クレイジー!? 毎月分配型投資信託の”世にも珍しい”仕組み
LIMO / 2019年8月19日 20時20分
![クレイジー!? 毎月分配型投資信託の”世にも珍しい”仕組み](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_12766_0-small.jpg)
クレイジー!? 毎月分配型投資信託の”世にも珍しい”仕組み
待ったなし、日本人の金融リテラシー向上
前回、日本の貿易赤字が減少しているという話を書きました(『日本の貿易黒字が減少中。これはヤバイ!?(https://limo.media/articles/-/12634)』)。日本は既に製造輸出立国ではなく、消費と資本輸出でやっていかなければならなくなっていますが、その上で日本人として持っておかねばならないものがあります。それは、金融リテラシー(金融知識)です。
アメリカ人が”クレイジー”と言う毎月分配型投資信託
先日、日本の投資信託市場に関して教えてほしいというアメリカ人に、アドバイスする機会がありました。彼は、かつてよく売れていた米国リート(不動産投資信託)で運用する日本の投資信託の残高が半減しているのはなぜか?という疑問を持っていました。
以下はそのやりとりです。
*****
私:確かに3〜4年前まで、毎月分配型投資信託は分配金利回りが年率20%を超えていたため個人投資家にはよく売れた。もっとも米国リートの年間配当利回りはせいぜい4〜5%。分配金利回りと投資対象である米国リートの配当利回りとの差(15〜16%)は、投資信託の“元本”から支払われている。ほとんどの個人投資家はその仕組みを知らないので、米国リート投信を“打ち出の小槌”と勘違いしていた。
アメリカ人:ということは、基準価額はどんどん下がっていくのでは? それって運用なのか?
私:指摘は正しい。だから、設定当初の基準価額(投資信託の価格)は10,000円だったが、今では2,000円台から3,000円台にまで下がっている。元本を払い出し続けた結果だ。
アメリカ人:それはサステイナブル(持続可能)なのか? そうは思わないのだが。
私:残念ながら、こうした投資信託は数年以内になくなるだろう。が、いまでも年間分配金利回りが15%以上の毎月分配型投資信託があるのが驚きだ。
アメリカ人:クレイジーだ。一体どんな運用会社がそんなことしているんだ。基準価額が溶けるのを運用方針としている資産運用会社なんてありえるのかね。
私:それが大手日系、外資系ともやっている。もっとも、まだ残高が大きいのは数社くらい。最近では、残高が増えている毎月分配型投資信託もあるので、状況はひどいね。
アメリカ人:誰がそんな投資信託を買うの? 日本人は金融知識がないのかな?
*****
筆者は何回もこうした説明をしてきましたが、なかなか資産運用先進国のプロにはわかってもらえません。仕組みとしては理解できても、投資家がなぜそんな不合理なことをするのかがわからないのです。
なぜ、元本を分配金として払えるのか
さて、世界でも珍しい元本を分配金として支払える仕組みですが、理屈はこうなります。図表1を見ていきましょう。
図表1:投資信託が元本を分配金として支払える仕組み
(/mwimgs/b/0/-/img_b0f1e6dd540a7ac7da17c12548d83650119048.jpg)拡大する(/mwimgs/b/0/-/img_b0f1e6dd540a7ac7da17c12548d83650119048.jpg)
この投資信託は基準価額が10,000円で設定(運用開始)されたとします。当初、投資家は1人(Aさん)だけだったとします(①)。この投資信託が1ヵ月後に11,000円に値上がりしたとします(②)。ちょうど決算と重なりましたが、この時点で新たな投資家Bさんが11,000円でこの投資信託を買ったとします(③)。
9月の決算時に分配金を払うことにしましたが、この投資信託は10,000円が11,000円に値上がりしたので、Aさんは値上がり分1,000円を分配金として受け取る権利があります。一方、Bさんは11,000円で買いましたので、本来分配金をもらう権利はありません。
しかし、日本の投資信託はAさんにもBさんにも平等に分配金をもらえる権利があるとの考え方に基づいて、値上がり益の1,000円はBさんにも分けてあげられるように会計上別勘定に入れて分配金を払えるようにします(1,000円を別腹に入れておく)。
こうすると、Bさんは1,000円をもらえるようになりますが、Bさんがこの投資信託を買ったときの価格(元本)は11,000円ですから、分配金は元本の払い戻しとみなされる非課税の分配金となり、分配金支払い後の新しい元本は10,000円になります(11,000円−1,000円)。
ちなみに、Aさんの分配金1,000円は値上がり益が原資ですから、きっちり所得税等20.315%を源泉徴収されます。手取りは796円ですね。
多少複雑だったかもしれませんが、ザックリ言えば、あとから投資信託を買った人が分配金もらえなかったらかわいそうだから、無理やり分配金を支払える仕組みを作ったらこうなったというところです。
常識を働かせれば金融リテラシーは身につく
そもそも年間リターンが、継続的に20%を超える金融商品なんてありません。株式の配当利回りはせいぜい2%程度、値上がり益は5〜6%程度ですから(米国の場合)、投資信託のトータルリターン(総合収益率)はせいぜい7〜8%です。
それに、タダで運用を引き受ける運用会社はありませんから、運用報酬が年間1〜2%かかるとすると、実質的なリターンは5〜7%程度におさまります。
このように、そもそも金融リテラシーを一生懸命勉強しなくても、株式の期待リターンさえなんとなくわかっていれば、分配金利回りが20%を超える投資信託がいかに異常かというのがわかろうというものです。
いまや金融商品はゴマンとあり、全てを網羅することは不可能です。そうした状況下、頼りになるのは自分自身の常識です。
「え! 利回り年50%?」、「だったら、販売担当者のあなたが買えばいいじゃない」、「なぜ、私を勧誘するのか」といった疑問が金融リテラシーを向上させます。
金輪際アメリカ人にバカにされないように、お人よしの日本人は全員で金融リテラシーの向上を図りましょう!
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