「死ね」「可愛すぎて死ねる」と軽く言える危うさ。言語感覚の歪みは深刻?
LIMO / 2019年8月18日 10時45分
「死ね」「可愛すぎて死ねる」と軽く言える危うさ。言語感覚の歪みは深刻?
今年2月、ステージ4の口腔癌(舌癌)を患っていることをブログで公表した堀ちえみさん。その後、新たに見つかった初期の食道癌も含めて2度の手術を行い、現在では容態も安定している様子がたびたび発信されています。
そんな中、6月には堀さんのブログに「死ね」「消えろ」などの誹謗中傷を書き込んだとして北海道に住む50代の主婦が書類送検されました。
「『死ね』なんてみんな書き込んでいるでしょう」
書類送検後に情報番組が取材をしたところ、その主婦は「『死ね』とは書いたけれども『殺す』とは書いていない。そもそも東京に土地勘がないから殺しになんて行けない。書き込んだ回数も何百回ではなく10回かそこら。『死ね』でも脅迫になると警察に言われて驚いたが、『死ね』なんてみんな書いている」と反論。
堀さんに対する謝罪の言葉や反省の色がまったくうかがえないその開き直った態度には、ネット上からも「こんな人が母親だなんて」と批判の声が殺到していました。
言うまでもなく「死ね」という言葉は「殺す」と同様に、直接言われても文字として見ても受け手は強い恐怖やショックを受けるものです。しかしこの主婦の言い分からは、「死ね」という言葉そのものをまるで「おはよう」「元気?」などの挨拶かのように軽く捉えていることがありありと伝わってきます。
「〇〇すぎて死ねる」という表現に対する違和感
「死ね」が脅迫や侮辱にあたるかどうかという法的な話以前に、人の死を軽く見なすような言葉が今はあまりにも氾濫していることがこの主婦の罪悪感のなさを培ってしまったのではないかと思います。
筆者が育った家では高校生の時まで、「バカ」「死ね」「殺す」といった言葉を言ったら罰金制度が設けられていました。人を侮辱したり貶めたり死を連想させたりする言葉は、思っても絶対に口に出してはいけないというのが母の考えでした。筆者の母は「言葉は人や物事を生かすこともできるし、殺すこともできる」という言霊を、筆者たち子どもにしっかりと教育したかったのでしょう。
そんな環境で育ち、言葉の力を信じている筆者。そのため、最近よく耳にする「〇〇すぎて死ねる」といった表現にはとても強い違和感を覚えています。この表現が怖いのは、「嬉しすぎて死ねる」といったように、「嬉しい」「可愛い」「楽しい」などのポジティブな状態において、より多く使われているように見受けられるからです。
「死」という言葉が持つ痛みや苦しみ、悲しみ、恐怖への感覚を鈍らせていること、そして何の疑いや違和感、拒否感も持たずにこの表現を発信している人がとても多いことに、ある種の絶望やおぞましさを感じているのは、きっと筆者だけではないでしょう。
言語リテラシーを失っている大人は何をもたらすのか
犯行直後に犯人が自殺した、5月の川崎殺傷事件。そして7月の京都アニメーション放火事件。昨今の凶悪事件を見るにつけ、犯人たちの理不尽な犯行動機には強い怒りを抱くとともに、こうした「死」に対する一般的な言語感覚も少なからず影響している気がしてなりません。
SNSやブログを通じて誰しもが自分の思いを文字にして発信できる時代だからこそ、大人子ども問わず、メディアリテラシーとともに言語リテラシーを育んでいかなければいけないはず。日本語やビジネスマナー用語を正しく身につける以前に、「死」を彷彿とさせる言葉への鈍感さにもっと目を向ける必要性に気付かなければいけないタイミングにきているのではないでしょうか。
戦争を知っている筆者の祖母。祖母が生前、当時小学生だった筆者に言っていた「戦争は怖いけど、戦争を知らないことも怖い」の言葉が思い出されます。
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