マイクロLED、日本企業が開発加速 ソニーに続いてシャープ、京セラも
LIMO / 2019年8月20日 20時40分
マイクロLED、日本企業が開発加速 ソニーに続いてシャープ、京セラも
「ポスト有機EL」の最右翼として期待を集めるマイクロLEDディスプレーで、日本メーカーの参入が目立ってきた。すでに超大型ディスプレーとして「Crystal LEDディスプレイシステム」を商品化しているソニーに続き、シャープと京セラが開発成果を公表。また、チップや製造装置についても各所で開発成果が上がっており、将来の産業化に向けて存在感が増していきそうだ。
日本は、液晶に続いてディスプレーの主流になりつつある有機ELに関し、研究開発で先行しながら、結局は量産競争で海外勢に大きく水をあけられた。マイクロLEDの技術開発は、今後もディスプレー関連産業が日本に残っていくのかを左右する重要なテーマといえるだろう。
シャープはモノリシック型で世界初のフルカラー実現
5月に米サンフランシスコで開催されたFPD(Flat Panel Display)の国際学会「SID」。ここにシャープは、0.38インチで1053ppi(Pixels Per Inch)のモノリシック型フルカラーマイクロLEDディスプレーを出展した。今後はAR(拡張現実)ヘッドセット用のディスプレーとして実用化を目指していく。
モノリシック型とは、サファイアやシリコンのウエハー上に形成した青色(もしくはUV=紫外)のLEDを、駆動回路となるシリコンバックプレーンに貼り合わせたタイプをいう。すでにLEDベンチャーの英Plessey Semiconductorsが独自の青色マイクロLEDを、協業先の台湾ジャスパーディスプレー製シリコンバックプレーンと組み合わせ、青色単色のディスプレーとして駆動させた事例はあるが、フルカラー化に成功したのはシャープが世界初となった。
シャープは、高さを揃えた片面電極構造の青色LEDをサファイアウエハー上に作り込んだ。サブピクセルのサイズは8×24μmで、赤・青・緑(RGB)で1画素24×24μmというサイズになる。これを切り出してシリコンのバックプレーン(駆動回路)に貼り合わせる。シリコンバックプレーンは0.18μmルールで設計・製造した。LEDの電極とシリコンバックプレーンの電極はAu-Auの熱圧着で接合した。接合後にレーザーリフトオフでLED薄膜チップをサファイアウエハーから剥離する。
赤色と緑色は色変換技術で出している。シリコンバックプレーンと接合したLEDチップ上に、青色を赤色および緑色に変換する量子ドット蛍光体層をフォトリソプロセスで形成した。この際、隣り合うサブピクセル同士のクロストーク(混色)を防ぐため、サブピクセル間にLight Shielding Wall(LSW)という側壁を作り込んでいる。LSWを作り込まなかった場合、色空間はsRGB比で6.0%にとどまるが、作り込むことで120.5%に高まる。
京セラはLTPSバックプレーンで中型を狙う
モノリシック型に対し、RGBのマイクロLEDチップを個別に作製し、これを駆動回路に載せ替えたものを「ボンディング型」と呼ぶが、これで1.8インチのフルカラーを実現したのが京セラだ。バックプレーンに低温ポリシリコン(LTPS)TFTを用いたため、産業用や車載用の中型ディスプレーを実現することも可能だ。1.8インチに256×256×RGBの画素を配置して200ppiを実現し、フレームレート240Hzを達成した。
バックプレーンのLTPSは、滋賀野洲工場にある550×650mmラインで開発した。マイクロLEDのバックプレーンには、超大型ディスプレー向けにプリント基板を用いるケースや、超小型ディスプレーとしてシリコン基板を用いるケースがあるが、最終的に20インチクラスまでのディスプレーを実現するなら、LTPSが最適と判断した。
京セラでは、2021年に産業用、認定作業に時間を要する車載用はそれより若干遅れて量産供給できるようにする方針。まずは少量でニッチなハイエンド用途から参入する。ヘッドアップディスプレーやCID(Center Information Display)、ウエアラブル用途に展開できる可能性があると考えている。
マイクロ・ナイトライドがUVチップを供給
一方、LEDチップに関しては、マイクロ・ナイトライドが波長385nmや400nmのUVマイクロLEDチップを供給している。同社はUV-LEDの量産で豊富な実績を持つナイトライド・セミコンダクターが母体となって設立した企業。このチップをFPD製造装置大手のブイ・テクノロジーが活用し、UVで蛍光体を励起してフルカラーを実現する独自のフレキシブルマイクロLEDディスプレー製造プロセスを開発済みで、海外企業からこの製造装置の受注にも成功している。
マイクロLEDチップと駆動回路を接合する際に課題となるのが、チップの強度や電極の配置、駆動電圧がRGBで異なる点だ。特に、赤色はGaAs(ガリウムひ素)ベースで製造されるため割れやすく、チップを小型化すればするほど発光効率が低下するといわれている。これに対し、UVマイクロLEDでフルカラーを実現する手法は、同一構造で同一スペックかつ強度も同じチップを使って色変換するため、実装工程のプロセスパラメーターを統一しやすいという利点がある。
製造装置ではFCボンダーメーカーに注目
ボンディング型マイクロLEDディスプレーの実現に不可欠なマストランスファー技術に関しては、日本のフリップチップ(FC)ボンディング装置メーカーが主導的な役割を果たすことになりそうだ。
LEDボンダー大手のTDKは、マストランスファーを実現するソリューションとして、①超高速・低発塵でLEDウエハーからNGチップを取り除くレーザー除去装置、②チップをキャリアに載せ替える整列機、③このキャリアでチップを駆動回路に載せ替える実装機を開発しており、近々にも販売を本格化する。
また、東レエンジニアリングも①光学式のウエハー外観検査装置、②NGチップを除去するレーザー加工装置、③FCボンディング方式のマイクロLED実装装置、④色変換する量子ドット材料の塗布に使用できるコーティング装置をラインアップしており、トータルソリューションの提供を目指している。
このほか、FPD用ボンダーで高いシェアを持つ芝浦メカトロニクスが、すでに納入実績のある試作装置から本格的な量産装置への開発を加速中。また、LEDチップの輝度や色度を分析する分光放射計や色彩輝度計をラインアップするトプコンテクノハウスなどもサプライチェーンに深く関わっており、量産プロセスの確立に寄与している。
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