行13行が市場を独占し、銀行セクター全体の総資産の85%を占めています。
組織的には復興開発基金や国家資産管理庁があり、それらが国営企業の株主となっています。ちなみに復興開発基金はウズベキスタン国家財政の特別勘定ですので、日本の財政投融資に似ています。
2017年以降、ミルジヨーエフ大統領が市場経済化を進めるべく構造改革を行っていますが、今、大きな話題は国営企業の民営化です。
最近の動きとしては、政府が現実的な民営化プランを策定し、先日、国営企業33社の政府保有株の放出を打ち出しました。対象のセクターは農業、建設、建設資材、電力、運輸、水力発電、貿易等、多岐にわたっています。
銀行セクターでも、政府から国家資産管理庁に対して5銀行の政府保有株を一部売却せよとの指示が下りたようです(出所:7月19日付けタシケント・タイムズ紙)。
かんぽ生命の「不正販売」から見える組織の問題
かんぽ生命の「不正販売」と言われている問題は具体的にどんな事象でしょうか。新聞報道によれば、次のようなケースがあった可能性があります。
保険料の二重払い:新契約を締結してから6カ月以内に旧契約を解除すると乗り換えと見なされ営業成績にカウントされないので、6カ月が経過した後に解約させた。
無保険:旧契約の解約から3カ月以内に新契約を結んだ場合は乗り換えと見なされるので、3カ月経過してから新契約を結ばせた。当該3カ月間は無保険状態。
無駄な新契約:特約の切り換えで済むのに新契約を結ばせた。
当面、経営陣が2,900万件の全契約を対象に手紙や訪問などで契約内容の確認を行う方針を打ち出していますので、事実がどうだったかはその結果を待ちましょう。
ただ、日本の高齢者は郵便局を「お役所」と思っていて、郵便局員に言われるがままに契約する人が少なくないでしょうから、「不正販売」とは、それにつけこんだ個人的または組織的な戦術です。
金融商品の販売手数料が収益の柱だとすればノルマがきつくなるのは当たり前ですが、経営陣が「不正販売」以外の販売戦略を見出せなかったとしたら、あるいは、「不正販売」に手をそめてしまう社員を見過ごしていたとすれば、とても残念な組織です。
日本の上場企業のコンプライアンス水準は、その程度のものだったのだろうかと若干心配になりますが、それとは別に本件では日本郵政という組織の特殊性に着目する必要があるでしょう。
日本郵政は玉虫色の民営化という失敗例か
日本では、歴史的に社会主義的なシステムがうまく機能してきましたが、その代表例は官僚が管理する財政投融資という巨大システムです。先述のように、ウズベキスタンにおける復興開発基金に似ています。そんな日本の財政投融資の中核にあった郵便貯金が民営化され、日本郵政は2007年の郵政民営化以来8年をかけて2015年に上場を果たしました。
しかし、その民営化は中途半端なものだったようです。端的に言えば、そもそもユニバーサルサービス(地域によって格差のない公平なサービス提供)という公共的義務を維持しながら(現時点で株式の政府保有比率は57%)、民間上場企業として利益最大化を目指す、という二律背反の目標設定に無理があったのではないでしょうか。
本当に公共性が重視される分野であるならば、それは政府部門の役割ですので、株式上場などさせずに国営企業として政策的使命を全うさせるべきだったのかもしれません。
現実に、中途半端に民営化された官業組織のガバナンスやコンプライアンスはどうあるべきか、とても難しい問題です。
ガバナンスについては、上場企業であっても市場からの監視に制約があるので監督官庁の監視体制のあり方がポイントになるでしょう。
また、コンプライアンス面では、単に関連規程を整備して形式的に「法令遵守」を求めるのではなく、顧客が「お役所」と誤解している、役職員に「親方日の丸」感が残っている、といった特殊実情の中で適正な販売を確保するには、契約・社内決裁手続きを慎重に再検討する必要がありそうです。
日本郵政の民営化が成功だったか失敗だったかは長い歴史が証明するでしょうが、2007年の郵政民営化から約12年が経過したのに、また今回のような不祥事が発生したので、そう楽観はできそうにありません。
日本郵政が示唆する教訓
さて、ウズベキスタンのような経済移行国では国営企業の民営化は中心的な政策課題ですが、当面、株式上場、政府持株比率の低減、ガバナンス・コンプライアンス関連規定の整備等、形式的な措置だけでなく、経営陣、収益モデル、ガバナンス・コンプライアンス等に関して事前に議論を尽くす必要がありそうです。
日本郵政のように、いちいち政権交代や与党内の議論に大きく左右されるような官業組織では「経営」は容易ではありませんから。
今回の日本郵政の事例で教訓があるとすれば、たとえ株式上場を果たしても官業組織において二律背反で達成困難な目標設定をすれば、「親方日の丸」感を引きずった役職員に愚かな行動を促してしまうリスクが高まるということかもしれません。
今後、ウズベキスタン国営企業の民営化について考える際は、基本に立ち返り、公共性が重視されるべき分野ではないか、あるいは民営化後の収益モデルが持続可能かどうかの見極めが大切になろうかと思います。
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