【かんぽ不適切販売】メガバンク勤務経験者が指摘する、「ノルマ至上主義」だけではない問題の本質
LIMO / 2019年8月10日 20時50分
【かんぽ不適切販売】メガバンク勤務経験者が指摘する、「ノルマ至上主義」だけではない問題の本質
かんぽ生命が日本郵便を通して販売した保険と、ゆうちょ銀行が販売した投資信託で、多くの不適切販売が確認されています。
日本郵政グループは民営化以降、より収益性が求められる一方、超低金利の中で収益環境は悪化。生命保険や投資信託の新契約による手数料収入に注力した結果、過重なノルマ主義に陥りました。
日本郵政グループの不適切販売
今回の不適切販売について、問題を整理します。
かんぽ生命では、主に、旧契約を解約し新契約を結ぶ「乗り換え」取引において、18万件を超える不適切販売が発生しました。
かんぽ生命では、旧契約を解約してから3カ月以内に新契約をした場合や、新契約を結んでから6か月以内に旧契約を解約した場合を、「乗り換え」取引と定義し、純粋な新契約よりも営業成績上の評価を減ずる仕組みとしていました。
そのため、営業担当者は「乗り換え」取引に該当しないよう、旧契約を解約後3カ月超えてからの新契約の締結(旧契約と新契約の間が「無保険」状態)や、新契約後6カ月を超えるタイミングでの旧契約の解約(旧契約と新契約の「二重払い」)を推進しました。
他にも様々な問題のある取引が指摘されていますが、さらに、これらの取引の多くが、「高齢者」を契約者とするものであったことが問題視されています。
また、ゆうちょ銀行では、直営店での「高齢者」への投資信託の販売について、契約件数の約4割で社内ルール違反が見つかりました。ゆうちょ銀行では、高齢者には、勧誘時と販売時に健康状態と金融商品の理解度などを確認するルールになっていましたが、それが遵守されていないケースが多々ありました。
「乗り換え」取引と「高齢者」取引
金融商品の販売において、「乗り換え」と「高齢者」は要注意の二大キーワードで、どの金融機関においても厳しいルールが制定されています。親族の同席、上司の同席、複数回の面談、損益状況や手数料の詳細な説明など。
また、本部から不適切な販売をモニタリングする仕組みが作られ、営業成績として認められるために厳しい条件がクリアされなければならない(ほとんど認められない)などの規制があり、営業担当者にとって、苦労が多い一方でインセンティブが少ない取引になりつつあります。
また実際に、株式や投資信託は、市場動向の変化などにより顧客の運用方針が変わり、結果的に「乗り換え」取引に繋がることはあります。しかし長期保有を前提とする保険では、大きなライフステージ上の変化がない限り、「乗り換え」取引が発生することは滅多にありません。
さらにこの超低金利の中、同種の保険において、旧契約より新契約の方が好条件となることも考えにくいです。むしろ過去の利回りの高い保険は「お宝保険」と呼ばれ、本来、重宝されるべきものです。保険の「乗り換え」取引の多くは、合理性が乏しいと言えます。
メガバンクに比べ周回遅れの顧客本位
私は、メガバンクで2005年から約12年間勤務しましたが、営業ノルマに対する姿勢は、当初、非常に厳しいものがありました。
営業現場では、「数字が人格である」と言われ、営業成績は、昇進・配置などの人事や、給与にも大きく影響しました。金融機関での営業を経験した人間なら、程度の差こそあれ、一度は「ノルマ達成と顧客本位の狭間」で揺れた瞬間があったと思います。しかしながらメガバンクでは、こうしたノルマ至上主義的な営業姿勢は、もはや過去のものとなりつつあります。
銀行は、かつては集めた預金を貸し出しに回し、預金金利と貸出金利の利ざやで収益を上げてきました。その後、「日本版金融ビックバン」の一環で、1998年に投資信託、2001年に保険の販売がスタートし、超低金利時代の到来も相まって、手数料収入の見込める金融商品(投資信託・保険)の販売に注力するようになりました。この頃はまだ、ノルマ至上主義的な営業姿勢が色濃く残っていました。
ところが、銀行が販売する金融商品に対する苦情件数が増大し、旧態依然とした販売姿勢が社会問題化。
その流れの中で、りそな銀行・三菱UFJ銀行・三井住友銀行が、個人営業における販売額のノルマ撤廃を発表するなど、少なくともメガバンクにおいては、現在、顧客本位を徹底するとともに、ノルマ至上主義的な営業体制から脱却する流れにあります。
一連の報道後、かんぽ生命でも、2019年度の営業目標や販売員のノルマの廃止が発表されました。メガバンクからは周回遅れと言わざるを得ない、日本郵政グループの体制が明らかになりました。
日本人の「お金の話タブー視」と旧態依然とした経営体制
日本郵政グループの不適切販売について記述をしましたが、このような事象により、金融商品そのものが危険なものという印象を持たれてしまうことは本意ではありません。
とりわけ保険は、多くの人にとって必要な商品だと考えています。しかし、金融商品は複雑で難しいのもまた事実です。十分な説明を聞き納得の上で契約することが重要なのは言うまでもありませんし、できれば家族や信頼のおける方に相談するようにしてください。
日本人は、たとえ家族であってもお金の話をタブー視する傾向があります。日本人の持つ「お金は汚い」「お金儲けは悪いこと」というイメージは日本人の美徳でもありますが、一方で、それが金融リテラシーの低下につながってしまうのかもしれません。
お金の話を家族で共有し、お金について家族で学ぶ機会を作り、不適切販売から身を守っていただきたいと思います(もちろん、本来は不適切販売などあってはならないものですが)。
また日本郵政グループが体制を立て直し、顧客本位に舵を切り、信頼回復に努められんことを切に希望します。
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